限定公開( 3 )
「コメダ珈琲店」を展開するコメダホールディングス(HD)が、新業態の出店ラッシュだ。話題になっているのは、おにぎり専門店「おむすび米屋の太郎」だが、ほぼ同時にドリンク専門店「ジェリコ堂」、大判焼き専門店「コメダの大判焼き 大餡吉日」も出店している。
【画像】コメダHDの運営する米屋の太郎の商品、おかげ庵のセルフで焼くだんご、ユニークなスイーツのジェリコ専門店、大判焼き専門店、パン店など(全10枚)
同社といえば、2019年に「BAKERY ADEMOK(ベーカリー アデモック)」、2020年にプラントベース喫茶「KOMEDA is」を、立て続けに出店して以来、コロナ禍があって新業態のリリースを控えていた。その後、2022年にワイン専門店「ラ・ヴィノテーク」を出店。さらに2025年は新業態ラッシュとなった。
コメダHDの新業態の特徴として、既存の業態をベースとし、そこからスピンオフしたような派生店が多いことが挙げられる。
米屋の太郎は、同社の和風喫茶業態。「おかげ庵」のモーニングで出していたおにぎりが好評だったので、開発した。ジェリコ堂はコメダ珈琲店の人気スイーツ「ジェリコ」の魅力を、より広く発信する店となっている。
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●右肩上がりでもコメダが新業態を模索するワケ
コメダHDの2025年2月期連結決算は、売上収益470億5700万円(前年同期比8.8%増)、営業利益88億2000万円(同1.2%増)、税引前利益86億1200万円(同0.8%減)となった。売り上げは2ケタ近く伸びて好調の一方、利益は横ばいの状況だ。これは原材料費、人件費、エネルギー価格など経費が想定以上に上がっているからで、成長が続いており問題ないだろう。
同期の既存店売上高は、前年同期比で105.1%。2024年4月には店頭メニュー価格の改定を行い、直後の5月は、既存店売上高95.5%と苦しんだ。しかし、期間限定の「シロノワール」や、バーガーの企画で挽回した。これらの商品には、一定の根強いファンが付いており、リピーターによって売り上げが支えられている面がある。
期間中の新規出店は66店、退店は6店で店舗数は1083店となった。その大半がコメダ珈琲店で、フルサービスの喫茶としては、圧倒的なトップブランドだ。競合には、ドトール・日レスホールディングス(HD)の「星乃珈琲店」が269店(2025年2月時点)ほどあるが、大差を付けている。
セルフ式喫茶を含めても、スターバックス コーヒー(1991店)やドトールコーヒーショップの1073店に次ぐ、第3位のビッグブランドに成長した。
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右肩上がりのコメダHDではあるが、経営の持続性を高めるには、そろそろ強い第2ブランドが欲しいところだったのだろう。全国に1000店規模ともなると、さすがに商圏の重なりも起きてくる。
またコメダ珈琲店はシニアや主婦、中高年以上に強く、午前中から昼過ぎまではにぎわっても、夜の集客がそんなに強くない。対してスターバックスは夜でも若い人で一杯だ。
加えて、コーヒー1杯の価格はスターバックスが400〜500円。コメダ珈琲店は店によってかなり幅があるが、ワンコインで入れるイメージはなく、若い人にもアピールしていくには、もっと気軽に利用できる業態も開発したい。そういった思惑で、ファストフード中心に新業態の出店が行われている模様だ。
●「米屋の太郎」どんな店舗なのか
新業態について解説していこう。米屋の太郎は東京・西新宿で1号店をオープン。注文を受けてから店員が握り、できたてのおにぎりを提供する。スタイルとしては、おにぎりブームをけん引する、東京・大塚の「ぼんご」に近い。しかしぼんごやその系列、およびインスパイヤ店に特徴的な、すし屋のようなカウンターはない。テークアウト専門だ。
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都内にある新宿センタービル店はおかげ庵に併設されており、その店内で食事をすることもできる。おかげ庵には小サイズのきしめんとのセットも用意されている。
米は、ブレンド米を使用、海苔は、伊勢湾・鬼崎産の優等級を使用している。ふんわり結んだおにぎりを、黒々とした厚みある海苔のパリパリとした食感が引き立てる。香りの良い海苔の存在感が際立つ商品だ。
おにぎりは1個150円の「塩むすび」からあり、中心的な価格帯は300円ほどだ。具材は、博多辛子明太子、和風ツナマヨネーズ、日高昆布といった定番だけでなく、名古屋発の企業らしさを感じさせる「名古屋おむすび」の商品群が特徴的だ。とり天むす、味噌ヒレカツむすび、などを提供している。
2月のオープン以降、早くも3店まで店舗網を広げた。おにぎりは世界的にブームになっており、国内でも300円ショップのスリーコインズや、炊飯器の象印が進出するなど、異業種も狙ってきている。海外も視野に入れた、スピード感ある店舗拡大が期待される。顧客層は幅広く、高校生以上の幅広い年代から支持を得られるだろう。
●「ジェリコ」をメインに扱うドリンクスタンドもオープン
ジェリコ堂はドリンク専門店として4月にオープンした。実は国内よりも先に香港でオープンしており、こちらが好評だったことから「逆輸入」となった。香港ではコメダ珈琲店も4店展開している。
ジェリコ堂は、コメダ珈琲店で提供しているジェリコを進化させて、幅広いカスタムで楽しめるようにしたドリンクスタンドだ。
●ジェリコ=デザートドリンク
ジェリコとは、アイスコーヒーをベースに、珈琲ゼリー、ホイップクリームを組み合わせて「飲む、食べる、混ぜる」が楽しめるデザートドリンクである。
少し前にタピオカ入りのドリンク、その派生としてわらび餅入りのドリンクが人気になっていたが、それに近い発想の商品だ。パッと見た目はスターバックスの人気商品である「フラペチーノ」にも似ている。写真映えがして、若い人、特に女性に人気が出そうな要素を備えている。
ジェリコ堂では、ゼリー、ホイップクリーム、追加トッピング、甘さをそれぞれ自分で選んでドリンクを注文できる。組み合わせは1000種類以上に及ぶという。色とりどりのドリンクを作れ、カスタマイズの自由さを楽しむ、新感覚のドリンクといえよう。
自由な発想を好む海外の消費者にも受け入れられそうな商品で、日本ではむしろ観光地のインバウンド向けで流行しそうだ。
大餡吉日は、東名阪自動車道・御在所サービスエリア下り線にあるジェリコ堂の隣に、オープンした。もともと2022年4月から名古屋市内で営業していたが、移転した形だ。オーソドックスな王道の大判焼き店で、人通りの多い場所をうまく選べば成立しそうだ。
こうした新業態の先輩といえるおかげ庵は、米屋の太郎だけでなく大餡吉日ともセットで拡大できそうで、1990年代から温めてきた甘味処のような和風喫茶業態が、ようやく成長段階に入りつつある。現在は沖縄で3店のみ展開しているアデモックも、ふんわりしたパンに定評があるコメダだけに、商業施設でニーズがあるように思われる。
●「ポストコメダ」のメドが立ってきた
こうして見ると、新登場した米屋の太郎とジェリコ堂は海外市場をも見据えた、ワンハンドで飲食できるファストフード系の業態だ。同社がこれまで手掛けてこなかった分野での市場開拓が狙える。フルサービスの喫茶としては、おかげ庵を組み合わせながら展開すれば「ポストコメダ」の役割を狙うメドが立ってきたといえる。
継続的に成長している飲食各社を見ると、主力に次ぐブランドを続々と打ち立てている。コメダHDも、コメダ珈琲店に次ぐ第2、第3の柱となるブランドを育成できるか。今後の展開に期待したい。
(長浜淳之介)
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