“戦わない”「ガンダム」、大阪万博で唯一のIPパビリオンが世界に発信する意義「戦いのためのモビルスーツではない、平和のための活用を」

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2025年05月09日 08:40  ORICON NEWS

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大阪・関西万博『GUNDAM NEXT FUTURE PAVILION』(C)創通・サンライズ
 『2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)』では、「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマのもと、さまざまな企業が“未来”をテーマに独創的なパビリオンを出展する中、日本で唯一IP名を冠したパビリオンとして注目を集めている『GUNDAM NEXT FUTURE PAVILION』。長きにわたり愛され、いまや世界中にファンを持つ『ガンダム』が万博を通じて何を発信していくのか、バンダイナムコホールディングス取締役副社長である桃井信彦さんに話を聞き、色褪せない『ガンダム』の魅力と人気を紐解く。

【画像】気になるパビリオンの中は…ライトアップされた実物大ガンダム像も!

◆「戦いのためのモビルスーツではなく、平和のために活用」“非武装”な未来を想像させるいままでにないガンダムを

――『2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)』で『GUNDAM NEXT FUTURE PAVILION』を出展した経緯を教えてください。

【桃井信彦さん】 「いのち輝く未来社会のデザイン」という大阪万博のテーマを考えた時、想像力が膨らむモチーフが良いなと思いました。私たちのパビリオンで体験いただく世界は2150年という設定になっているのですが、「未来の宇宙ではどんな生活を送っているのだろう…?」と想像するきっかけになるのは、ガンダムが一番モチーフとしてはいいのでは…と思ったのが理由です。

――少し先の未来が輝くものになっている…というコンセプトの中、『GUNDAM NEXT FUTURE PAVILION』ではどんなことにこだわっていますか?

【桃井信彦さん】 回廊型でパビリオン内を歩いていきます。全体で50分程度のストーリーなのですが、前半はさまざまなモビルスーツが活躍して皆で協力していく未来を描いています。そのなかで、「この科学技術がこういう形だったら有効活用できるかもしれない…」ということを提示しているので、小学生や中学生が科学や宇宙に興味を持つきっかけになっていると思います。また、今回初めてガンダムに触れる方もたくさんいると思うので、そういう方にどうやってガンダムの魅力を伝えていくのかということにこだわっています。

――パビリオン内で流れる映像『GUNDAM:Next Universal Century』は、辻本貴則監督が手掛けています。公開前より大きな話題になっています。

【桃井信彦さん】 詳細は会場で楽しんでいただきたいのですが、ティザー映像を観た方がSNSで「モビルスーツは戦うためのものだったのに、地球連邦軍もジオン公国軍も一緒に宇宙デブリを処理するために働いているのはすごくいい」というコメントを見たんですね。まさにその感想のような「戦いのためのモビルスーツではなく、平和のために活用されている」ということを伝えることで、非武装な未来を想像することができるのではと強いメッセージが込められています。

◆長く愛される秘訣は「毎回新しいガンダムを見せたい」に尽きる 海外でも人気のガンプラが後押しに

――すごく斬新な表現ですね。

【桃井信彦さん】 通常のガンダムのストーリーでは、やはり戦いがメインにくると思うのですが、そこで手を取り合って働いている姿を見せることで、より平和が際立ちギャップを感じてもらえると思います。モビルスーツから、いかにビームサーベルを外せるのか…という思いは強かったです。一方で、平和や共存という万博のテーマがありつつ、エンターテインメントとしてガンダムファンにも満足してもらえるものにしたいという思いもありました。

――どのように折衷していったのですか?

【桃井信彦さん】 そこが『GUNDAM:Next Universal Century』の見どころの1つでもあるのですが、ただ平和に1時間進んでしまったら、ガンダムっぽくない。でも激しい戦いを描くのは、万博のテーマに反してしまう。かなり悩んだところですが、どちらも納得していただけるようなギリギリのラインを攻めています。意欲作になっていると思うので、ぜひ楽しみにしてほしいです。

――1979年にアニメがスタートしてから、46年の歳月が流れました。その間も常にトップを走り続け、いまや日本を代表するIPコンテンツとして世界から注目を集めています。ガンダムが色あせない強度を持ち続ける要因はどこにあるとお考えですか?

【桃井信彦さん】 その点については、バンダイナムコフィルムワークスの小形尚弘プロデューサーが常日頃から「毎回新しいガンダムを見せたい」と言っているのですが、それに尽きるかなと。ファーストガンダムからどんどん新しい形のガンダムを提示し続けていると思います。そのなかで『機動戦士ガンダム 水星の魔女』を観た人も『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』を観た人も、多くの人が「ファーストを観たくなった」と言っています。まさに歴史絵巻として一続きになっていることが、新鮮さを保っている要因なのかなと考えています。

 もう1つ、ガンプラというのも長く愛情を持っていただける大きなアイテムなのかなと思います。海外でもガンプラが人気ですごく売れています。アニメで観たものを自分で作るという行為によって、よりキャラクターに気持ちが入っていく。その親和性も大きな魅力だと感じています。

◆未来の設定を現代と地続きで考えた“万博ガンダム” こだわり抜かれた設定と思い

――万博内でも、かなり注目度が高いパビリオンです。

【桃井信彦さん】 万博の工事用ヘルメットを、ガンダム、シャア専用ザク、ドムのデザインにしてもらいました。このヘルメットの評判が良く、皆さんお気に入りで被ってくださっていました。そのなかで、3人組で仕事をする人たちは「黒い三連星」を意識しているのか、ドムのヘルメットを被るんですよね(笑)。

――片膝を立てて腕を大きく上げる実物大ガンダム像が公開された時は、大きな反響を呼びました。

【桃井信彦さん】 このスタイルはかなり悩みました。地上からスタージャブローに行って帰ってくるという話なのですが、要するにひと仕事終えた後のガンダムなんです。そこにプラスして宇宙に対して平和を願っているという思い。そういったことを考慮に入れてああいったポーズになりました。そしてガンダムパビリオンのテリトリーには、草木が生えているのですが、これまで実物大のガンダム像が草木の中にいるというのは初めてなので、見栄えはこれまでと少し違うと思います。

――海外の方々にとってもガンダムは非常に注目度の高いコンテンツですよね。

【桃井信彦さん】 今年2月にドイツ・ニュルンベルクで世界最大の玩具見本市『シュピールヴァーレンメッセ(Spielwarenmesse)』がありました。そこでは『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』の話が出たのですが、外国の方から「これは何と読むんだ?」と言われました。日本語やカタカナだったら、読み方がわからないというのもわかるのですが、アルファベットを使って造語でタイトルを作るという発想が外国人にはわからなかったようです。確かに外国の作品に漢字が使われていて、その読み方が日本人として読まない呼び方だったら違和感がありますよね。とても面白いなと思いました。

――万博ならではのこだわりはありますか?

【桃井信彦さん】 以前、富野由悠季さんに、「例えばスタージャブローを作るにしても、使用する金属はどこで採取できるのか? そういうことをしっかり考えて欲しい」と言われたことがありました。宇宙衛星のデブリの金属でリサイクルできる量がどれぐらいあるのか。未来の設定ですが、ちゃんと現代と地続きで考える。そういったことにはこだわっています。またパビリオン後半は、本当に宇宙船に乗っているような体験ができるようになっています。

◆反対派の声も…ガンダムを通して世界中の人々とともに「未来」を考えるきっかけに

――老若男女問わず楽しめるさまざまな仕掛けがあるんですね。

【桃井信彦さん】 それと“子どもたちがどう思ってくれるのか?”ということは、一番興味があります。この万博をやることになっていろいろな方に話を聞いたのですが、1970年の大阪万博当時、小学生だった子どもが、1週間万博に行った際に、それまで全然勉強をしていなかったのに、科学などに興味を持って医師になると猛勉強していたそうです。そういう子どもが1人でも多く増えてくれたらいいなと思っています。将来ガンダムのパビリオンを体験した子どもが、宇宙飛行士になって「このパビリオンがきっかけでした」なんて話してくれたら最高ですよね。

――約6ヵ月間と大阪・関西万博は長期間開催されますが、何でも楽しめるポイントを教えて下さい。

【桃井信彦さん】 今回の実物大ガンダム像は、とても夕日がきれいな場所に設置されています。午前、午後、夕方、夜と全部違ったガンダムが楽しめるので、ぜひ何度も足を運んでほしいです。

――3人に1人が「推し活」をしている中、『ガンダム』ファンを飽きさせないために、大切にしていることを教えてください。

【桃井信彦さん】 感情を高めるための装置、自己表現するためのものという感じに変化してきたと思うんです。私たちは、やはりモノを大切にしてほしいという気持ちをずっと持っているので、すごくうれしいですね。ガンダムという商品に愛情を持っていただいている。本当にありがたいです。

 私たちの会社は3年ごとに中期計画を立てています。今年まで「Connect with Fans」というテーマで活動してきたのですが、まさに会社が目指していることが、そのままこの言葉に表れているということで、新たな3年もこのスローガンを継続することになりました。それぐらいファンとの繋がりを、これからも大切にしていきたいと思っています。

――改めて出展を決めた当時からここまで振り返ってみていかがでしたか?

【桃井信彦さん】 「大阪万博に出展します」と言った当初は、反対派の方もいて、いろいろな意見もありました。「戦争を描いてきたガンダムのストーリーが万博にマッチするのか」という意見もありましたが、ガンダムを通して世界中の人々とともに「未来」を考えるきっかけとなるような映像や体験を、開幕のギリギリまで熟考し、制作いたしました。万博でのテーマに合わせつつも、ガンダム自体のおもしろさを体感いただけるパビリオンになったと思っていますし、実際にご来場いただきましたファンの皆さまからも好評の声をいただいています。

(文/磯部正和)

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  • モビルスーツの性能の違いが戦力の決定的差ではないということを、教えるため。
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