化粧品ブランド「SHIRO」なぜ人気? 北海道の“開かれた工場”に年間30万人

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2025年06月29日 09:21  ITmedia ビジネスオンライン

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SHIROの“香りの秘密”をのぞいてみた

 この6月に誕生16周年を迎えた化粧品ブランド「SHIRO(シロ)」。国内外で「フレグランス(香水など)」「スキンケア」「メイク」の3カテゴリーの製品を販売しており、なかでもフレグランスの売り上げが過半数を占める。


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 自社で企画・製造した製品を直接消費者に販売するD2Cを中心とし、国内28店舗、海外3店舗(台湾、韓国、英国)を展開。ECでは、国内と海外4カ国・1地域(米国、台湾、韓国、中国〈越境EC〉、英国)で販売している。


 同ブランドを運営するシロ社(東京都港区)の福永敬弘社長は、「ブランド立ち上げ以降、年平均成長率は約120%で推移しており、女性だけでなく男性にも支持を得ている」と話す。厳選された天然成分や旬の素材を取り入れたスキンケア、強い香りが苦手な人でも使いやすいフレグランスが特徴で、プロダクトアウトのものづくりや廃棄物ゼロを目指す方針も貫く。


 2021年6月には、創業の地・北海道砂川市にて、まちづくりプロジェクト「みんなのすながわ」を発足。2023年4月には、同市に工場と観光要素を併せ持つ施設「みんなの工場」をオープンした。


 2019年のリブランディング時には炎上も経験したが、売り上げが減るどころか伸び続け、今に至る。なぜ、SHIROは人気なのか。福永社長に取材した。


●男性にも選ばれやすいフレグランス


 シロ社の前身となるローレル社は、観光土産品の製造や卸販売を目的に1989年に創業した。その後、化粧品雑貨のOEM事業へ方向転換。2009年に自社ブランド「LAUREL(ローレル)」を立ち上げ、2015年に「shiro」にリニューアル。さらに、2019年にリブランディングを行い、ブランドロゴを大文字の「SHIRO」に変えた。


 以前のロゴは細文字でシンプルな印象があったが、現在は太文字で存在感を増した。ブランドカラーもこのときにネイビーに定めた。当時、「残念」「元に戻してほしい」といった不満が続出して炎上したが、「振り返るとリブランディングは成功だった」と福永社長は考えているそうだ。


 「一部の方から変化に対する抵抗感はあったと思いますが、リブランディングはSHIROの一つの転機であり、『より良い製品をお届けする』という覚悟の表明でした。以前のロゴの自信なさげで存在感が薄いところを変えたいと思い、太文字のロゴを採用しました。自信のあるプロダクトを作っていくという当社の思いが強まり、結果的に売り上げは当時も今も増え続けています」


 現在、SHIROではフレグランス、スキンケア、メイクの3カテゴリー、260SKUを扱う。売り上げの過半数を占めるのはフレグランスで、顧客層は10〜60代以上までと幅広い。「SHIROは日本の香水市場に風穴を開けたと思っている」と福永社長は言う。


 「スキンケアやフレグランスのブランドは、顧客層が極端に女性に偏ることが珍しくありませんが、SHIROは店によっては売上高の3割近くが男性客による購買です。特に、定番の香りである『サボン』は、男性から人気が高い傾向です。香りが強すぎず、そこはかとなく香るので使いやすいのだろうと。性別関係なく、香水初心者のような方にも好評です」


 近年、国内のフレグランス市場は拡大傾向にある。富士経済によると、2024年の市場は前年比15%増の575億円で、前年に引き続き二桁の伸びとなった。


 SHIROは、銀座三越や伊勢丹新宿など百貨店内に多くの店舗を構える。百貨店が独立系化粧品ブランドのSHIROを評価する大きな理由は、「若年層や男性の集客力が高いから」だという。


●「みんなの工場」は年間約30万人が来訪


 2021年6月には、創業の地・北海道砂川市で、まちづくりプロジェクト「みんなのすながわ」を立ち上げた。2023年4月には、同市に工場と観光要素を併せ持つ施設「みんなの工場」をオープンした。この狙いは、どこにあるのか。


 「売上拡大が続くなかで工場の生産能力を拡大する必要性が高まり、既存の砂川市の工場を市内で移転・増設することにしました。一方で、人口減が続く砂川では工場で働く人手の確保さえも難しい状況があり、まちづくりプロジェクトを始めたのです」


 プロジェクトの発足から約2年後にオープンした「みんなの工場」は、製品を製造する工場にショップ、カフェ、キッズスペースとラウンジなどを併設。工場はガラス張りで、研究開発や調合など製造工程を見学できる。ショップ内には、複数の香りをブレンドして好みの香りを作れる「ブレンダーラボ」を用意した。


 「『みんなの工場』は、設計者やプロジェクトメンバー、砂川市民など、みんなで工場のあり方を考えました。誰も排除せず、みんなに来てほしいという意味もあります。ものづくりの工程を見られるようにしたのは、子どもたちにものづくりの楽しさを感じてもらい、原体験を通じて将来の職業観が形成されたらいいなと思ったからです」


 この「開かれた工場」では、研究開発などSHIROにとっての心臓部とも言える工程も見せている。


 「工場見学でよくある『一部分だけを見せる』やり方では、ものづくりを仕事にしたいという動機形成にはならないと思います。企業秘密と従業員のプライバシーについては検討しましたが、工程を見せたところで再現は難しいでしょう。また、従業員と向き合って話すなかで、『むしろ、どう見られるとSHIROにとっていいのか』と従業員の視座が変わっていきました」


 現在、開業から2年がたち、年間約30万人が来場するまでになった。とはいえ、福永社長が目標とする150万人には程遠い。来場者の4割が道内、6割が道外からとなっている。同施設の売り上げの約6割を占めるのが、砂川本店限定フレグランス「フルーツブーケ」と「ブレンダーラボ」となる。


 「ここでしか買えない製品と体験が来訪の一番の動機となっています。ただ、当社の目的は限定製品を売ることではなく、砂川に来て、ものづくりの醍醐味を知っていただくこと。さらに、ここを起点に北海道を巡っていただくことです。アクセスが良くないなかで、より多くの方に訪れていただくには、魅力的なコンテンツを提供し続けることが重要です」


 同工場は札幌から函館本線特急に乗って約50分の砂川駅で降り、そこからクルマで約10分の距離にある。砂川駅から無料のシャトルバスを出しているが、函館本線特急は1時間に1本しかなく、不便であることは否めない。来訪者を増やすには、それでも訪れたいと思える要素が求められるという。


●国内外の店舗戦略


 フレグランスが売れ筋のSHIROにとって、香りを体験できる店舗は欠かせない存在だと言える。国内では都市部を中心に28店舗、海外では台湾、韓国、英国に1店舗ずつ構えている(2025年6月下旬時点)。


 海外売上比率は現在約1.5%で、4年後までに19.5%に伸長させる目標を据えている。直近の動きでは、2025年4月26日に韓国初進出としてオープンした「SHIRO Seongsu」(韓国・聖水)が好調だ。初日は行列ができる反響で、2日間で約2500人が来店、約1300人が製品を購入し、約1億ウォン(約1070万円)を売り上げた。


 「韓国では、海外初の試みとして現地に即した施策を取り入れた結果、集客や購買につながったと思います。韓国限定の『スズラン』のオードパルファンを販売したほか、スペシャルコンテンツとして『ハーブブレンダーラボ』も提供しています。好きな香りとハーブを選んで、フレグランスミストを作れるものです」


 「スズラン」のオードパルファンは2日間で約400本を販売し、2日間の販売記録としては過去最多となった。ハーブブレンダーラボは、約130人が体験した。


 「韓国の方の傾向として“消費型”より“体験型”の志向が強く、出店した聖水はラグジュアリーブランドなどがポップアップストアを開くようなエリアです。SHIROを知っていただくための表現として、限定フレグランスやものづくり体験の提供がマッチすると考えました」


 国内展開では、2025年3月に「ミナモア広島店」の開業により広島に進出したが、今後は地域初出店の店舗を増やす計画はないとのこと。既存店の移転増床やリニューアルを中心に進めていく方針だ。


 直近では、6月26日に「渋谷PARCO店」が新規オープンしたばかり。同店は「廃棄物ゼロ」を目指すSHIROの姿勢を体現した店構えで、燃料としてしか使えない雑多衣類と再生ポリエステルから作った“再生フェルト”をお店の壁や什器にまとわせている。


 「店舗づくりでは、2023年にリニューアルオープンした大阪市の『ルクア イーレ店』以降、ゴミゼロの設計としています。『渋谷PARCO店』は、再生フェルトを使ってクリエイティブを追求しました。渋谷PARCOは国内の商業施設で最もグローバル化が進んでいると思います。SHIROが海外展開をするうえで、エントリー店舗のような位置付けになることを期待しています。外国人の方がまず渋谷でSHIROを知って、他国の店舗にも足を運んでいただけたらと」


 SHIROは売り上げ追求のためのブランドではなく、上場も目指していないという。「世の中をしあわせにする」を理念に掲げ、2029年までに売り上げを約4.5倍、2038年までに顧客1億人の数字目標を持つ。フレグランス市場は国内外で成長が予測されている。SHIROはグローバルでも広く支持を得られるのか。


(小林香織、フリーランスライター)



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