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あちちちちち! 公園などの遊び場には、やけどをする危険が潜んでいるのでご注意を――。
猛暑日が続いていることもあって、このようなニュースを目にすることが増えてきた。外出を控える人も多いだろうが、逆に暑くなると人が集まるスペースがある。全国10施設の来客数(6月)を調査したところ、平均気温が約26度の週に比べ、約32度の週は来客数が約3割も増えていたのだ。
「ん? それってどこ? オレなんてずっと家にこもっているよ」などと思われたかもしれないが、答えはイオンモールなど商業施設にある「屋内公園」だ。
アミューズメント施設などを運営するイオンファンタジー(千葉市)は2023年3月、商業施設の東京ソラマチに「ちきゅうのにわ」という屋内公園をオープンしたところ、「想定を大きく上回る来客数を維持している」(企画担当の王鞍一真さん)という。
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この結果を受け、全国のショッピングセンターから「ウチにも空きスペースがあるから、来てくれないか」といった声が相次いだ。その後、屋内公園はじわじわ増えていき、現在は全国に13施設。今年度中に、20施設まで増やす予定だという。
屋内公園で、人気を集めているのは「ちきゅうのにわ」だけではない。イオンファンタジーは今年の6月に、1日滞在型の「のびっこジャンボ」(イオン和泉府中店)をオープン。翌7月には、人工芝でピクニック気分を味わえる「のびっこピクニック」(イオン春日井店)が登場。のびっこピクニックはオープン1カ月で1万人以上が詰めかけるなど、順調な滑り出しとなったようだ。
イオンファンタジーはなぜこのような施設をつくったのか。今年のような暑い日が続くことを予想していた……といった占いまがいの話ではない。一言でまとめると、予期せぬチャンスがきっかけだった。
東京ソラマチに出店するにあたって、当初は別の企画を用意していた。外国人観光客が増えていたこともあって、日本文化を伝えられる施設を予定していたが、新型コロナの広がりを受けて、インバウンドは急減。何か代わりのものはないかと模索していたところ、王鞍さんが以前から温めていた案があった。それが「ちきゅうのにわ」だったのだ。
●3施設の特徴
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埋もれていたアイデアが一気に脚光を浴びたわけだが、「ちきゅうのにわ」とはどんなところなのか。対象は0〜12歳までの子どもとその家族で、地球の面白さや自然の大切さなどを遊びながら学べるスペースとなっている。
特徴は、火山、氷山、地層など、自然をモチーフにしたエリアがある点だ。火山エリアにはマグマのようにボールが飛び出すプール、氷山エリアにはスライダーでボールプールにダイブする遊具、地層エリアには抗菌砂を使った砂遊びコーナーがある。
料金は施設によって異なり、東京ソラマチ店の場合、平日の1日パスで大人1000円、子ども2000円である。広さは、13施設の平均で300坪ほど。テニスコートに換算すると、約4面分にあたる。
「のびっこジャンボ」は、広い空間を持つ屋内施設である。子どもたちはボールプール、大型ブロック、トランポリンなどで遊ぶことができ、ゲームコーナーも設置されている。一方、「のびっこピクニック」は、人工芝の上にレジャーシートを敷いて遊べる施設として設計されている。子どもたちは自由に歩き回り、親子が過ごしやすい空間になっている。
「のびっこジャンボ」の料金も施設によって違っていて、イオン和泉府中店の平日1日パスは大人が500円、子どもが900円。広さは、約524坪。「のびっこピクニック」春日井店の料金を見ると、平日1日パスは大人が500円、子どもが1200円(会員料金)。広さは、約600坪。
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3施設を紹介したものの、行ったことがない大人からすれば「どれも同じようなもんでしょ」と感じられたかもしれないが、運営側からすると大きく違う。細かなところを挙げるとたくさんあるが、最大の違いは「コスト」である。
「ちきゅうのにわ」に設置している遊具の多くは、特注である。つまり、ここでしか体験できないものがたくさん並んでいるので、そのぶんコストがかかる。また、運営にあたって、多くのスタッフを配置しているので人件費もかかる。
一方、のびっこシリーズに設置している遊具は、既製品が多い。また、スタッフの数を最小限に抑えているので、運営コストに大きな違いがあるのだ。
●人気の理由
それにしても、なぜイオンモールなどの屋内公園は人気を集めているのか。繰り返しになるが、「暑さ」は要因のひとつである。しかし、それだけではないようだ。
イオンファンタジーは施設がオープンするたびに、利用者にアンケートを実施している。「満足度95%以上」をひとつの目安にしていて、その数字が下がらないように、あらゆる手を尽くしている。
例えば、イオンモール沖縄ライカムに「ちきゅうのにわ」をオープンして、利用客にアンケートを実施したところ、トイレについて不満の声があった。施設の近くにトイレがなかったので、ある人は別のフロアまで移動していた。対応が必要だと考え、施設内にトイレを設置した。
このほかにも、さまざまな声に対応している。「ウェットティッシュが足りない」という声があれば追加で設置したり、「この遊具にスタッフを置いてほしい」との意見があれば人員の配置を見直したり。
「満足度95%以上」を維持するために、必要な対応を一つひとつ行っている。このような工夫の積み重ねが、屋内公園の運営を支えているようだ。
もう1つ、ちょっとユニークな取り組みがある。今年の8月、イオンモール幕張新都心に「ちきゅうのにわプレイラボ」という施設をオープンした。ネーミングからすると、子どもたちが何かの研究を楽しめる場所なのかと思いきや、そうではない。
これまでになかった遊具を設置していて、子どもたちはそこで遊ぶ。そして、そこから得られたデータや声を参考に新たな遊具を開発していく場なのだ。
なぜ、このような施設を設けたのか。新しい遊具を設置して、「さあどうぞ。たっぷり遊んでくださいね」とオススメしても、遊具に何らかの不具合があってケガをするかもしれない。また、スタッフのオペレーションがうまくいかないかもしれない。
そうしたリスクや課題を浮き彫りにするために、このラボで実験を行う。その上で「問題はなし。たくさんの子どもたちが遊んでくれるはず」と判断すれば、その遊具を全国に展開するのだ。
●課題解決のカギ
さて、商業施設の屋内公園を紹介してきたわけだが、課題もある。想定以上の反響でリピーターは増えているものの、次に訪れるまで少し間隔があくようだ。
この問題を解決するために、イベントの実施を増やすなど、さまざまな手を打つ予定である。しかし、いずれにせよ子どもたちに「また、ちきゅうのにわに行きたい」と思ってもらうことが必要である。
では、どうすれば子どもたちに「もう一度遊びたい」と思ってもらえるのか。ここで、ラボの役割が重要になる。新しい遊具をつくり、子どもたちに遊んでもらう。その様子や声をデータとして集め、人気が出そうな遊具を開発する。その後、全国の施設に導入して再度改善を行う。このサイクルを回すことで、リピーターを増やし、次に訪れるまでの間隔が短くなるように工夫している。
子どもは夢中で遊び、大人はそこから新しい企画のヒントを得る。「遊びからビジネスまで、ノビノビできる場所」なのかもしれない。
(土肥義則)
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