片側三車線の1番右側の右折専用車線を電動キックボードで走る男性も
写真提供/Cさん
改正道路交通法施行に伴い、電動キックボードは特定小型原動機付自転車として免許不要で16歳以上から利用可能となった。だが、導入当初からマナー違反や交通違反、事故が多発し、社会問題ともなっている。
◆「もう、やってらんない」タクシー運転手の怒りと嘆き
都内で10年以上の経験を持つベテランタクシー運転手、Aさんのぼやきは止まらない。
「営業所に戻ると、電動キックボードとの事故報告がほぼ毎日のようにあるんだ。乗ってるヤツのマナーは悪いし、交通ルールもあったもんじゃない。それで事故を起こすとこっちが悪くなるんだもん。やってらんないって」
この運転手によると、すり抜けようとして接触したり、一旦停止を無視して事故に繋がるケースが多いという。
「乗ってる人の中にはイヤホンして音楽聴いてるヤツもいるでしょ。そうすると後ろから来る車とか気づかないんだよ。この前も、前方を走ってた電動キックボードが、その前の自転車を抜かそうとしていきなり車線を膨らんできて、こっちが轢きそうになった。自転車抜くのはいいんだけど、抜く前に後ろ見て確認して、ウィンカー出せよって話」
◆トラックドライバーが目の当たりにした危険走行
また、30年の経験を持つトラックドライバーのBさんも、電動キックボードの無法ぶりをよく見かけるという。
「後ろから電動キックボードがきたんだけど、すり抜けられるスペースがなかった。そしたら急に右車線に出て、さらに右折レーンに入って信号待ちの先頭に行こうとしたんだよ。先頭で待ってた車はビックリだよね。青信号に変わって発進しようとしたら、いきなり右折レーンから電動キックボードが飛び出してきたもんだから、派手にクラクション鳴らしてたな」
◆あわや親子を巻き込む危険運転に
さらにBさんは、歩行者も巻き込んだ事故に繋がりそうになったケースも目撃したという。
「信号のない横断歩道で親子が待ってたから停車したの。これは道路交通法で定められた歩行者優先のルールで、最近は取り締まりも厳しい。対向車も止まって私も停車して親子が私の右側から渡ってきたんだ。そしたら、私のトラックの左側を電動キックボードがすり抜けあわや親子に衝突しそうになった。ビックリしてお母さんが立ち止まったんだけど、電動キックボードはスピードも落とさず、親子の目の前を通り過ぎていきやがった。こんなことさ、免許持ってりゃ当たり前に守ることでしょ」
◆「常識知らずが多すぎる」商店街店主の嘆き
電動キックボードの危険運転を不満に思っているのは、ドライバーなど運転を業とする人々だけではない。都内の商店街で店を出すCさんに話を聞いた。
「商店街の道は狭くて人が多いんだけど、あの人たち平気でスピード出して走っていくんだ。配送の車が止まって狭くなってるところを子供が歩いていこうとしたら、電動キックボードに乗った若い女が突っ込んできて、子供に当たりそうになったんだよ。目の前で見てたから『子供が来てるのに無理やり突っ込むなよ!』って怒鳴ったら、キョトンとしてんの。それで『商店街は狭いし、歩行者優先ってわかんないの?』って聞いたら、『そうなんですね』って。そんなレベルの常識しかねぇなら乗るなって話だよ。貸し出しのステーションもあるけど、近くの店で酒飲んで乗っていくヤツとか、2人乗りするヤツとか、ホントそういうのが多いんだよな」
◆交通量の多い幹線道路で起きた無法運転
さらにCさんは、交通量の多い幹線道路沿いで驚きの光景を見たという。
「環七(環状7号線)の交差点で待っていたら、左の方から電動キックボードが走ってきた。でも、よく見たら三車線の一番右側を走ってたんだよね。それで先頭まできたら、横断歩道を渡ってそのまま走り去っていった。どういう神経したらあんなとところ走れるんだろうか」
とっさに撮影したという動画を見せてもらったが、電動キックボードに乗った男性が右車線を走っていく様子が映し出されていた。交通量の多い環状線でこうした乗り方をすることは、もはや自殺行為ではなかろうか。
電動キックボードの“解禁”によって、恩恵を受けた人も多くいるのは確かなことだ。だが、迷惑を被っている人が多発していることも事実である。早急な対応策を練らなければ、事故と不満だけが増えていくことになりかねないだろう。
文/谷本ススム
【谷本ススム】
グルメ、カルチャー、ギャンブルまで、面白いと思ったらとことん突っ走って取材するフットワークの軽さが売り。業界紙、週刊誌を経て、気がつけば今に至る40代ライター