「文具×ガチャ」またひそかに売れた、キングジム「3カ月完売」ヒットの秘密

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2025年07月26日 06:20  ITmedia ビジネスオンライン

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これ、ほんとに文具? ミリ単位で開発した「キングミニ」

 ハンドルを「ガチャガチャ」回すと、小さなカプセルがコロンと落ちてくる――。


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 商業施設や駅の構内などで、カプセルトイのマシンをよく見かけるようになった。日本玩具協会によると、市場は2019年度の353億円から2023年度には800億円を突破し、わずか4年で2倍以上に拡大している。


 カプセルトイ市場が盛り上がりを見せる中、オフィス文具メーカー「キングジム」(東京都千代田区)も、カプセルトイ風の商品を展開している。その名は「キングミニ」。2022年6月に発売したところ、目標の5万個は3カ月で完売。その後も好調に推移しているわけだが、そもそもどういったきっかけでキングミニを開発したのだろうか。


 きっかけは、企画を立ち上げた金谷聡志さんの”カプセルトイ愛”である。仕事の帰り道に、何気なくカプセルトイのハンドルを回していたところ、ふと、こんなことを思いついた。「会社にはロングセラー商品がたくさんある。認知度が高いので、そうした商品をミニチュアサイズにすれば、面白いかも」と。


 オフィスで働く人の多くは、キングジムの商品を目にしたことがあるはず。例えば「キングファイル」。累計販売数は5億個(現在は6億個を突破)を超えているので、金谷さんは「カプセルトイのように、キングファイルを小さなサイズにすれば売れるのではないか」と考え、企画を進めていく。


 だが、上司からは「小さくするだけでは、ウチが手掛ける意味がない」と厳しい言葉をかけられた。かわいいだけでは意味がない。カプセルトイのようなフィギュアではなく、実際に使える「本物の文具」でなければいけない。このように受け止めた金谷さんは、設計をイチから見直すことにした。


●「面白いと思う。私は好きだな」のひとこと


 小ささと実用性。一見相反する価値を両立させるため、細部の寸法、使い心地、素材選びに至るまで、ミリ単位の調整を積み重ねていった。


 新商品の企画は、課や部のレベルではすでに承認を得ていた。だが、問題は「開発会議」である。この会議には社長や役員が出席し、製品として本当に世に出すかどうかを最終的に判断する。いわば社内の“登竜門”で、ここを通過して初めて商品化が決まる。


 その場で、金谷さんはプレゼンするものの、反応はあまりよくなかった。「実用性に乏しい」「売れないのではないか」といった声が広がる中で、当時の宮本彰社長(現会長)はこう言った。


 「面白いと思う。私は好きだな」


 なぜ、このような発言をしたのか。先ほど触れたように、オフィスで働く人にとってキングジムの商品は目にすることが多いが、そうでない人にとって認知度はまだまだ。社会人経験のない学生にとっては、「キングジムって何?」という認識にとどまっている。


 このことは調査でも明らかになっていて、会社としても課題のひとつとして受け止めていた。そうした中で生まれたキングミニは、サイズこそ小さいが、実際に使える実用性も備えている。開発会議では「SNSで話題になるかもしれない」といった声も出て、製品化が決まったのだ。


●2つのアイテムをつくってみた


 そして、2つのアイテムをつくってみた。1つは、キングファイルの形をした「キングファイルクリップ」(550円〜)。サイズは約60枚の書類が綴じられるMサイズと、約90枚の書類が綴じられるLサイズの2サイズを用意した。


 キングファイルは、オフィスや学校などで使われている定番のファイルだ。特徴的なのは背表紙のデザインで、青・緑・赤・黄の4色の正方形が並んでいる。ミニクリップにもこの4色を取り入れており、書類やメモを色別に分類しやすくなっている。


 もう1つのアイテムが「キングファイルふせん」(550円〜)である。見た目は小さなキングファイルそのもので、中にふせんが収納されている。ふせんのタイプは、「背見出しタイプ」と「インデックスタイプ」の2種類を用意した。


 背見出しタイプは、キングファイルの背表紙をそのまま再現したデザインとなっている。インデックスタイプは、緑・黄・白・橙・青の5色のふせんがセットになっており、ファイルやノートに貼って分類・整理がしやすい仕様である。


●目標の数字が2倍、なぜ?


 冒頭で紹介したように、第1弾の目標は5万個だったが、わずか3カ月で完売した。発売前からSNSを中心に「小さくてかわいい」「早く実物を触ってみたい」といったコメントが並んでいたものの、同社にとって前例のない商品である。どのくらい売れるのかよく分からなかったので、とりあえず5万個を用意した。


 この「5万個」という数字は、多いのか少ないのか。カプセルトイの世界でいえば、「1万個売れればヒット」と言われている。キングミニの第1弾は6SKUを発売したので、1SKU当たり8000個ほどになる。つまり、カプセルトイの基準で見れば、「まずまず」といえるわけだ。


 ただ、気になることがある。「3カ月で完売」と聞くと成功に思える一方で、商品がすぐに手に入らなかったことに対する不満の声も多く寄せられたという。「なぜないのか?」という声がたくさんあって、営業担当者はそのたびに頭を下げて回ったそうだ。


 さて、第2弾はどうだったのか。2024年6月に新商品を投入し、目標は9万8000個に設定した。前回の目標から2倍ほどに増やしたので、「会社あるあるだよなあ。想定以上に結果がよければ、『次はこれくらいやれるでしょ』とノルマが増えるんだよ」とぼやいている読者もいるかもしれないが、根拠のない数字を並べたわけではない。


 第1弾の販売データ、営業現場の声、商品別の回転率、物流コスト、そしてSKUの数など。こうした数字を検証したうえで、目標の数字を設定したそうだ。


 では、金谷さんはこの数字をどのように受け止めていたのか。「いきなり2倍でしたから、胃がキリキリしました。本当に売れるのかなあと」心配したそうだが、第2弾も3カ月で完売。ということは、再び、お客や代理店から不満の声が出てきたのではないだろうか。その通りである。


 「なぜないのか?」という問い合わせが多く、営業担当者が再び頭を下げる日が続いたそうだ。


●「キングミニ」第3弾が登場


 最後に紹介するのは、第3弾の商品である。2024年7月18日、新たに2つのアイテムを発売した。1つは「クリアーファイル カラーベース」をイメージした「ミニカラーベース」(550円)、もう1つは「リングファイル」を再現した「ミニリングファイル」(660円)である。


 個人的に気になったのは、ミニリングファイルのサイズである。中に入っている透明のシートの大きさは「幅87ミリ × 高さ103ミリ」。実はこのサイズ、トレーディングカード(トレカ)とほぼ同じなのだ。


 もちろん、たまたまトレカがぴったり入るサイズにしたわけではない。近年、トレカを楽しむ人は急増していて、2024年度の市場規模は約3000億円に達する見込みだ(日本玩具協会調べ)。それだけ多くの人が関心を持つ分野だからこそ、サイズにもこだわったそうだ。


●キングミニじゃなくて、キングギガ


 さて、第3弾の発売にあたり、どんな目標を立てたのだろうか。第1弾の5万個から第2弾は9万8000個に増えたので、ほぼ2倍である。次も、2倍にすると約19万6000個、つまり20万個近くになる計算だ。


 「いやいや、さすがに倍々ゲームはムリゲーでしょ。15万個くらいじゃないの?」などと思われたかもしれないが、目標は25万8000個である。繰り返しになるが、第2弾のときと同じように、この数字は適当にはじき出したものではない。


 緻密に計算された目標とはいえ、25万8000個という数字を聞いた関係者は、こう感じたかもしれない。


 「これはもう、キングミニじゃなくて、キングギガですわ」


(土肥義則)



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