
近年、スマートフォンの普及により、事故や急病の現場で撮影をする人が増えている。しかし、こうした行為が救助活動に支障をきたし、傷病者やその家族に多大な精神的苦痛を与えていることを知っているだろうか。現役の救急救命士「たたら★救急救命士」さん(@QQpickm)が、X(旧Twitter)に投稿した切実なメッセージが話題を呼んでいる。
「救急現場はコンテンツではない」ー撮影をやめてほしい切実な願い
「倒れたり事故に遭った方を撮影する人達へ。あなたの恋人や子供、友人が命の危機に瀕しているとき、その横で他人がスマホを向けていたらどう思いますか?SNSにシェアされたらどう思いますか?少しは考えてください。お願いです。傷病者を撮影しないでください。救急現場は誰かを楽しませるコンテンツではないのです。」
この投稿には、救急現場での撮影に対する強い憤りと切実な願いが込められている。
撮影が救助活動に及ぼす影響とは
救急救命士のたたらさんによると、最近の印象深い現場では、夜の繁華街の大きな交差点で交通事故の救助活動中、数十人の野次馬が集まる中、複数の人がスマホで傷病者を撮影していたという。撮影を防ぐために追加の隊員を配置せざるを得ず、本来の救助に専念できない状況となったそうだ。
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さらに、酩酊状態の友人を笑いながら動画撮影する人も目立つという。
撮影行為はなぜ起きるのか?
撮影が起こるのは大規模事故や火災など野次馬が多い現場が主で、誰かが撮り始めると「自分も撮っていいのかも」という集団心理が働くことが多いという。外国人観光客が旅行記念に救急隊を撮影することもあり、また酩酊者の行動は善悪の区別が曖昧なためか撮影が増えることもあるそうだ。
撮影者への注意は効果的か?
現場で余裕がある場合は積極的に「撮影をやめてください」と声をかけるが、撮影を止めずに続ける人にはこれまで出会ったことがないという。多くの人は注意されると驚きながらも「すみません」とスマホをしまうとのことだ。
傷病者や救助活動に与える具体的な悪影響
撮影行為により目隠しのための隊員を増やさなければならず、本来傷病者に向けるべき支援が減少してしまう。さらにプライバシーに配慮して問診や観察を急いで行わなければならず、救急車内の収容を優先せざるを得ない場合もある。
何より傷病者本人にとっては、知らない間に倒れている姿を撮影されることは恐怖であり、不快なことだ。万が一SNSに拡散されれば、ネット上に消えない心理的な傷を負うことにもなる。救急車で運ばれる辛さに加え、精神面の追い詰めも絶対に許されないとたたらさんは強調する。
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SNS拡散による「二次被害」の深刻さ
一度ネットに流れた映像は拡散を止めるのが困難で、個人が特定される映像は事故の傷が癒えても心の傷は消えないままだと語る。
誰もが撮影者になり得る時代に伝えたいこと
「スマホを持つことが当たり前の時代で、撮影する習慣がついているのは理解するが、とりあえず撮影しておこうという考えはやめてほしい」と訴える。
傷病者が撮影されることを恐れて、倒れている人へ駆けつけることを躊躇する人もいるかもしれない。結果的に救助の可能性を狭めてしまっている可能性もあることを認識してほしい。
誰もが救助者、そして目撃者としての責任を持とう
救急現場は命の現場であり、傷病者の尊厳を守る場所でもある。スマホでの撮影は軽い気持ちで始めるかもしれないが、その一枚、一秒が誰かの人生や心を深く傷つけるかもしれない。
撮影を控え、まずは現場で何が本当に必要なのかを考え、尊重すること。それが私たち一人ひとりに求められている責任だろう。
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(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)