旅先の施設で突然始まる演劇、観光客も物語の世界に巻き込まれ！？ 演劇と旅を融合した全く新しいビジネスモデル「エンタビ」とは

ガイドや添乗員に案内されて観光施設へ入っていくと、突然衣装を身にまとったキャラクターたちが現れてストーリーが展開される。あれよあれよという間に観光客も物語の世界に巻き込まれたり、主役に選ばれて衣装を身に着けたり…。

【写真】観光客にはカンペを見せてセリフを喋ってもらう

これは地元の人たちが役を演じ、演劇と旅を融合させて注目を浴びつつある「エンタビ」という新しい旅の形だ。発案者で演出家の山本知史（ちふみ）さんに話を聞いた。

旅先で演劇の世界に巻き込まれる体験型の新しい旅の形

団体旅行の旅先で案内されて訪れた郷土資料館やミュージアムで、いきなり演劇が始まるだけでもインパクトが強いのに、観光客も巻き込まれて演者になりセリフを喋る。そんな経験を伴う旅は、きっと忘れられない思い出になるだろう。

日本には11万以上もの観光施設があるといわれる。いわゆる「箱もの」を見て回るだけでなく、五感を活かして「体験」したり「参加」したりすれば、もっと旅を楽しめるはずだ。

山本さんは観光施設や企業に対して、このような体験&参加型の旅「エンタビ」を提案している。そこで働く職員や地元で募集した一般の人が役を演じるほか、スタッフが用意したカンペを見せて観光客にもセリフを喋ってもらう。

演じる場所は、劇場の立派な舞台は必要なく、観光地や施設がそのままステージになる。

演目は地元の伝承、伝説、民話などをもとに山本さんがアレンジして、上演時間が1時間ほどの脚本にまとめる。

「私たちが一度演じて見せて、お手本にしてもらうこともあります」

役を演じてもらう人たちに演技経験がないのは百も承知で、山本さんをはじめプロの役者が丁寧に演技指導を行いながら、1カ月程度の稽古を積んでもらうという。並行して山本さんらは衣装や小道具の準備もする。演目ごとに、ほぼ新調するそうだ。

演劇に参加して非日常体験を楽しんだ観光客の中には「また行きたい」という人もいるそうで、リピーターが増えれば観光地の活性化につながる。また地元の人は、役を演じることで地元の魅力を再発見する機会にもなるのだ。

父親が興した旅行業と自分が旗揚げした劇団がコロナ禍で壊滅的打撃を受け「エンタビ」誕生のきっかけに

高校時代に演劇部で活動していた山本さんは、卒業後も演劇に関わり続け、1999年に自身で劇団を旗揚げ。年に一度は定期公演を行っていた。

演劇活動と並行し、2007年に父親が始めた旅行業に参画して添乗員として国内外を飛び回っていた山本さん。資料館、郷土文化館、古墳、城ほか観光施設にお客さんを案内しても、すぐに飽きて短時間で出てくる人が多いことが気になった。「観光資源の魅力を伝えきれていないのなら、もったいない」と感じていたという。

そして2020年のコロナ禍で、劇団も旅行業もお客さんを呼べなくなり壊滅的な打撃を受ける。特に劇団は、山本さんのほかに3人を残して、ほとんどの劇団員が去ってしまった。だが、途方に暮れている暇はなかった。

「持っているスキルが演劇と旅行業なら、これをやるしかない。演劇と旅を掛け合わせたら、どうなるだろう。物語を柱にして、謎解きや宝探しといったコンテンツをつくり、お土産などにも派生できるんじゃないかと考えました」

コロナ禍で窮地に追い込まれたからこそ生まれたアイデアだった。

3年間ほど試行錯誤を繰り返しながら形を整え、2024年にプレイング株式会社として独立。「プレイング」は、山本さんが26年前に旗揚げした劇団の名称でもある。

今は主に近畿圏内で活動しているが、ゆくゆくは全国30カ所での同時開催が目標だそうだ。

また観光地を盛り上げるだけでなく、展示会や商品のプロモーションなど企業のイベントに演劇を取り入れる提案もしている。実際、ある自動車メーカーの展示ブースの前で寸劇を演じたことがある。

「ただ商品の説明をするよりも、皆さん足を止めてくださるんですよ」と山本さん。今後は企業向けの提案も増やしたいという。

山本さんが知る限り日本初のビジネスモデルである「エンタビ」が、これからどう発展していくのか楽しみだ。

（まいどなニュース特約・平藤 清刀）

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