
東京大学准教授で動物言語学者の鈴木俊貴氏が、鳥の鳴き声に人間の言葉に匹敵する複雑な構造があることを発見しました。長年の研究を通じて、鳥が単なる感情表現ではなく、単語や文法を持つ言語を使っていることが明らかになりました。
【画像でみる】鳥語版ルー語?ピーツピ・ディーディー=警戒して“トゥギャザー”
「ジャージャー」は“ヘビ”、「ピーツピ」は“警戒しろ”、シジュウカラの驚くべき語彙鈴木氏は、シジュウカラという小鳥を20年にわたり研究。その結果、シジュウカラが200パターン以上の鳴き声を使い分けていることがわかったということです。これは、他の動物の鳴き声のパターンよりもはるかに多いです。
鈴木氏によると、例えばシジュウカラは「ジャージャー」という鳴き声でヘビの存在を仲間に伝えます。また、「ピーツピ」という鳴き声は警戒を意味します。これらの鳴き声は単なる感情表現ではなく、具体的な意味を持つ「単語」として機能しているのです。
鈴木氏
「シジュウカラにジャージャーという声を聞かせると、地面を見てヘビを探すような行動をします。これは単に怖いという感情を表現しているのではなく、“ヘビ”という概念を伝えているのです」
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シジュウカラは“警戒”を意味する「ピーツピ」と、“集合”を意味する「ヂヂヂヂ」という単語を組み合わせて“警戒して集まれ”という意味の「ピーツピ・ヂヂヂヂ」という文章を作ることもできます。さらに驚くべきことに、シジュウカラの作る文章には、文法が存在するのだそうです。鈴木氏はこれを証明するために、ユニークな実験方法を考案しました。それが「鳥語版ルー語」です。
タレントのルー大柴さんが日本語と英語を混ぜて「ルー語」を使うように、鈴木氏はシジュウカラと一緒に群れを作るコガラという小鳥の鳴き声を組み合わせた音声を作りました。シジュウカラの“警戒”を意味する鳴き声と、コガラの“集合”を意味する鳴き声「ディーディー」を組み合わせたのです。
「ピーツピ・ディーディー」という、自然界には存在しない新しい鳴き声を聞かせたところ、シジュウカラはちゃんと理解して反応しました。また語順を逆さにした「ディーディー・ピーツピ」では反応しませんでした。
鈴木氏によると、これはシジュウカラの作る文章「ピーツピ・ヂヂヂヂ」の「ヂヂヂヂ」の部分が、コガラの「ディーディー」に置き換わったとしても、“警戒”が先、“集合”が後に来るという文法のルールがあり、それにあてはめて、シジュウカラが理解していることを示しているそうです。
鈴木氏
「シジュウカラは新しい文章を理解する柔軟な能力があり、人間と同じように言葉をフレキシブルに組み合わせて会話している可能性があります」
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鈴木氏の研究は、動物言語学という新しい学問分野の幕開けとなりました。2022年にストックホルムで行われた国際行動生態学会(ISBE2022)で発表されたこの研究は、世界中の研究者に大きな影響を与えています。
「これまで研究されてこなかったチンパンジーやボノボなど、他の動物たちの言語についても新たな発見がある可能性があります。ひょっとしたら20年後、30年後には、色んな動物の言葉が分かっているかもしれません」と鈴木氏は未来を予想します。
動物の言葉を理解することは、私たちの世界観を大きく変える可能性があります。私たちの身の回りには、まだ知られていない驚くべき発見が隠れているかもしれません。
鈴木氏
「人間だけが言葉を持っているという思い込みを捨てることで、世界の見え方が変わり、人生がもっと楽しくなる」
次に鳥のさえずりに耳を傾けるときには、そこに込められた意味を想像してみてはいかがでしょうか。
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