「イオンモール」10年後はどうなる? 空き店舗が増える中で、気になる「3つ」の新モール

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2025年03月05日 06:21  ITmedia ビジネスオンライン

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イオンモールは大丈夫?

 地方にイオンモールができると、「にぎわい」が生まれる一方で「衰退」にも拍車がかかる。そんなシビアな現実を突き付けられた街がある。


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 長野県松本市だ。


 北アルプスや上高地という自然に囲まれ、国宝・松本城でも知られるこの地方都市に「イオンモール松本」ができたのは2017年のことだった。


 170の専門店の中には県内初出店となる「H&M」などもあり、若者から家族連れまで幅広い層が訪れて、すぐに「街のにぎわいの中心地」となった。筆者も開業後しばらくして訪れたことがあるが、あまりにも館内が混雑していて驚いたものだ。


 だが、このイオンモール周辺エリアの人口や、人々の消費能力には「限度」があるので、イオンモールがにぎわえばにぎわうほど、同一商圏内の商業施設は閑古鳥が鳴く。それでもなんとか頑張ってきたが、ここにきて続々と撤退や廃業に追い込まれている。


 まず2025年1月13日、「イトーヨーカドー南松本店」が閉店。2月28日には松本の流行発信地として若者に愛された「松本PARCO」も40年の歴史に幕を閉じた。そして3月末日にはJR松本駅前のデパート「井上百貨店」も営業を終了する。1885年(明治18年)に呉服店として創業してから松本の人々に長く愛されてきたランドマークが消えることを惜しむ声も多い。


 地元紙『信濃毎日新聞』によれば、イオンモール松本の周辺商店街や住宅街は空き店舗や空き家が増え続けているそうで、「にぎわい」は施設外まで波及していないようだ。


 さて、このような話を聞くと、地域の全てを吸い込むイオンモールのパワーに恐怖さえ感じる人も多いのではないか。ただ、実はそんなイオンモールでさえ「安泰」とは言い難いのが今の日本だ。


●稼げないイオンモールが増えている


 例えば、地方では「一強」として恐れられるイオンモールも大都市圏では、逆に「滅ぼされる側」となっている。同社はモールだけではなく、「都市型ショッピングセンター」も展開しているが、この分野は営業赤字が続き苦戦している。


 2025年8月には東京の「聖蹟桜ヶ丘オーパ」が営業終了、2026年1月には大阪の「心斎橋オーパ」も30年の歴史に幕を閉じる。


 本業のモール事業に関しても、決して安泰ではない。SNSでは近くのイオンモールのテナントがたくさん閉店しているという情報をよく見るが、それは「気のせい」でもない。イオンモールの2023〜25年中期3カ年経営計画の中には、このような「課題」が記されている。


「一部の施設においては変化への対応が十分ではなく、集客力および収益性の低迷によりキャッシュ・フロー創出力が低下しています」


 分かりやすくいえば、「かつてほど人が訪れず、テナントの家賃収入など収益も伸び悩むようになった“稼げないモール”が増えている」というワケだ。この問題を解決するため、イオンモールでは抜本的な事業構造改革を進めている。それが分かるのが「リニューアル数」だ。


 2024年には、国内で12のイオンモールがリニューアルしている。2025年も3月1日より「イオンモール橿原」が順次リニューアルオープン。7日には「イオンモール成田」、19日には「イオンモール伊丹」がリニューアルオープンを控えている。


 この背景にあるのが、「少子化」であることは言うまでもない。


●今、全国のイオンモールを支えているのは


 2024年、日本で生まれた子どもの数(外国人を含む出生数)は前年比5.0%減の72万988人。2014年は100万人だったので、この10年で30万人減った。


 ちなみに、国立社会保障・人口問題研究所が2023年に推計をしていた2034年の出生数は76万1000人なので、政府の想定をはるかに超えるスピードで、少子化が進んでいる。


 この「出生数30万人減」は、イオンモールのビジネスモデルを根底から破壊する恐れがある。


「メイン客層は主に休日に訪れる30〜40代の子育てファミリー。子どもの年齢は、未就学児約4割、小学生約4割です」(イオンモールの公式Webサイトより)


 「稼げないモール」が増えたとはいえ、それでもまだ地方で「一強」でいられるのは、休日になるとファミリー層が多く訪れているからだ。子連れの人々からすれば、ショッピング、食事、エンタメ施設やキッズスペースの充実しているイオンモールは、百貨店やイトーヨーカドーよりなんやかんやと居心地がいいのだ。


 しかし、今の日本はそのファミリー層が急激に減っている。出生数は2016年に100万人を割り込むと、90万、80万と落ち込んでついには72万人まできてしまった。子どもが急減するということはファミリー層も急減する。ここをメインターゲットとしていたイオンモールの集客力もガクンと落ち込んでいくことは言うまでもない。


 今、日本全国で百貨店やスーパーの閉店・廃業が相次いでいる。その原因の一つとされるイオンモールでさえ、あと10年やそこらで同じように大量閉店に追い込まれる可能性が高いのだ。


●イオンモールの生き残り戦略


 もちろん、天下のイオングループなので、このような未来をちゃんと見据えて、イオンモールの生き残り戦略を進めている。


 例えば、分かりやすいのは「インバウンド」だ。


 「おいおい、イオンモールに外国人観光客なんて来ないでしょ?」と笑うなかれ。実はイオンモールは、中国、ベトナム、カンボジア、インドネシアなど海外にも展開している。そこで、日本の観光スポットとセットで近くのイオンモールを紹介し、訪れてもらう取り組みを進めている。2025年2月期第3四半期決算では、観光地や空港近くのイオンモールで免税売上高が前期比約2倍に伸長している。


 日本人が減るのなら外国人を呼んでカネを落としてもらうしかない、という政府の観光戦略にも合致する取り組みなので手堅いともいえる。しかしながら、イオンモールは全国で145施設(2024年6月末時点)もあって正直、外国人観光客の動線上にない施設がほとんどだ。


 では、そういうイオンモールはどうすべきか。その答えは、これからオープンする施設にあるかもしれない。


 イオンモールは2024年度の新規開業がゼロだった。建築資材の高騰による採算悪化が主な理由とされたが、拡大路線をつき進んできたイオンモールからすれば、これはかなり異例で、新規オープンがない年は26年ぶりのことだという。


 そんな「空白の1年」を経てオープンをするイオンモールからは、これからの日本社会でどう生き残るか、そのビジョンが見え隠れしている。


●今後オープンする5つのイオンモール


 2025年秋から2027年春まで新規開業するイオンモールは5つ。東北エリアが「イオンモール仙台上杉」と「イオンモール伊達」「イオンモール郡山」の3つ。そして東京が「八王子インターチェンジ北」、長野が「イオンモール須坂」である。


 実はこの5つの中で、3つは高速道路のインターチェンジに隣接しており、1つは国道4号線「あさか野バイパス」という地域の交通物流を支える路線の入口にあるのだ。


 ここまでいえば、カンのいい方はお分かりだろう。人口が急速に減っていくこれからの日本で、イオンモールは単なるショッピングセンターではなく、「地域の物流拠点」の機能も兼ね備えることで、生き残ろうとしている可能性がある。


 実際、「イオンモール八王子インターチェンジ北」では、ネットスーパーを展開する「イオンネクスト」が出店し、そこに対応した物流機能を持つ顧客フルフィルメントセンター(CFC)を併設する計画を発表している。


 既にイオンモールでは商業施設に入るテナントを対象に、倉庫から店舗への商品配送を請け負うサービスを全国で始めている。ならば、もう一歩進んで、テナント企業に対して、通販用商品の保管、梱包、配送というフルフィルメント機能を提供するビジネスまで拡大していいのではないか。


 「バカバカしい」とあきれる人も多いだろうが、このように「ショッピングセンターの倉庫物流化」は、人口減少の日本では避けられない現象だろう。


●今後求められる店舗、物流、倉庫の「集約」施設


 ネット通販で「ポチる」ことに抵抗のない今の40〜50代が高齢化して、足腰が弱くなったり外出が面倒になったりすると、食料品や生活必需品など宅配の需要は右肩上がりで増えていく。しかし、トラックドライバーは人手不足なので、企業は物流拠点の集約化を進めていくしかない。


 つまり、これまでは各社でバラバラに倉庫で保管して、バラバラに運んでいたものを、効率良く保管、梱包、配送するために、地域内に巨大な物流センターを置き、そこに荷物やドライバーを集中させるのだ。もちろん、倉庫や梱包作業も省人化するため、アマゾンのような「ロボット倉庫」だ。


 ただ、その巨大なロボット倉庫が店舗から遠いとなると、効率が悪い。


 ドローンで荷物を運ぶような時代になっても、「リアル店舗で買い物体験をしたい」客は一定数いる。ショッピングというエンタメを楽しむためである。


 巨大なロボット倉庫とリアル店舗もなるべく近く、なんなら同じ建物内にあればベストだ。このような形で店舗、ロボット倉庫、配送センターという3つの機能が1つの建物内に集約したような施設が、人口減少の日本では必ず必要になってくる。


 ここまでいえばもうお分かりだろう。それこそが10年後のイオンモールの生きる道だ。


●米国の巨大ショッピングモールは今どうなっているか


 先ほど述べたように、これから若いファミリーはどんどん減っていくので、テナントの空きが増えていく。そのスペースをロボット倉庫や配送センターとして活用していく。ノルウェー発の「オートストア」のように、キューブ型のロボットストレージを積み上げるようなシステムを活用すれば、それほど広大なスペースは必要はない。実際、海外では店舗のバッグヤードにこのようなシステムを導入して「スマート倉庫」として活用するケースも増えている。


 つまり、人口減少ニッポンでイオンモールが生き残っていくには、これまでのテナント収入だけではなく、物流と「スマート倉庫」でも稼いでいくビジネスモデルの転換が求められるのではないか。


 「ショッピングモール」という形態が生まれた米国では国内がモールだらけになって、「デッドモール」などと呼ばれる廃墟化した施設もできた。しかし、一部ではアマゾンなど宅配・物流企業が「居抜き」として買い上げ、フルフィルメントセンターなどに再利用している。


 よく「米国の今は日本の10年後の姿」といわれる。もちろん、国民性や社会制度が違うので、全てに当てはまるものではないが、ショッピングモールに関してはかなり当たっているのではないか。


(窪田順生)



このニュースに関するつぶやき

  • イオンモールの弱点は日常使いに対して大きすぎる、が一番かな。それと店舗のテナントとして入れる体力がある企業(チェーン店)は限られており、結果どこも同じようになる。
    • イイネ!3
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