インタビューに応じる元農林水産審議官の針原寿朗・住友商事顧問=4月22日、東京都千代田区 極端な品薄に陥った昨夏の「令和のコメ騒動」に端を発するコメの価格高騰。政府備蓄米の大規模放出にもかかわらず、今も値段は下がらないままだ。国主導でコメの生産量を調整する「減反政策」は廃止されたが、補助金で転作を促す「実質的な生産調整」が要因の一つとして指摘されている。コメ政策の課題や今後の在り方について、針原寿朗元農林水産審議官(住友商事顧問)と、農業経済学が専門の西川邦夫茨城大教授に話を聞いた。
◇価格維持のための政策に限界=針原寿朗・元農林水産審議官
―コメ価格高騰の要因は。
直接の原因は需給ギャップで、引き金になったのは2023年の生産だ。それなりに量は取れたが、産地の新潟などで良質な一等米の割合が極端に下がるなどした。需要に十分応えられず、集荷競争が始まり、末端価格に大きな影響を与えた。
―ほかの要因は。
構造的な要因もある。減反政策は廃止されたが、地域ごとに生産の目安が設定され、現場では量的な調整が機能している。主食用米の価格維持のため、飼料用米に高額助成し、意図的に需給をタイトに保てば、(主食用米の)市場が隔離され、需要に即した生産ができなくなる。価格維持の政策には限界がきている。
―農林水産省は輸出用に生産を増やす計画だ。
輸出を増やすのが国内向けの供給にゆとりを持たせるためだとすれば、とんでもない誤りだ。海外に輸出するためには市場を開拓する必要があるが、「国内で(コメが)足りない時は取引をやめる」と言われれば相手は買いたくならない。海外ビジネスはそんなに甘いものではなく、非現実的な提案だ。
―コメ政策をどう変えていくべきか。
価格維持を前提とする政策から抜本的に転換すべきだ。価格は市場に委ね、農家の経営が不安定になれば農家に直接助成する政策が基本。マーケットをゆがめる飼料用米助成などの補助金は大きく見直す必要がある。
◇用途転換、柔軟に=西川邦夫・茨城大教授
―コメの価格高騰が続いている。
需要に対して供給が不足していたことが、一番の根本的な原因。農産物は取れ過ぎたり、取れなさ過ぎたりする幅が大きい。コメを用途別に振り向けられるようになると需給調整は安定性が増す。収穫後に飼料用米から主食用米への転換を可能にすることは、一つの考え方として有力だ。
―現状の課題は。
現在は作付け転換に応じて交付金が支払われており、その主力は飼料用米だ。収穫後の主食用米への転換は原則禁止され、生産調整が実質的に行われている。
―生産調整の問題点は。
一つは、需要見通しが正確かどうかによって需給の変動が起こってしまう点。もう一つは、交付金に誘導されて市場を考慮した生産が鈍ってしまう点だ。作付けの選択は本来、生産者の重要な経営判断であり、生産調整は段階的に廃止していくべきだと思っている。
―政府備蓄米制度をどう考えるか。
備蓄米の放出は、食料安全保障上の重大事が起こった時の最終手段だ。今回の放出を見ると、備蓄米制度は迅速な市場対応には向いていない。放出前に、生産者や農協が判断して、彼らの在庫を主食用米に振り向ける仕組みがあった方がスムーズでいい。

インタビューに応じる茨城大の西川邦夫教授=4月23日、東京都中央区

インタビューに応じる元農林水産審議官の針原寿朗住友商事顧問=4月22日、東京都千代田区

インタビューに応じる茨城大の西川邦夫教授=4月23日、東京都中央区