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即席麺やカップ麺では、これまで国内勢が人気だった。例えば、海外でもシェアが高い日清。ブラジルでは即席麺でシェア7割を占めるなど、高い人気を誇る。
【画像】農心の「辛ラーメン」、海鮮系ベースの「ノグリ」、ジャガイモベースの麺が特徴の「カムジャ麺」
しかし同市場では、日清を中心とした国内勢だけでなく、近年韓国勢も売り上げを伸ばしている。K-POPをプロモーションの武器にして、日本勢にはなかった「辛さ」という新ジャンルを打ち出しながら差別化に成功している。
●国内外の売り上げが拮抗する日清
日清の代表的な即席麺にはチキンラーメンや日清焼そば、出前一丁などがある。出前一丁は付属のごまラー油が特徴で、日本では他の製品と比べて存在感が薄めな一方、アジア圏では有名な商品だ。
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2025年3月期の国内売上高は日清食品単体で約2388億円、グループの明星食品を含めると約2842億円だ。対する海外事業全体では約2908億円と、国内外の売り上げが拮抗している。
海外のうちタイやフィリピンなどの東南アジアは現地企業が高シェアを握っており、あまり進出していないものの、米国では「CUP NOODLES」を主軸に展開。価格競争を避けるため、3ドル台の高価格帯も投入している。
高いシェアを誇るブラジルでは1970年代から進出し、現地に工場も構えた。当初は東洋系の住民から広がったとされ、現地では袋麺の「Nissin Lamen」が人気だ。
●東洋水産は海外が特に好調
日清の競合では、マルちゃんシリーズを展開する東洋水産も海外事業を強化している。
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2024年度は国内即席麺事業の売上高約1030億円に対し、海外即席麺事業は約2293億円と2倍だ。特に米国では物価高で節約志向が進み、1食50セント(約80円)の「MARUCHAN」シリーズが好調で、海外事業の売上高は5年で2倍以上に拡大した。
●辛さを武器に人気の韓国勢
近年は同市場で韓国勢が台頭しつつある。「辛ラーメン」や「ノグリ」「カムジャ麺」などを製造する農心がその代表格だ。ロッテ創業者の弟、辛春浩氏が即席麺事業を展開しようとしたが、兄が「時期尚早だ」として反対したことから、独立・創業に至った。
辛ラーメンは文字通り辛いラーメンだ。日本で発売してから40年が経過しているが、特に近年はK-POP人気とともに韓国への旅行者が増え、国内で認知されるようになった。新大久保の韓国物産店だけでなく、通常のスーパーにも置かれている。
日本国内の即席麺は醤油・塩・味噌・豚骨などが主流で辛さを前面に出すラーメンは少なかった。日本の即席麺市場に「辛いラーメン」という新ジャンルを追加した存在といえる。農心も競合が多い日本では「おいしさ」を訴求するのではなく、辛さをアピールしているという。
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その他、ノグリは海鮮系をベースに太い麺を使った即席麺で、カムジャ麺はジャガイモの粉末をベースにした麺を使っている。両者は辛ラーメンとともに日本での販売数量を増やし、農心の日本国内における売上高は2017年に50億円だったところ、2026年は200億円を目標としている。まだ日清食品や東洋水産と比べて規模は小さいが、存在感を示しつつある。
特に北米ではマルちゃんが売れているように、節約志向などを背景に世界では即席麺の市場が拡大している。農心の北米における売上高は2022年に600億円を超えて、日清を上回った(首位は東洋水産)。欧州の売上高も1億ドルほどの規模で、日本と同じく「辛さ」が好まれている。
●北米市場で日韓戦が勃発か
1963年に韓国初の即席麺とされる「三養ラーメン」を発売した三養食品も注目だ。朝鮮戦争の影響もあり、経済発展していなかった時代に、明星食品の社長が韓国の食糧事情に同情し、技術供与をしたとされる。ピリ辛の醤油味だが、辛さは辛ラーメンより控えめで、そのちょうど良い辛さが韓国の消費者に受けている。
日本で三養ラーメンの知名度は低いが、同社の「ブルダック炒め麺」は若者を中心によく知られている。「火」を意味するブルと、「鶏」のダックを合わせた商品名で、チキン風味の辛い味が特徴的だ。即席麺タイプの場合は、沸騰させた湯の中で麺をほぐし、湯切りして取り出す。その後、麺に少量のゆで汁やソースをかけて炒める。汁なしラーメンのような料理である。
良くも悪くもジャンキーな味が特徴的で、チーズやカルボナーラ風味の商品もある。卵やチーズをのせるなど、アレンジしたレシピがSNSに投稿され、話題となった。
ブルダック炒め麺は日本・韓国だけでなく、米国やアジア諸国にも進出している。辛さを強化した商品もあり、米国では辛さにチャレンジする動画が次々に投稿され、認知度向上につながった。三養食品の海外売上高は2024年に約1500億円を記録し、約4分の1を米国と中国市場が占める。欧州も強化中で、2023年に現地法人を構えた。農心の辛ラーメンと同様に辛さを明確に打ち出しながら、海外の売り上げを伸ばしている。
米国における即席麺の市場規模は2022年に22億ドルとなり、2019年比で1.6倍ほどに拡大した。コロナ禍で備蓄できる利便性や、その安さが注目され、市場規模は拡大している。一時的なブームではなく、食文化として定着するフェーズにある。日韓両方のメーカーが売り上げを伸ばしているが、辛さを武器とする韓国勢は日本勢にとって強力なライバルとなるだろう。
●著者プロフィール:山口伸
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。
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