令和の今も残る絶滅危惧種「デパートの屋上遊園地」全6か所をめぐってみた。日本の“デパオク”文化は海外にも

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2025年03月06日 16:31  日刊SPA!

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東急プラザ蒲田にある「かまたえん」。象徴的な観覧車からはトレインビューや富士山の眺めも楽しめる。百貨店ではないが、首都圏で唯一残るレトロ屋上遊園地だ。写真:若杉優貴
 昭和の時代、デパートの屋上には「デパオク」として親しまれた屋上遊園地があった。しかし、少子高齢化や消費不況に加えて、建物の防災強化・耐震化工事や相次ぐ再開発などの影響もあり、年々その数を減らし続けている。
 今回は、令和になった今も営業を続けるデパートのレトロ屋上遊園地・全6か所(+α)をめぐってみる。

◆東急プラザ蒲田「かまたえん」(東京都大田区)

 東京で唯一のレトロ屋上遊園地があるのは大田区蒲田。JRと東急の蒲田駅に直結するショッピングセンター「東急プラザ蒲田」の屋上(8階)にある、その名も「かまたえん」だ。

 東急プラザ蒲田は1968年11月に開業、当時の屋上遊園地の名称は「プラザランド」。現在の屋上遊園地はバンダイナムコアミューズメントが運営しており、2014年にリニューアルした際に「かまたえん」と命名された。

かまたえんによると、都内唯一の屋上観覧車は2014年のリニューアルの際に撤去も検討されたが、「シンボルの屋上観覧車を残して欲しい」との声が多く寄せられ、存続が決まったという。

 現在、観覧車以外の動く屋外有料遊具は東急の電車などをかたどった乗り物「エコライド」だけで、大型遊具は少ないものの、超高層ビルが少ない蒲田ゆえ、観覧車からは大田区の街並みや行き交う電車、さらに晴れた日には富士山までも望むことができる。

都内唯一となった小さな屋上観覧車は、今後も隠れた絶景スポット、そして蒲田のシンボルとして親しまれ続けるだろう。

◆松坂屋名古屋店「屋上遊園」(愛知県名古屋市中区)

 今年(2025年)3月2日、久々に復活した屋上遊園地がある。それが松坂屋名古屋店(本店)にある「屋上遊園」だ。

 もともと松坂屋名古屋店の屋上遊園の歴史は、1910年にいとう呉服店(松坂屋)の栄移転新築に合わせて、屋上庭園にブランコが設置されたことにさかのぼる。1924年に店舗が現在の矢場町エリアに移ると屋上庭園も拡大。松坂屋によると、展望台、動物園、水族館、子供遊園などが設置されたという。そして、1936年に本館がほぼ現在の姿になった際、本格的な「屋上遊園地」が誕生した。その後は東海地方最後の屋上遊園地となっていたが、2024年に改装工事を行うとして一旦休園していた。

 松坂屋名古屋店が現在の位置に移転新築して101年、現在の本館は間もなく築90年を迎える。建物の老朽化も進行しており、大丸松坂屋百貨店を運営するJ.フロントリテイリングは、2021年に「松坂屋名古屋店を近い将来建て替えする意向」を示していたため、屋上遊園が休園を発表した際には「実際は建て替えまで復活しないのではないか」との声も聞かれた。そのため、今回の屋上遊園地復活には喜びの声が上がっている。

 新しい屋上遊園地は「地域共創」をテーマに、福井県敦賀市の「ジャクエツ」が空間デザインを担当した。ジャクエツは保育園や幼稚園向けの教材を多く手掛けているため「片仮名を覚えたころに見たことがある!」という人もいるかもしれないが、実は幼稚園や保育園の園庭、公園などの空間デザインも行っている。そのため、小さな子供の安全にも配慮された作りとなっている。

 屋上遊園にはレトロ屋上の定番であるイベントステージも設けられ松坂屋の館内にあるアートフロア「ART HUB NAGOYA」との連携も行われるなど、様々な世代が楽しめるようになっている。一方で、改装前に設置されていたレトロ遊具たちが約60台も再設置されており、昔懐かしい雰囲気も味わうことができる。

 松坂屋の経営理念は「生活と文化を結ぶマツザカヤ」。東海地方唯一の屋上遊園地は、今後も末長く「屋上遊園地文化」を伝え続けてくれるだろう。

◆名古屋栄三越「屋上観覧車」(愛知県名古屋市中区)

名古屋の一等地・栄交差点近くにある「名古屋栄三越」の屋上には「文化財となったレトロ観覧車」が残されている。

 このレトロ観覧車は1956年に新築(増築)された「オリエンタル中村百貨店」の屋上に設置されたもの。1980年にこの建物が「名古屋三越」となった後も動き続け、2005年に老朽化のため稼働停止したが、店のシンボルとして保存されている。設置から約半世紀を迎えた2007年には国の登録有形文化財に指定された。

 窓が無い吹きっさらしのゴンドラやシンプルな骨組みという、今では滅多に見ることができない造りの観覧車は、昭和レトロそのもの。松坂屋名古屋店から歩いてすぐの場所なので、松坂屋の屋上遊園に訪問する際には三越の観覧車もお忘れなく。

◆大和香林坊本店「大和プレイランド」(石川県金沢市)

 北陸唯一のレトロ屋上遊園地があるのは、金沢の老舗百貨店・大和香林坊本店。明治時代に創業、大正時代に百貨店化し、現在の店舗は1986年に移転新築されたものだ。

 屋上(9階・10階)にある「プレイランド」には、懐かしの動物の乗り物やバッテリーカーが並ぶ。特筆すべきはその眺めの良さ。金沢市中心部は景観条例により高い建物が少ないため、10階の展望デッキからは古い街並みや金沢城址、遠くは日本海や白山などを一望することができる。観光で立ち寄るのにもピッタリの屋上遊園地である。

◆松坂屋高槻店「松坂屋スカイランド」(大阪府高槻市)

 名古屋の松坂屋だけではなく、大阪の松坂屋にもレトロな屋上遊園地がある。大阪と京都の中間・JR高槻駅にデッキで直結する「松坂屋高槻店」の屋上(6階)にある「スカイランド」だ。

 高槻松坂屋は1979年に開業。エレベーターで6階に昇り、少しレトロなアーケードゲームが並ぶ屋根付きの空間を抜けると、目の前に広がるのはミニ汽車やバッテリーカー、そして朱色の鳥居が印象的な屋上神社――まさに「典型的なレトロ屋上遊園地」らしい景観だ。大丸・松坂屋アプリの会員であれば、高槻松坂屋屋上の乗り物クーポンが配布されることもある。大阪から京都に行く途中に、アプリクーポンを使い、童心に返ってみてはどうだろうか。

 なお、松坂屋高槻店は間もなく築半世紀。建物の老朽化も進み、近い将来の再開発計画が持ち上がっている。

◆アミコ(旧・徳島そごう)「アミコ屋上プレイランド」(徳島県徳島市)

 JR徳島駅前のショッピングセンター「アミコ」屋上(10階)にある「屋上プレイランド」。徳島市のシンボル・眉山を望むこの遊園地は、もともと1983年に「徳島そごう/アミコ専門店街」の屋上遊園地として開設された。2020年のそごう閉店後、一時は存続が危ぶまれたが、神社の撤去と一部エリアへのフットサルコート設置などのリニューアルを経て営業を再開した。

 そごうはバブル期前後に地域の再開発に合わせて大量出店を行った百貨店として知られる。バブル期はすでに屋上遊園地が衰退しつつあった時代だったにもかかわらず、その頃に出店した店舗の多くが大型遊具のある大規模な屋上遊園地を備えていた。しかし、そうした店舗の多くが閉店、または営業していても屋上を庭園化・閉鎖するなどしているため、旧そごう系の屋上遊園地はアミコだけが唯一の存在となってしまった。

 そごうはかつて東京ディズニーランドのオフィシャルスポンサーの一つだったため、一部そごうの屋上遊園地にはそれを思わせる意匠が見られることも特徴だった。訪問した際にはかつての面影を探してみてほしい。

◆伊予鉄高島屋「屋上遊園地/くるりん」(愛媛県松山市)

 伊予鉄道松山市駅の駅ビルにある百貨店「伊予鉄高島屋」。もともと1971年に「いよてつそごう」として開業し、2002年に現在の「伊予鉄高島屋」となった。現在の店舗は2001年に新築されたもので、レトロ屋上遊園地がある百貨店としては最も新しい建物である。

 伊予鉄高島屋の屋上遊園地があるのは8階レストラン街の横で、大型遊具は少ないが、豆汽車や小さなメリーゴーラウンド、懐かしい動物の乗り物などが並ぶ。そして、1つ上の9階からは屋上観覧車「くるりん」に搭乗することができる。くるりんの直径は45m、最高点までの高さは85mで、松山市近郊の様々な場所から見ることができるほど大きい。

 なお、屋上観覧車「くるりん」は伊予鉄道の一日乗車券などを購入すると割引価格で乗ることができる。松山市を訪れた際はくるりんに乗って、美しい松山城と瀬戸内海、そして観覧車の足元で活躍する屋上遊園地の遊具たちを眺めみて欲しい。

◆大立デパート「大立空中楽園」(台湾・高雄市前金区)

 ここまで日本に残る6つのレトロ屋上遊園地を紹介してきたが、おとなり・台湾にも屋上遊園地が1か所だけ残っている。それが、台湾南部・高雄市の「大立百貨」(大立デパート)B館にある、その名も「大立空中楽園」だ。

 大立空中楽園は今回紹介した屋上遊園地の中では最も規模が大きく、園内には「モノレール」や「金馬車(メリーゴーラウンド)」などといった大型遊具が5つ並び、週末には多くの子供や若者で賑わいを見せる。プチ絶叫マシン(?)の「クレイジーディスコ」や「海盗船」など一部の大型遊具は建物の外に飛び出すように設置されており、スリルも抜群だ。

 台湾には日系百貨店や日本の百貨店をモデルとしたデパートが多く、かつては屋上遊園地もいくつかあったが、現在も営業を続けるのはこの大立空中楽園のみである。

 高雄市中心部はデパート激戦地であり、大立の徒歩圏内には遠東百貨(大遠百)、新光三越、遠東そごう、漢神百貨(阪神と提携)といった多くの競合店が多い。大立の現店舗は1984年に開業、かつては伊勢丹と提携する高級百貨店だったが、2020年以降は直営売場を縮小し、「TSUTAYA(蔦屋書店)」「無印良品」「ドン・キホーテ」「セカンドストリート」などといった日系専門店を導入していることで、競合店との差別化を図っている。

 大立はこうした専門店の出店によってファミリー層や若者の来店数が増加しているとされ、今後も「台湾唯一の屋上遊園地」は賑わいを見せ続けるだろう。

 今回紹介したそれぞれの屋上遊園地は、改装・リニューアルなどによって遊具や乗り物、ゲーム筐体などが取材時と変わっている場合がある。

 もし屋上遊園地にお目当ての乗り物やゲームがある場合は、事前に稼働状況をチェックして訪問することは付け加えておきたい。

取材・文/若杉優貴(都市商業研究所)

【若杉優貴(都市商業研究所)】
『都市商業研究所』。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitter:@toshouken

このニュースに関するつぶやき

  • 昭和の頃、駆け出しのアイドルはデパートの屋上でミニライブとかやってたけど、今もその伝統は受け継がれているんだろうか(^_^;)
    • イイネ!1
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