
指原莉乃がプロデュースする人気女性アイドルグループ「≠ME」(ノットイコールミー)のシングル発売記念イベントで、一部ファンが暴れてスタッフが負傷する警察沙汰の事件が発生。イベントが急きょ中止になった。
一部では、アイドルグループのライブやイベントの邪魔をする「壊し屋」と呼ばれる悪質なファンが関与している可能性が報じられているが、ネット上では「なぜ推しに迷惑をかけるのか」「目的が分からなくて怖い」などと不安の声が広がっている。
アイドルファン界隈のトラブル事情や「壊し屋」なるものは存在するのかなどについて、アイドル業界に詳しい芸能記者に話を聴いた。
優先エリア入場券めぐりトラブルか
トラブルが起きたのは、4月29日に埼玉県越谷市のイオンレイクタウンで予定されていた「≠ME」のCD発売記念イベント。午前9時から特設テントでCD販売と「優先観覧エリア入場券」の抽選を行っていたが、同10時ごろに複数の来場者とスタッフらが揉めるトラブルが発生したという。5月1日付の「集英社オンライン」では、ライブを優先エリアで観られる「優先観覧エリア入場券」の交換をめぐり、常連グループとスタッフが揉めたことが発端だったと伝えられている。
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騒ぎが大きくなると、常連グループとみられる20人ほどが手薄になった特設テントに押し寄せ、優先観覧エリア入場券を奪って逃げていったという。このときに別のファンたちが制止しようとしたことなどで現場は騒然となり、逃げたグループと接触したスタッフが負傷する事態になった。
主催者はイベントの中止を発表し、公式サイトで「暴力行為を行った当事者については、警察に情報提供を行い今後弊社グループの全てのイベントへの参加をお断りさせていただきます」と“出禁”処分を言い渡した。
4月30日付のスポーツニッポンでは、関係者の証言として「最近、地下アイドルのライブやイベントの邪魔をする“壊し屋”の存在が問題視され、警戒している」などと報道。イベント前日には「伝説の乱闘があるかも。乱闘したい人、見たい人来てください」と呼びかけるSNSの投稿もあったとし、「壊し屋」の存在がクローズアップされている。
悪質ファンが「迷惑行為」に走る心理
耳慣れない「壊し屋」というものは本当に存在するのだろうか。そして、そんなに女性アイドルグループのイベントは荒れるものなのだろうか。アイドル業界に詳しい芸能記者はこう語る。
「『壊し屋』という言葉は今回の事件で初めて聞いたが、ライブ中や物販中に迷惑行為を行う『厄介オタ』は昔から存在していて、いわゆるライブアイドル(地下アイドルとも呼ばれる)界隈では客同士やスタッフとのトラブルは珍しいことではない。ライブアイドルのイベントは主催者や運営の危機管理意識が低いので、現場が荒れるのは日常茶飯事だが、規模が小さいのであまり世間に知られることはなかった。今回はメジャーな人気グループである≠MEのイベントで事件が起きたため、注目度が高くなったのだろう。
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今回のケースとは事情が異なる可能性があるが、客同士の場合は、特にステージから距離の近い最前列をめぐって暴力沙汰に発展していくことが多い。それも最近始まったことではなく、10年近く前から一部のファンが徒党を組み、入場時の連携や、金銭でのやりとりを駆使して最前列に陣取る『最前管理』が行われるようになり、アイドル運営の間でも問題視されていた。
『最前管理』問題が広く知られるようになったきっかけは、昨年4月に開催された『SACOFES. UNIVERSE』(通称サコフェス)。元アイドルで振付師の槙田紗子氏が主催したアイドルフェスで、ライブアイドルだけでなく、FRUITS ZIPPER、つばきファクトリーなどメジャーなアイドルも出演していた。あるグループのステージで、香港出身の男性ファンが整理番号1番のチケットで入場し、最前列の中央に陣取ろうとしたが、見知らぬ人に体当たりされて倒れ、その仲間と思しき別の人たちに押さえ付けられ、顔を殴られたという。その間に最前列は埋まってしまい、被害者が警察に被害届を提出する事態になった」
観客席のポジションや良席をめぐる争いが起きやすいようだが、なぜ推しであるグループに迷惑をかけるようなことをするのか。悪質なファンの心理や目的について、前出の記者はこう分析する。
「熱狂的なファンになればなるほど、推しを応援するという本来の目的から逸脱して、どんな形でも目立って推しに認知されればよいという思考になりやすい。さらに、そうした暴走行為によってアイドルファン界隈というムラ社会で一目置かれることで、虚栄心を満たすという側面もある」
トラブルの予防策はあるのか?
アイドル界隈は、なかなか外からはうかがい知れない部分があるようだ。アイドルイベントの現場事情について、前出の記者はこう証言する。
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「近年のアイドルイベント現場は、圧倒的に40代・50代が多く、次に20代、その中間層の30代は少ないという。40代・50代のファンは純粋にライブを楽しむ者が大多数だが、20代のアイドルファンは、アイドルにガチ恋(※アイドルに本気で恋をすること)するタイプが少なくない。そのため客席の最前列に行って、推しメンからレス(ファンへの個別の反応)をもらうことにこだわり、物販で推しとツーショットチェキを撮ることに心血を注ぐ。その甲斐あってライブアイドルとの恋愛を成就させる者がわずかながらいるので、成功例が共有され、さらなるガチ恋勢を生み出している。
しかし学生も多い20代はそんなにお金に余裕があるわけではないので、リボ払いに頼ったり、仲間同士でお金を貸し借りしたりすることが珍しくなく、アイドルに使うお金を得るために転売ヤーになる者や、闇バイトに手を出す者までいると聞く。若い人に限ったことではないが、なりふり構わず応援するガチ恋系のファン心理と、徒党を組んだことによる集団心理が絡み合って、今回の事件につながった面もあるのではないか」
このようなことがあると、安心してアイドルのライブに行くことができなくなりそうだ。トラブルを防ぐ方法はあるのだろうか。前出の記者はこう指摘する。
「トラブル予防策としては、イベンター側によるセキュリティの強化、個々のアイドル運営による危機管理しかないだろうが、数多くのアイドルが出演するイベントだと、それにも限界がある。あまりにルールを厳格化するとファンが離れてしまう可能性もある。現時点で特効薬はなく、度の過ぎた厄介オタを出禁にして、アイドル界全体で情報共有するぐらいしか方法はないだろう」
(文=佐藤勇馬)