京都老舗よーじや、ロゴ変更は「悪手」なのか ブランド戦略の成否は?

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2025年04月03日 12:41  ITmedia ビジネスオンライン

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よーじやのリブランディングが話題だ

 京都みやげの定番「あぶらとり紙」で知られるよーじやグループ(京都市)が、60年ぶりにロゴマークを刷新した。2025年3月26日のプレスリリースや、公式Xの投稿によると、今回の変更は「あぶらとり紙の表紙として親しまれてきた鏡に映る女性のロゴ」を一新し、新たなコーポレートキャラクター「よじこ」を誕生させるという。これがSNS上で大きな賛否を呼び、「よーじやと言えばあの手鏡ロゴだ」「変えてほしくなかった」という声が少なくない。


【画像】よーじやの新コーポレートロゴ、ブランドロゴ、リニューアルした「よじこ」


 一方で、よーじや側は今回のロゴ変更やキャラクター導入について、「京都への貢献」を強く意識したリブランディングの一環であると強調する。具体的には、同プレスリリースで次のようなメッセージが述べられている。


 「長年使用してきたロゴマークの変更、新たなキャラクターの誕生は大きなチャレンジだが、よーじやは本気で『おみやげの店』から『おなじみの店』へと変化しようとしている。京都への想いを持ち活動していることを知ってほしい」


 しかしながら、「強く定着しているブランドロゴを変える」のは得策なのか――今回の決断が、ファンや顧客から「悪手」と見なされる危険性はないのか。本稿ではマーケティング論、とりわけデビット・アーカーの『Building Strong Brands』および、ケビン・レイン・ケラーの『Strategic Brand Management』の理論を用いながら考察していきたい。


●1. ブランド認知(Brand Awareness)の再構築


 デビット・アーカーによれば、ブランド認知は「顧客がブランドを思い出せる・識別できる度合い」のことを指す。よーじやの手鏡ロゴは、何十年にもわたり日本のみならず海外の観光客にも周知されてきた。京都のみやげ店を思い浮かべたとき、瞬時に頭に浮かぶ数少ないアイコンの一つといえる。今回の変更によって、この「一瞬で分かる“よーじや”感」が薄まるリスクは否定できない。


 一方で、企業メッセージとして「おみやげの店」から「おなじみの店」へ移行したいのであれば、観光客向けとは異なるユーザー層を取り込む必要がある。そのとき、新しいロゴやキャラクターを通じて“地元にも愛される企業”という認知を広げるチャンスになるとも考えられる。ブランド認知は既存のものを崩す危険性と、新たに構築する可能性の両刃である。


●2. ブランド連想(Brand Associations)の継承と変化


 よーじやと聞けば、「油とり紙」「京都観光」「和風の可愛らしさ」「老舗の安心感」といった連想が多くの人に浮かぶだろう。ケラーはブランド連想を「消費者がブランドに対して抱くイメージの全て」とし、そのポジティブな連想を失わずに新しい価値を付加できるかどうかが、ブランド強化のポイントだと説いている。


 よーじやのプレスリリースでは、「新しいよじこデザインの文房具や雑貨アイテムの発売」をはじめ、キャラクターを積極的に展開していくと明言している。しかしファンから見ると、いわゆる“あの鏡に映った京美人”が持つ格式や風情はどうなるのか――という疑問がつきまとう。今回の刷新では、あぶらとり紙を中心とした既存の商品や紙袋、店頭サインなどでは従来の鏡ロゴを「引き続き大切に使用」するとのことで、よーじやの公式Xでも次のような言及がある。


 「手鏡に映る女性のデザインはなくなるわけではなく、あぶらとり紙などで引き続き大切に使用いたします」


 このように、完全撤廃ではなく“使い分け”というスタンスを採っている点は、ブランド連想の根幹を守る施策ともいえる。ただし、実際に顧客が店舗や商品に触れたとき、どのように従来ロゴと新ロゴ(あるいはキャラクター)を使い分けているのかは、混乱が生じないよう周到なデザイン設計が求められる。


●3. ブランド・ロイヤルティー(Brand Loyalty)への影響


 京都の老舗として確立されたブランドは、長年のファンを多く抱える。ロゴの変更は、ファンの心理的抵抗を招きやすい代表的な施策である。アーカーも「ブランド・ロイヤルティーの高い顧客は変化を嫌う傾向がある」と指摘しており、実際SNSでも「ロゴは変えないでほしかった」という声が少なくない。


 しかし、ロイヤルティーの高いファンが必ずしも変更そのものに反対とは限らない。むしろ「京都や地元に貢献したい」「伝統と革新を両立させたい」という企業の真摯(しんし)な思いが明確に伝われば、「新しい挑戦を応援したい」というポジティブな動機に変わる可能性もある。これには企業と顧客のコミュニケーションが不可欠である。


●なぜ「ロゴを変える=悪手」と言われやすいのか? 他社事例から学ぶ


 ロゴ変更はどの企業にとっても大きな賭けであり、過去にも成功事例と失敗事例が存在する。


成功例:スターバックスのミニマルロゴへの刷新


 スターバックスは2011年に、サイレンを囲う「STARBUCKS COFFEE」という文字を外し、サイレンアイコンだけのシンプルなロゴに変えた。


 当初は「文字がないと分かりづらい」という声もあったが、長期的には店舗内装やパッケージと連動し、「コーヒー店」から「ライフスタイルブランド」への拡張を象徴する形となった。


 シンボル(サイレンのモチーフ)はしっかり継承しつつ、文字を削ることで洗練さを打ち出すことに成功したといえる。


失敗例:GAPの突然のロゴ変更


 アパレル大手のGAPは、2010年に長年親しまれた青い箱と白文字のロゴから、新しいロゴへ急きょ変更した。


 しかし顧客やメディアからの批判が殺到し、約1週間で旧ロゴに戻す事態となった。理由としては「なぜ変えたのか分からない」「安っぽく見える」「GAPらしさがなくなった」など、ブランド連想を大きく毀損してしまったことが挙げられる。


 つまり、ロゴ刷新の必然性をしっかり顧客に伝えなかった点が最大の問題であった。


●よーじやは本当に「悪手」を打ったのか?


 結論を言えば、「ロゴ変更が悪手かどうかは、今後の展開次第である」ということになる。


 確かに強いブランドロゴをあえて刷新することは大きなリスクであり、短期的にはSNSでの反発や批判が起きやすい。しかし、それを「悪手」に終わらせるかどうかは、次の3つの要素によって左右されると考える。


コア要素の継承と新要素の融合


 スターバックスの例のように、既存のシンボルを完全に破壊するのではなく、かつ“新しい挑戦”を見せるバランス感が重要である。よーじやの場合、既存の鏡ロゴを完全に捨て去るのではなく「あぶらとり紙などで継続使用する」としている点は、ある程度の継承策といえよう。


「なぜ変えるのか」の徹底したコミュニケーション


 GAPの失敗例から学ぶべきは、ロゴを変える理由が顧客に伝わらなかったことである。よーじやはプレスリリースや公式Xにて「京都への貢献」「地元の人々にとってもなじみのあるブランドへの進化」を何度も強調している。


 とはいえ、今後さらに地元向けのイベントや商品展開、具体的な地域貢献活動などを可視化し、消費者が「なるほど、こういうことがしたいからロゴを変えたのか」と納得する流れをつくる必要がある。


実体験とのリンク


 ロゴやキャラクターだけを変えたところで、顧客の日常に何の変化も生まれなければ、「結局、形だけじゃないか」と失望につながりかねない。


 よじこグッズの発売やリブランディング記念の企画を充実させるだけでなく、「地元住民も利用しやすい店舗づくり」「地元イベントへの参加」「京都の新しい魅力を発信する取り組み」など、日常で顧客が“新生よーじや”を実感できる施策があれば、ロゴ変更の意義を説得力あるものにできるだろう。


●「挑戦」の是非は誰が決めるのか


 よーじやの代表取締役・國枝 昂氏は、プレスリリースにて以下のように述べている。


「長く愛される企業、ブランドになるようぶれずに活動して参ります。今後とも、よーじやと『よじこ』をよろしくお願い申し上げます」


 この言葉には、地元京都への恩義や責任、そして新たなファンを開拓していく覚悟がにじんでいる。マーケティングの観点で見ると、確かに「強いロゴを変えるのは悪手だ」との声が上がりやすい。しかし、これまでの観光客中心のイメージを脱却し、「おなじみの店」として地元にも愛されるブランドへ変貌するためには、ある程度の“大きなメッセージ”が必要であり、それを象徴する手段としてロゴ刷新は大きなインパクトを持つ。


 かつてトヨタがグローバル展開のタイミングで現在のロゴに切り替え、スターバックスが文字を外したシンボルロゴに進化したように、ロゴ変更によってブランドの変化を世界に発信することは、戦略的には筋が通っている。


 問題は、それを実際のサービスや地域への貢献がどれだけ裏打ちできるかだ。よーじやがこの先、ファンや顧客に新たな価値を提供し続け、説得力ある施策を積み上げれば、今の反発を糧にしてさらなるブランド成熟へつなげられるだろう。逆に、中途半端な施策やコミュニケーション不足に終われば、一時的な炎上だけが残り、ブランドイメージの低下につながりかねない。


 「悪手」と断じるか、「新生よーじやへの一歩」と評価するか。最終的には、よーじやの今後の行動と、それを見守る顧客(とくに長年のファンを含む地域住民や観光客)の視点が、その答えを左右するに違いない。


 企業が誠実にビジョンを示し、顧客がその変化を体験し、時間をかけて育まれるブランドこそが“強いブランド”である。よーじやがこの先、京都の老舗の枠を超え、「みんなが喜ぶ」存在となるのか――このリブランディングから生まれるストーリーに注目したい。


●著者プロフィール:金森努(かなもり・つとむ)


有限会社金森マーケティング事務所 マーケティングコンサルタント・講師


金沢工業大学KIT虎ノ門大学院、グロービス経営大学院大学の客員准教授を歴任。


2005年より青山学院大学経済学部非常勤講師。



このニュースに関するつぶやき

  • 昔京都に行った時、よーじやカフェでこの女性の顔のラテアート頼んで、スプーンでちょいちょいしながら眉毛書いたりロングヘアにしたりして遊んだなぁ
    • イイネ!16
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