「息子なら責任を持って殺しなさい」介護の末に91歳の母を殺害した息子「母には自分しかいなかった…」自治体に相談も母自身が支援を拒否

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2025年07月29日 07:03  TBS NEWS DIG

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「息子なら責任を持って、殺しなさい」そう迫る母親(91)の首に、息子(62)は手をかけた―。嘱託殺人の罪に問われた息子が法廷で明かしたのは、8年にわたる孤独な介護生活だった。「母には自分しかいなかった」。一体、何が彼を追い詰めたのか。2人を救うことはできなかったのか。(社会部 重松大輝)

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「疲れてしまって首を絞めた」8年間の孤独な介護

2025年5月15日の早朝。東京・小平市のマンションの一室から、110番通報が入った。

「介護している母親が『死にたい』と言うので、私も疲れてしまって、首を絞めた」

駆けつけた警察官が、布団の上で倒れている半田チヱ子さん(当時91)を発見。チヱ子さんは、搬送先の病院で死亡が確認された。110番通報したのは、同居する息子の誠被告(62)で、その後、嘱託殺人の罪で起訴された。

7月15日に東京地裁立川支部で開かれた初公判で、憔悴しきった様子の半田被告は「間違いありません」と起訴内容を認めた。裁判では、事件に至る経緯が明らかになった。

高校を卒業後、物流などの仕事をしていた半田被告。

1998年に父親が他界した後、チヱ子さんと2人で暮らすようになった。チヱ子さんは足腰が悪く、2017年ごろから介護が必要となった。2019年ごろからは家の中に引きこもるようになり、ここ数年は、一人で歩くこともできない状態に。2、3時間に1回はおむつを取り替える必要があった。食事や介護など、チヱ子さんの日常生活の全てを、半田被告が一人で面倒をみていた。

チヱ子さんの介護が始まった当初から、半田被告は福祉サービスを受けようと、小平市にある「地域包括支援センター」に何度も足を運んでいた。しかし、支援には至らなかった。チヱ子さんが支援を拒否したからだ。

「頑固で、気丈な性格で、車椅子や杖をつく姿すら見られたくない人」

半田被告は、チヱ子さんの性格をこう説明した。兄弟はおらず、親戚など頼れる人もいなかった。半田被告は2021年ごろに仕事を辞め、チヱ子さんの介護に専念するようになると、チヱ子さんが「死にたい」「殺して」と繰り返すようになった。

「これまで育ててあげたんだから、最後は私の希望を叶えて」

事件前日の5月14日。半田被告が買い物を終えて帰宅したところ、チヱ子さんが床に倒れていた。転倒し、自力で立ち上がれずにいたのだ。半田被告が「病院に行こう」と手を引くと、チヱ子さんは「もういいから」と言って、その手を振り払った。

事件当日の15日午前3時半ごろ。半田被告がチヱ子さんのおむつを取り替えていたところ、チヱ子さんはいつものように「死にたい」「殺して」と繰り返した。

そして、午前5時前。ごみ出しのため外に出ようとする半田被告に、チヱ子さんは「ごみ捨てどころじゃなくて、殺して」「誠じゃなきゃダメだ」と繰り返した。「私が犯罪者になってしまう」と半田被告が答えると、チヱ子さんはこう言った。

「これまで育ててあげたんだから、最後は私の希望を叶えて」

その言葉に心が折れた半田被告は、ネクタイでチヱ子さんの首を締めた。

介護と家事に追われて睡眠は2時間「母親には自分しかいない」

「24時間、介護や家事に追われて、1日2時間しか寝られなかった。母は昔の人なので、食事もチルド品やインスタントはダメだった。思い出もたくさんあるが、やはり介護を始めて、こんなにも大変なんだと…」

被告人質問で、弁護人から自身の生活について問われた半田被告は、こう声を詰まらせた。チヱ子さんの殺害に使ったネクタイについては、このように説明した。 

「母は最初、包丁やカミソリと言っていたが、その後、『血を見たくないので、首を絞めるものはないか』と聞いてきた。しばらく、凶器になりそうなものは隠していたが、母があまりにしつこく言うので、『一応、これはある』とネクタイを渡した。すると、母がそのネクタイを布団の下に隠して、『これでいつでも死ねる』とお守りのようにしていた」

検察官から「母の言うことを聞いていると、自分がダメになると思わなかったか」と問われると、こう答えた。

「62年間育ててもらって、母が元気だったころには、仕事や遊びなど自由にやらせてもらった。介護が始まってからは、母の面倒を見ることが生きている者の務めではないかと考えるようになった。母には自分しかいないから」

そして、絞り出すように、こう明かした。

「後悔はある。わがままで気丈で寝たきりの母でも、自分のメンタルが続く限り、生きていてほしかった。私が自殺したいくらい、切羽詰まってしまった」

「大好きな母の最後の願いを息子が叶えた事件」

検察官は「介護疲れの面があったことは否定しないが、他の道を選ぶこともできた」などとして、半田被告に懲役4年を求刑した。

半田被告の弁護人は、「大好きな母の最後の願いを、息子が叶えたという事件。被告は、『生きていてほしい』と願いながらも、母の気持ちを優先した。介護疲れはあったが、介護から解放されたくて殺害したのではない」と主張。「他にも手段があったはずだと考えるのは簡単だが、それを選択できる可能性はなかった」と、懲役3か月、執行猶予1年が妥当だと訴えた。

「被介護者の拒否」が大きな壁 専門家「立ち入り調査できる権限を」

事件は防げなかったのか。

2人を知る男性は、事件の数か月前にも、チヱ子さんの病院に付き添う半田被告を見かけたという。半田被告とは、よく海外サッカーの話題で盛り上がったが、「『介護が大変だ』とか、弱音を一切吐かなかった。全て一人で抱え込んでいたのだと思う」と話した。

小平市の地域包括ケア推進担当・藤川晶雄課長が、取材に応じてくれた。「もっと積極的に声掛けができなかったことが悔やまれる」とした上で、「被介護者自身の支援拒否が、福祉の大きな壁になるケースは少なくない」と話す。

藤川課長は、「家族などから虐待を受けていると疑われる場合には、行政が『やむを得ない事由による措置』を実施し、職権で家族から分離したり、老人ホームなどを利用させたりすることは可能だ」と指摘する。しかし、半田被告の事件のように、チヱ子さんが福祉サービスを受けることを拒否し、虐待の兆候がない場合は、「行政にできることは極めて限られる」と、声を落とす。

一方で、高齢者問題に詳しい淑徳大学の結城康博教授は、「虐待などがない場合でも、立ち入り調査できる権限を行政に与える必要がある」と指摘する。

「献身的に介護をしているケースほど『共依存関係』になり、追い詰められて殺人に至る場合も多い」という。そのため、介護する側とされる側の両方の安全を確保するために、高齢者虐待防止法を改正するなどして、定期的な「立ち入り検査権」を行政に与える必要があるというのだ。人権やプライバシーの問題はあるが、「ある程度、プライベートゾーンに無理やりにでも入っていける体制を作らないと、増加する介護殺人や孤独死を防ぐことは難しい」と強調した。

執行猶予付き判決「親孝行したいと献身的介護で、同情の余地大きい」

7月25日の判決。東京地裁立川支部は、半田被告に懲役2年6か月、執行猶予4年を言い渡した。

「『親孝行をしたい』と献身的な介護を続ける中で、死ぬことを固く決意した母の態度に心が挫けた。生きていて欲しかったが、最後は息子として、希望を叶えてあげたいと犯行に至った」
 
「昼夜を問わない介護により、心身共に疲弊し、被害者の言動によって精神的に追い詰められていた半田被告に同情の余地は大きい」

判決は、半田被告の8年にわたる孤独な介護生活に寄り添うものだった。

判決文が読み上げられる間、半田被告は肩を震わせながら、何度も頷いた。

このニュースに関するつぶやき

  • 「育ててあげた」とかいう勝手な言い草は辞めろ。親は子どもを産んだら育てるのが当たり前なんだよ。息子が嘱託殺人罪に問われるのも見越しての事か?
    • イイネ!41
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