「4℃」店舗数・客数・売上のすべてが減少も、運営会社の業績は絶好調なワケ。今や“4℃論争”も過去の話に

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2025年12月04日 09:20  日刊SPA!

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 ジュエリーブランド4℃がかつてない変貌を遂げました。2024年度の女性売上比率が55%となり、男女の逆転現象が起こったのです。2018年度の女性比率は34%でした。
 4℃は戦略的に女性に愛されるブランドへの転換を進めていました。それが奏功しています。

 クリスマスシーズンになると毎年のように巻き起こっていた「4℃論争」も、いよいよ終わりを迎えるかもしれません。

◆なぜ論争は繰り返されるのか?

 4℃はかつて、男性から女性へのプレゼント需要に応えるというポジショニングを確立していました。それが2018年度の男性の売上比率66%という数字に出ています。

 しかし一般的な男性が、相手の女性の期待値を満たすブランドやデザイン、質感を満たすアクセサリーを選べるわけではありません。そして多くの男性は予算ありきでアクセサリーを探します。4℃はそのニーズにフィットしたのです。

 4℃には「Canal 4℃」という低価格路線の姉妹ブランドがあります。男性側の視点だと「手ごろな価格でかわいいアクセサリーが買える」と考えてしまうわけですが、このブランドは10代後半から20代前半がターゲット。30代の女性が受け取ると「ありえない」などとして、たびたび論争を巻き起こしているのでした。

 こうした男女のギャップが広がるにつれて、4℃のブランドそのものが揺らいでしまうことになったのです。運営するヨンドシーホールディングスはコロナ禍に入る前の2016年度から、6期連続の減収が続きました。

◆痛みを伴う改革を実行。本気度は高かった

 女性がファッションアイテムや自身へのご褒美などとして、日常的に身に着けるブランドへと成長。顧客生涯価値を高める必要があったのです。

 そこで、ヨンドシーは2021年から「ELLE」や「VOGUE」、「BAILA」など女性誌に大量の広告を出稿。ブランド価値の向上に努めるようになりました。

 2024年度には売場改革を本格化。アイテムを陳列するスタイルから、コーディネートを提案する接客へと転換しました。商品数の絞り込みも行っています。

 一方、ヨンドシーの女性の購入比率引き上げは、痛みを伴うものでもありました。そこにこの会社のリブランドの本気度を見ることができます。

◆店舗数・客数・売上のすべてが減少したが…

 実は4℃の売上は大幅に減少しているのです。2025年度上期の売上高は36億円で、前年同期間比でおよそ2割減少。2024年度上期も1割減少していました。

 客数は2025年度上期が5.5%、2024年度上期が6.6%それぞれ減少しています。それにともなって店舗数も減っており、2025年8月末は77。1年で3店舗の純減でした。

 ただし、ヨンドシーホールディングスそのものは2025年度上期が67%の増収、35%の営業増益と業績絶好調の会社。主力ブランド4℃の男女比率を入れ替えたことが大成功したように見えますが、そう単純ではありません。

 男女比の逆転は、従来の顧客が離れることも意味していたのです。4℃の改革はまだまだ進めている最中であり、ブランド単体では増収には至っていないというのが現実。顧客生涯価値を引き上げるため、女性比率を引き上げなければならないという強い覚悟を見出すことができます。

◆中古高級腕時計店を子会社に

 それではヨンドシーはいかにして2桁もの増収増益を果たすことができたのか。理由は2つあります。1つはM&A効果。もう1つがアパレル事業の好調です。

 ヨンドシーは2024年12月に「ロレックス」などの中古高級腕時計を扱う羅針を子会社化しました。「GINZA RASIN」の名で銀座や新宿に店を構えている会社です。

 羅針は足元の業績が好調で、2024年2月期の売上高は前期比23%増の185億円、営業利益が同56%増の15億円でした。

 インフレ下で高級腕時計の価格は安定しています。特に日本における「ロレックス」信仰は根強く、「GINZA RASIN」は業界屈指の品揃えを誇ります。英語や中国語に対応できるスタッフが販売員として在籍しているため、インバウンド需要にも応えることができます。

 中長期的にヨンドシーの業績を支える存在となるでしょう。

◆庶民向けのアパレルを扱う意外な一面も

 そしてアパレル事業の成長も目を見張るものがあります。2025年度上期は3%の増収、12%の営業増益でした。展開しているのがデイリーファッションの「パレット」。イトーヨーカドーやイオン、ダイエーなどを中心に出店をしています。特に関西圏に強みを持っています。

 庶民向けの手ごろな衣料品を扱うショップで、ジュエリーやアクセサリーを販売するヨンドシーが展開しているとは思えません。運営会社アージュの設立は1996年で、30年近く地道に事業に取り組んできました。2021年に売上が100億円を突破しています。

 今では、ヨンドシーの成長を担う存在になりました。

 4℃の客数が減り、減収になっても改革を実行できるのは、別事業で十分な売上と利益が出ているからこそのもの。パレットの売上が100億円を突破して事業が軌道に乗り始めたころに、4℃のリブランドに力を入れるようになり、羅針を子会社化したタイミングで男女比が逆転するという成果が出ました。改革を巧みに進めている印象があります。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界

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