「サブウェイ」「宅食」注力で大胆に“チェンジ” ワタミが進める居酒屋→健康シフト

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2025年05月01日 06:00  ITmedia ビジネスオンライン

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ワタミ会長兼社長の渡邉氏(左)と、タイミー社長の小川氏

 ワタミの子会社、WATAMI FAST CASUAL MANAGEMENTが経営する「サブウェイ(SUBWAY)」の新しいモデル店舗、ヨコハマベイサイド本店(横浜市)が4月10日にオープンした。同店では人手不足を解消するために、スポットワーカー派遣の「タイミー」と提携。店長とごく少数の社員以外は従業員全員スキマバイトという、ユニークな働き方を採用した、実験的な店舗となっている。4月24日には、さらに進んで店長と社員もタイミーからの派遣という“フルタイミー”の店として、新宿西口ハルク店(東京都新宿区、テークアウト専門店)をオープンした。


【画像】変わりすぎでしょ! 居心地を良くしたサブウェイの店内、ワタミのノウハウを注入した「990円」サンドイッチ、パンを使わないヘルシー商品、日替わりサラダ(計6枚)


 ヨコハマベイサイド本店は、2024年10月にワタミがサブウェイ国内事業のマスターフランチャイズ契約を締結した後に出店した、ワタミの商品開発・店舗開発のノウハウと、サブウェイの文化を融合した初の“ワタミモデル”店舗である。


 新商品として、焼肉や居酒屋のノウハウを生かした、牛カルビやシーフードグラタンのサンドイッチに加え、自社農園「ワタミファーム」のレタスを生かしたラップを提案。コーヒーも、サンドイッチに合う商品として全面的にリニューアルした。店内の空間も、米国などで採用している最新のデザインを採用して、居住性を高めた。


 「コーヒー1杯を飲みにでも気軽に立ち寄ってもらえれば」と、ワタミの渡邉美樹会長は話す。サブウェイを「スターバックス」にも負けないサードプレイスになるようにブランディングを行い、現在の国内約180店から、1000店を目指す予定だ。


 サブウェイ日本法人は、ワタミがM&Aで取得する前から好調が続いており、この4月まで54カ月連続で、既存店売上が前年同月比プラスとなっている。しかし、課題は山積状態だ。まず、ランチはどの店も行列ができているが、ディナーは空いている。加えて、野菜が売りといわれながら、それがイマイチ、アピールできていないという声も聞く。これはワタミにもいえることで、日本最大級の有機農業事業者であるのに、知らない人が多い。


 メニュー面では、コーヒーの味に課題がある。イートインの雰囲気が落ち着かず、居心地が悪い――こういった問題を洗い出して改善を図った旗艦店が、ヨコハマベイサイド本店である。


●「ワタミのサブウェイ」具体的にはどう変わった?


 さて、今回サブウェイがディナー対策として提案したサンドイッチの新商品が「牛カルビチーズ」(990円)だ。「焼肉の和民」のノウハウを詰め込んでおり、肉にかかった濃いめのタレの味が、ビールなどの酒と合いそうだ。


 もう1品「シーフードグラタン」(690円)は、居酒屋「和民」とのコラボメニュー。人気商品であるカニマヨ入りの「和民サラダ」をアレンジして、海老も入ったシーフードグラタンをサンドイッチにした。こちらは女性をターゲットに開発している。


 “野菜のサブウェイ”をアピールする商品としては、パンを使わず、具材をワタミファームで採れたフレッシュな有機栽培のレタスで包んだサンドイッチのサラダラップを2種類、新提案する。


 商品内容は「チリチキン」(620円)と「てり焼きチキン」(670円)。「モスバーガー」には「菜摘」という、バンズを使わずレタスでパティを包む商品があるが、サブウェイではよりヘルシーにチキンを使ってきた。すでにサラダラップへの反響は大きく、さらなる進化を予感させる商品だ。


 サラダの価格も見直している。これまで800円以上していた内容のサラダをリブランディングし、日替わりサラダとして680円に値下げ。もっと気軽に食べてもらえるように改善した。野菜の栽培法では安全・安心・おいしさを担保する“サブウェイ基準”を策定し、使う農薬の量などを細かく定めている。基準に沿って約50社と契約し、「生産者の顔が見える野菜」の量産を図っている。


 コーヒーでは、半年前にサブウェイ本部と契約してから試作と試飲を繰り返し、ようやく納得が行く商品ができたとのこと。「皆さまの意見を聞くと、コーヒーがまずいと多くの人から指摘された。それなら、ファストフードで一番おいしいコーヒーを作ろうとプロジェクトチームを組んだ」と、渡邉氏はコーヒーの改良に、並々ならぬ決意で臨んでいた。渡邉氏自身、約1000杯を試飲したという。


●コーヒーと店舗デザイン、どう変わった?


 生産から販売までの履歴が確かな、アラビカ種100%のスペシャリティコーヒーとしてリリースしたコーヒー。「ブラジルの甘さ、コロンビアの酸味は一般的だが、コスタリカのフルーティを加えることで非常に味が締まった。このコスタリカのブレンドには自信を持っている」と、渡邉氏は力を込める。


 実際に飲んでみると、飲み味が軽く苦みが少ない。日本の喫茶店の伝統的なコーヒーとも、スタバのコーヒーとも異なる。サンドイッチなどの食事にも合わせやすいタッチに仕上がっていると感じた。価格は従来より約25%下げて、Sサイズは180円で提供する。


 サブウェイでコーヒーを注文する人は、これまで10人に1人だったという。それが3人になり、4人になり、コーヒーだけを飲むために来る人も増やしたいとしている。


 内装は「フレッシュフォワード2.0」という、世界のサブウェイ店舗における最新モデルを、日本で初採用した。鮮やかな色彩とモダンなデザインが特徴で、いすの座り心地も改善している。Wi-Fiやコンセントを備え、サンドイッチとコーヒーを楽しみながらパソコンを開いて、くつろいだ環境でリモートワークもできる店づくりを目指している。


 注文の仕方が難しいといった不満を解消するため、あらかじめ商品を注文できるキオスク端末を店内に設置した。モバイルオーダーも整備する。


●「人手不足」なのに大規模な出店を仕掛けて大丈夫なのか


 出店計画は、2025年度は35店舗、来年度と再来年度は50店舗、その翌年からは毎年100店舗を出店して、10年で1065店の達成を目指す。サブウェイは過去最高で約500店まで伸ばした実績はあるものの、相当強気な計画だ。しかし、ワタミでは54カ月連続で既存店の売り上げが成長を続けている現状と、前述してきたように改善の余地が残されていることから、新たなニーズを掘り起こして達成可能と考えている。


 今年度に新規出店する35店舗のうち、23店舗は決定している。そのうち9店舗は直営となっており、新宿、高田馬場、川崎などの都心部一等地に出店してブランディングを確立。FC(フランチャイズ)店は損益分岐点が低い立地でしっかりもうけてもらう、といったように出店の戦略を分けていく。


 そんな一等地でアルバイトが集まるのかといった疑問もあるだろう。そこでタイミーと業務提携したわけだ。ヨコハマベイサイド本店をモデル店舗とし、サブウェイ未体験ワーカーへの研修制度導入、店舗勤務を通じた経験者の育成などを行い、タイミーのスポットワーカーが活躍できる機会を創出する。


 ところで、アルバイトが急に病欠になったとか、大人数の宴会が入りその日だけ人手が足りなくなったといった、緊急時の人数合わせに使うスキマバイトをメインに使って、現場が回るのか。


 実はタイミーでは、2023年5月から東京・新橋で、スキマバイトを中心に現場を回す居酒屋「THE 赤提灯」での実績がある。経営はミナデインという外食企業で、店長など3人の社員以外は、全員スキマバイトでこれまで問題なく運営できている。


 こうした実績から、タイミーの小川嶺社長はワタミに対し、店長も含めて“フルタイミー”で運営する提案を行ったわけだ。「サブウェイと手を携えて、3000店まで駆け抜けたい」(小川氏)と、気合十分だ。


 タイミーの面白さは、気に入ったスポットワーカーがいれば、引き抜きも歓迎であること。つまり、サブウェイで雇い直して、直接契約のアルバイトに切り替えるのも可能だ。


 求人広告を何度も出してアルバイトを厳選して採用しても、短期で辞めてしまったら元も子もない。累計1000万人を超えたタイミーの豊富なスポットワーカーから、適性を見極めて採用すれば、そういったリスクを軽減できる。


●サブウェイ以外でも「健康」を打ち出した事業が好調


 ワタミの2025年3月期第3四半期決算によると、売上高は661億2600万円(前年同期比5.7%増)、経常利益が50億4100万円(同7.9%増)と順調だ。国内・海外の外食事業が回復してきたのが業績を押し上げている。


 国内外食は売上高253億円(同7.4%増)、セグメント利益11億7700万円(同22.6%増)。不採算店の撤退を行い、店舗数は減少したが店舗当たりの売り上げが伸びて増収増益となった。「ミライザカ」「鳥メロ」などの居酒屋業態は、宴会需要が好調で、コロナ禍の間で競合店舗が減ったため、相対的に多く残った、ワタミの店舗に宴会が集中している。


 焼肉の和民や「かみむら牧場」「すしの和」なども、インバウンド人気もあって好調だ。一方、コロナ禍で急拡大した「から揚げの天才」は、ピーク時から大幅に縮小して6店舗しか残っていない。


 海外事業は売上高74億4600万円(同36.6%増)、セグメント利益が2億600万円(前年同期は2300万円の損失)。香港の不採算店整理による損益改善が寄与し、増益に転じた。


 宅食事業は売上高309億5900万円(同0.5%減)、セグメント利益38億8400万円(同13.6%増)で減収増益。ステイホームが終わり、外食ニーズが本格的に復活して売り上げは減ったが、購入者の単価が上がっている。


 新商品として、おいしい健康社と共同で、糖尿病などの食事管理に対応した「ワタミdeおいしい健康」を2024年12月2日から販売している。「ワタミの宅食」として食事療法を手掛けるのは初。発売から約2カ月で累計15万食を売り上げている。


 このようにワタミでは、若い人向けにはサブウェイで野菜をふんだんに使ったヘルシー志向のサンドイッチを売り、高齢者にはしっかりと栄養バランスを管理した糖尿病の食事療法を取り入れた弁当を提案。ビジネスパーソンには居酒屋、インバウンドには和牛や寿司といったように、勝ち筋の諸業態でポートフォリオを組んでいる。「居酒屋のワタミ」から、健康を前面に出した事業を主力とする外食・中食企業へと、本格的なモデルチェンジが進んでいる。


(長浜淳之介)



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  • とりあえずSUBWAYは、少なくとも日本人にとっては面倒臭いオーダー・システムを何とかしようか。
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