「くつろげないから」“大量閉店”したアメリカのスタバ…「日本のカフェチェーン」が他人ごとで済まないワケ

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2025年11月06日 09:01  日刊SPA!

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ManuPadilla - stock.adobe.com
 アメリカのスターバックスが苦戦を強いられています。
 2024年度の北米エリアはわずか3.1%の増収、41%もの営業減益でした。すでに北米エリアだけで100店舗以上の削減、900人のレイオフが決定しています。

 2024年9月にCEOに就任したブライアン・ニコル氏は、「くつろげる店」という本来のブランドを取り戻す努力を重ねてきましたが、成果が出ていません。

 過剰出店によるサービス力の低下は、日本も決して他人ごとではありません。

◆スターバックスの原点回帰を果たしたが…

 アメリカのスターバックスはコロナ禍以降、過度な値上げに加えて回転率重視で席数を増やしたことで、客離れを引き起こしました。新CEOのニコル氏は、居心地を重視した顧客体験を取り戻すため、席の再配置や素材の見直しを急ピッチで進めています。

 スタッフに対しては、カップに感謝の気持ちを伝えるメッセージを手書きで行なうよう指示もしました。かつてスタッフが自発的に行なっていたものを、半ば組織的に実行するようになったのです。陶器製のマグカップも復活させました。

 ニコル氏の改革は、サービス力の高さが最大のセールスポイントであったスターバックスの原点に立ち返るものでした。

 一方で、疲弊するのは現場スタッフ。手書きメッセージの強要は現場負担が大きすぎると、SNS上で批判や不満の声があがっています。

 ニコル氏は顧客満足度を高めるため、提供時間を最長4分に短縮するよう指示もしていました。現場が混乱するのも無理はありません。

◆「くつろげる店」の基準に達しない店舗は…

 また、アメリカで閉鎖する店舗に対して、顧客と従業員が期待する物理的な環境を提供できないと述べました。足もとでは目覚ましい業績回復の兆しがないことから、「くつろげる店」の基準に達しない店舗の閉鎖は続くと見られています。

 そもそも、アメリカのスターバックスは店舗数が多すぎるという問題がありました。およそ1万6000店舗あまりあると言われています。アメリカの人口は3億3600万人なので、単純計算で2万1000人の商圏内に1店舗あることになります。一方、日本は6万2000人に1店舗の計算。

 アメリカのスターバックスは、過剰出店で1店舗当たりの売上高が伸び悩み、テコ入れ策として顧客満足度の向上を図りました。しかし、スタッフへの負担が増し、現場が混乱しているという状況なのです。

◆コロナ前の「1.6倍」に成長した日本のスターバックス

 一方、日本のスターバックスの業績は極めて堅調です。2024年度は11%の増収、15%もの営業増益でした。2019年度の売上高は2011億円でしたが、すでに3200億円を超えています。コロナ禍を経て6割も売上が増加しました。

 ドトールは2019年度の売上が792億円で、2024年度は1割増の884億円。日本のスターバックスの圧倒的な強さが目立ちます。

 日本においては、スターバックスの居心地の良い店というブランドは崩れておらず、子供づれや観光客、学生、ビジネスマンなど顧客属性に最適化した店舗展開にも力を入れています。シーンに応じた「くつろぎ」を提供しているのです。

 また、大学生を中心にアルバイトを希望する場所として強い人気を獲得しており、スタッフのモチベーションが高く維持されていることでも有名。顧客満足度と従業員満足度が高く、好サイクルが回る理想的なパターンを形成しています。

◆歯止めが利かない人手不足…学生の平均時給は1512円

 国内のカフェ市場も回復してきました。経済産業省が調査している生産活動を捉えるための経済指標「第3次産業活動指数」で、喫茶店は2019-2020年を基準値100とすると、2024年は111。「飲食店、飲食サービス業」が97.3であり、「食堂、レストラン、専門店」が105.9。好調な「ファーストフード店」でさえも110であり、飲食業界の中でもカフェの需要回復は際立っています。

 ただし、こうした状況下で競合も活気づいています。2019年度は900店舗を下回っていたコメダ珈琲は2024年度に1000店舗を突破。2025年度は上期だけで国内11店舗の新規出店を行なっています。ドトールも上期に12店舗を出店し、1300店舗に迫る勢いとなりました。競争は激しさを増しています。

 懸念されているのが人手不足。飲食店はアルバイトの獲得合戦を繰り広げている業界で、インディードによると東京都の飲食における学生の平均時給は1512円。全業種の1378円と比べると割高であり、人手不足は深刻化しています。

◆効率重視の“中国産カフェ”が市場を席捲?

 帝国データバンクによると、2024年度の喫茶店の倒産件数は過去最多のペースで進行しており、2024年4月から2025年2月までで66件発生。年度累計では2018年度の73件を上回る可能性があります(「「喫茶店」の倒産動向(2024年度)」)。背景の一つにあるのが、人件費の高騰でした。

 日本のスターバックスは従業員に対する教育が徹底されており、時間も十分に割かれています。それがサービス力の向上に繋がり、顧客満足度を引き上げています。しかし、人材の獲得が満足に進まなくなると、立ちどころにこの好サイクルが逆回転する可能性があるのです。

 そして、新たな脅威も現れました。生産性を重視した中国産カフェです。

 ラッキンコーヒーの創業者が立ち上げたコッティコーヒーが2023年に日本に進出。この会社は2022年創業で、すでに世界で1万6000店舗以上を展開しています。急拡大している要因が、価格の安さとオペレーションの簡略化でした。フードメニューはなく、店舗が狭いためにテイクアウトが中心です。

 コンビニのコーヒーとカフェの中間にあるような店舗で、日本の人手不足という側面に焦点を当てると、理にかなった店づくり。

 ラッキンコーヒーは2025年7月にアメリカに1号店をオープンしました。効率化を重視したスタイルのカフェが、アメリカ市場も侵食しています。

 カフェ業界は、効率化とサービス力のどちらかを選ばざるを得ず、アメリカのスターバックスは後者を選びました。しかし、その歪みも表面化しています。

 日本の多くのカフェチェーンも多くはサービス力を重視しています。人口減少という抗いきれない状況がある中、どこまで続けられるかが勝負になるでしょう。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界

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  • 日本も無くなれ!何が「Tall」じゃ。
    • イイネ!7
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