ⒸTBSスパークル/TBS 谷口菜津子氏作の同名漫画が原作のドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(TBS系、火曜よる10時〜)の人気がすごい。無料配信動画サービス・TVerとTBS FREEでの初回総再生回数がTBS火曜ドラマの歴代1位を記録するなど、秋ドラマ屈指の話題作と言っていい。
手間のかかる料理こそ美徳だと考える、そんな昔気質の海老原勝男(竹内涼真)と、人の目を気にしがちな山岸鮎美(夏帆)が主人公。2人は大学時代から付き合い続けていたが、勝男の“化石的な価値観”に耐えられなくなり、鮎美が勝男に別れを告げたところからストーリーが始まる。“古い価値観をアップデートする”という、言ってしまえば最近のドラマでよくある切り口ではある。にもかかわらず、ここまで注目を集めている要因は何なのか。
TBSが公開した本作のプロデューサーを務める杉田彩佳氏のコメントを交えながら、その理由を考えたい。
◆素直と無邪気、悪気がないところの塩梅
やはり勝男役の竹内涼真がハマりにハマっているのが大きい。「顆粒出汁は手抜き」と考えるなど、モラハラとまではいかないまでもステレオタイプな言動が目立ち、イラっとさせられる瞬間も珍しくない。しかし、決して勝男を“嫌なやつ”とは思わせず、むしろ応援したくなる主人公として表現できている。
原作者の谷口氏からは「勝男を見て、周りの人たちがそれを見て変わっていく、背中を押すような感じにできたら」というリクエストがあったようだが、杉田氏は竹内の演技についてこだわった部分として以下のようにコメントしている。
「特に竹内涼真さんも意識してくれたところだと思いますが、素直と無邪気、あと悪気がないところの塩梅。一度変わろうと決めたら一直線なんですよね。谷口先生が描いていた原作の勝男もすごく真っすぐな人物だったので、見ている方々の変わりたいと思う背中を押す要素になっていたらいいなと思っています」(杉田氏、以下カッコ内同)
原作者の願い、さらには竹内の演技力が、勝男という愛される主人公を作り上げ、視聴者に支持されているのだろう。
◆勝男が「肌着」で料理している理由
料理シーンも丁寧に描いていることも勝男が愛されている要因と言える。そんな料理シーンは、撮影現場で生まれたアイデアが大きなスパイスになっているようだ。
「勝男が肌着で料理するのも竹内さん案です。衣装合わせの時に何着もの衣装に着替えていただくのですが、その時に竹内さんが衣装の下に白いTシャツを着ていたんです。私たちが竹内さんの着替えを待っている中、急に白いTシャツ姿で竹内さんが出てきて、『これで料理するってどう思いますか?』と尋ねられたんです。
その時に本作のカメラマンである加藤十大さんや、夏帆さんもその場に居合わせていたので、加藤さんにお願いして、鮎美姿の夏帆さんと肌着姿の勝男の竹内さんで写真を撮ったら、すごくコミカルで面白いなと感じたんです。スタイリストさんたちも『ありですね』と共感してくださったので、肌着姿の勝男が生まれました」
エプロン姿で料理していると、“小慣れている感”が出てしまう。肌着で料理しているからこそ、「不慣れだけど頑張っている」という印象を持たせ、勝男の不器用さと実直さも演出できていたように思う。
◆「いい意味でイメージと違った」シーンとは
勝男に負けず劣らず、鮎美も応援したくなる主人公だ。夏帆の繊細かつ緻密な演技が、視聴者の心をわしづかみに、そのうえで爪をグッと立ててくる。鮎美が示す葛藤を自分事として無意識に考えてしまい、急に心臓がバクバクする瞬間も多いが、杉田氏も夏帆の演技には圧倒されっぱなしのようだ。
「夏帆さんは、自分から発する言葉の重みがちゃんとある人です。セリフもそうなんですけど、動きとかもそうで。たとえば第2話の終わり、『ミナトくんに会いたくなっちゃって』と言った後に、自分が孤独だったと再認識させられて泣いちゃうところがあって。
あのシーンは、私が最初に台本を読んでイメージしていたものとはいい意味で違うものになりました。夏帆さん自身が、自分の中で『別れて変わったはずなのに、孤独に感じてしまう』涙が出ちゃうような演技にしてくれて。並大抵の人にはできないと思うんですけど、そうした解釈を自分の中でしっかり持って演じてくれたのがすごいなと」
◆プロデューサーが語る、夏帆の演技が胸に刺さる構造
演技が上手いかどうかはなんとなくわかるが、それを言語化することは難しい。杉田氏は「夏帆の演技の何がすごいのか」を言語化してくれている。
「セリフの受け方だったり、仕草、声のトーン、テンションなど、1シーン1シーンをちゃんと作ってきてくれていて、その積み重ねが夏帆さんの芝居の説得力につながっていると思います。
特に、受付の仕事をしている時、渚といる時、勝男といた時、ミナトくんといた時とでそれぞれ話し方が違っているんです。実は鮎美っていろいろな人と会っていて、夏帆さんもいろいろな方と芝居をしているからこそ、それぞれに合った話し方に変化させていて、『夏帆さん、すごいな』というイメージを持っています」
相手ごとにコミュニケーションを微調整しているからこそ、鮎美が“周囲の反応を気にしがち”な性格であることに説得力を与えているのだろう。そのため、髪を染めたり、自分の意見を母親・貴恵(しゅはまはるみ)に伝えたりなど、今までの鮎美では考えられなかった大胆な行動を見せる度に、新鮮な驚きを感じられるのかもしれない。
◆最終回の見どころは
杉田氏は最終回の見どころを以下のようにコメントしている。
「勝男は鮎美との生活を取り戻せるのか。鮎美は自分をもう一度信じることができるのか。最終回は2人が選んだ、その先にあるエンディングをお楽しみください」
2人は結婚願望を持っていたが、決して自分自身の内側から生まれるものではなく、世間からの期待やプレッシャーによるものだったことが浮き彫りになってきた。どのようなエンディングを迎えるのかも楽しみにしつつ、最後まで竹内と夏帆の成長や葛藤を見守りたい。
<文/望月悠木>
【望月悠木】
フリーライター。社会問題やエンタメ、グルメなど幅広い記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。X(旧Twitter):@mochizukiyuuki