森永の「板チョコアイス」はなぜ消え、なぜ売上倍増で帰ってきたのか?

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2025年10月18日 09:20  ITmedia ビジネスオンライン

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森永製菓の板チョコアイスが好調

 発売から30周年を迎えた森永製菓の「板チョコアイス」(参考小売価格184円)が人気だ。2024年度の売り上げは過去最高を記録し、2025年度も第1四半期の時点で、森永製菓の主力4商品(冷菓事業)の中で最も売り上げを伸ばすなど、好調を維持している


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 1995年に「夏に食べられるチョコレート」として誕生した板チョコアイスは、パキッと割れるチョコレートと、滑らかなバニラアイスを組み合わせた商品だ。


 直近5年間で売り上げが2.4倍に拡大するなど、好調な売れ行きを見せている。その背景には「販売の通年化」「季節限定商品の展開」「プロモーション戦略」の3つの要因がある。2020年の通年販売をきっかけに、限定商品の投入と人気コンテンツとのコラボレーションを積極的に展開し、認知拡大と新規顧客の獲得につなげた。


 いまや同社を代表するブランドに成長した板チョコアイスだが、販売休止に追い込まれた過去がある。1997年から売り上げが縮小し、2002年春から2003年春にかけて販売を休止していた。


 その要因の一つが、1998年に実施したパッケージ変更だ。食べやすさを重視して箱からフィルムに変更したところ、「板チョコみたいなアイス」という訴求が弱くなり、他のチョコ系アイスと比べた際の独自性が失われた。


●ファンの声を受け復活


 こうした背景を受けて、消費者からは再販を望む声も多く寄せられた。そこで同社は、発売当初からこだわっていた「板チョコらしさ」を追求し、2003年秋に再発売を決断した。秋冬のアイス市場には伸びしろがあり、菓子カテゴリーではチョコレートの売上が拡大するシーズンでもある。「板チョコみたいなアイス」という商品特性から、チョコ需要が高まる秋冬との親和性が高いと判断した。


 コンセプトも「夏に食べられるチョコレート」から、「秋冬にぴったりなチョコを楽しめる板チョコ型のアイス」へと転換。箱のパッケージを復活させ、チョコレートの山の数も調整して食べやすさを向上させるなど、「板チョコ」としての存在感を形にした。


 再発売後は秋冬限定として定着していたが、「夏も食べたい」という要望が多くなり、2020年から再び通年販売に切り替えた。通年化に際し、同社は人気アニメ『進撃の巨人』とのコラボを実施。背表紙をつなげると1枚の絵になる全10種類のパッケージを展開して話題を呼んだ。


 「秋冬商品として発売していたこともあり、認知度が低かった。品質を知ってもらえれば、ファンになってもらえると考えてコラボを実施した」と、冷菓マーケティング部の谷山実希さんは振り返る。


●夏場の伸び悩みを打破


 ところが、濃厚な味わいの特徴があるため、夏場の売り上げは想定より伸び悩んだ。そこで、2023年6月から後味をさっぱりさせた「夏限定商品」(同184円)を発売。チョコと油脂の配合比率を変更し、バニラアイスの甘さを軽減した結果、前年比116%を記録し、夏場の売り上げが回復した。


 同年の秋冬には「白い板チョコアイス」を展開し、女性を中心に顧客層を拡大。その後も、限定フレーバーの商品を販売している。その狙いについて、谷川さんは「知ってもらうためのきっかけづくり。定番品でアプローチできない層にも楽しんでもらうことを狙った」と説明する。


 プロモーション施策も並行して行い、2023年からアイドルを起用したCMで若年層への認知拡大を促進。2024年には料理系YouTuberとコラボし、家庭で板チョコアイスを完全に再現する動画を公開した。原材料情報をもとに何度も試作する様子が共感を呼び、再生回数は200万回を超えた。


 2025年には、期間限定で「バースデーショートケーキ味」(同260円)を発売し、SNSを活用したプレゼントキャンペーンを展開。さらに、人気ゲーム「アイドルマスター」との周年コラボ企画も行った。


 複合的な施策の背景には、一貫して「板チョコらしさ」を訴求する狙いがある。パッケージデザイン、コラボ施策、限定商品のいずれも、「板チョコアイス」としての存在感を打ち出すことを重視している。


●チョコ比率は一般的なチョコアイスの3倍


 プロモーション戦略とともに、商品開発へのこだわりも成長を支えている。板チョコアイスは製品の約45%がチョコレートで構成されているが、これは一般的なチョコアイス(10〜15%程度)の3倍近い数字だ。


 高い比率を実現するため、独自の配合技術を採用。味わいや食感の異なる数種類のチョコレートをブレンドすることで、パキッとした食感と滑らかな口どけを両立した。さらに、融点が低いチョコレートを使用することで、冷凍状態でも口の中ですっと溶けるよう工夫した。


 形状も発売当初は角が丸みを帯びていたが、2003年から角を鋭角にした現在の形となった。より板チョコに近づけるため、開発担当者が理想の鋭角な金型を求めて板金工場を訪ね歩いたという。


 バニラアイスも、アイスの製造時に水分が凍結してできる氷の粒の大きさをコントロールして、なめらかな食感を実現している。「チョコが強すぎても、アイスが強すぎても、顧客の満足は得られない。チョコとアイスの両方をしっかり楽しめる比率にこだわっている」と谷山さんは語る。


●さらなる認知度向上を目指す


 売り上げは拡大傾向にあるが、同社はさらなる認知度向上を課題として位置付けている。


 対策は、品質価値の訴求だ。2025年秋からは「板チョコちゃうねん、アイスやねん」をメインフレーズとしたテレビCMを展開。パキッとした食感と滑らかな口どけという独自の魅力を表現する「パキどけ」という新たなコピーも打ち出し、唯一無二の品質を伝える狙いだ。


 「板チョコアイスを知らない、知ってはいるけど買ったことがない層はまだ多い。食べたいと思ってもらえる品質やコミュニケーションを展開していきたい」(谷山さん)


 板チョコアイスは、販売休止も経験したブランドだが、過去最高の売り上げを達成した。「販売の通年化」「季節限定商品の展開」「プロモーション戦略」の組み合わせが成長を支えているが、根底には「板チョコらしさ」へのこだわりがある。


 箱型パッケージの復活、チョコ比率の高さと独自配合、板チョコを想起させる形状を実現するなど、いずれも「板チョコアイス」としての存在感を明確にする取り組みだ。


 森永製菓の板チョコアイスは、形状や味わいのこだわりを貫いてきた。この「板チョコらしさ」が、さらに新たなファンを生むことにつながるのだろうか。


(カワブチカズキ)



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  • 板チョコ、小さくなってるよな。
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