成熟市場に「10秒のコーヒー」はササるのか キーコーヒーが4年かけて見つけた“速さ”の価値

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2026年02月09日 07:20  ITmedia ビジネスオンライン

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キーコーヒーがこれまになかった商品を発売

 コーヒーは、時間をかけてゆっくり淹(い)れるもの――。そんな常識に、一石を投じる商品が登場した。キーコーヒーの「KEY DOORS+ JET BREW」(以下、ジェットブリュー。希望小売価格602円)だ。


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 最大の特徴は、とにかく「速い」こと。ドリップコーヒーといえば、お湯を細かく注ぎ、香りを立たせ、待ち時間を楽しむもの。「あえて手間をかける行為に価値がある」と考える人も多い。


 スーパーなどで販売している簡易型のドリップバッグでも、できあがるまで2〜3分ほどかかる。しかし、である。ジェットブリューを使えば、最短「10秒」で抽出できるのだ。コップにセットし、お湯を注いで、上下に振る。ドリップのように、お湯を細かく落とす必要もなく、数分待つこともない。


 「え、特徴はそれだけ? うーん、2〜3分くらい待てるよ」といった人もいるだろうが、ドリップバッグ市場の現状を踏まえると、小さな変化をもたらしそうな“香り”が漂うのだ。


 インテージSRI+の調査によると、ドリップバッグ市場は2020年からほぼ横ばい。伸びていないということは、裏を返せば、日常の中に定着しているとも言える。出勤前のビジネスパーソンや仕事の合間などに「淹れるのに、失敗はしたくない。そこそこおいしいコーヒーで十分」という人は、確実に存在する。


 そんな成熟市場に、なぜキーコーヒーは新商品を投入したのか。理由のひとつに、利用者の「不満」があった。同社が利用者を調査したところ「粉が飛び散る」「お湯があふれる」といった声が集まった。ちょっと地味だが、やっかいな点である。


 そこで「紅茶のティーバッグのようにすればいいのでは」という発想が生まれた。ところが、コーヒーではそう簡単にはいかない。最大の壁は、「粉」が沈まないことだった。


 コーヒーの粉は軽く、お湯に浮きやすい。浮いてしまえば、粉とお湯が十分に接触せず、味がどうしても薄くなる。こうした問題に対して、キーコーヒーはどのような手を打ったのか。


●道のりは平たんではなかった


 その答えが、ジェットブリューの構造にある。コップの縁にバッグを固定し、抽出中に浮き上がらないようにした。さらに、お湯の中で上下に動かすことによって、フィルターが膨らんだり、縮んだりする。これによって、粉とお湯がいい感じに接触し、わずか10秒で完成するというわけだ。


 ……と、このように説明すると「簡単につくれたんだね」と思われたかもしれないが、ここに至るまでの道のりは平たんではなかった。


 開発が始まったのは、2017年である。そこから、試行錯誤の連続だった。フィルターの目を粗くすれば、抽出は速まるが、粉が外に出てしまう。細かくすれば、味が出にくくなる。フィルターの目の粗さ、粉の粒度、紙の厚みなど。数ミリ単位の調整が続き、完成までに約4年を要した。


 商品が完成したのは2021年。まず、投入したのは家庭用ではなく、業務用だった。中でも導入が進んだのがホテルで、評価されたのは味以上に「粉が飛び散らない点」だった。客室向けアメニティとして置けば、床やシンクを汚さずに済み、後片付けも容易になる。清掃のしやすさは、ホテルにとって大きな価値だったのだ。


 一方、宿泊客からは「自宅で使ってみたい」という声が広がった。その後、キーコーヒーはECサイトで販売し、2025年9月にはスーパーなどにも販路を広げた。


 ただ、一般向けに売り出すにあたって、社内からは「本当に売れるのか」という不安の声もあがった。従来のドリップバッグと違って、構造がやや複雑である。初めて使う人から、不満の声が出てくるのではないか。実際、そうしたコメントが届いたものの、それを上回る手応えをつかんでいる。購入層が変化したのだ。


 従来のドリップバッグ購入者は、50〜60代の女性が圧倒的に多いが、ジェットブリューでは30〜40代の女性が目立つ。同社のドリップバック(商品名「ドリップ オン」)と比べると、30〜40代の女性が1.6倍ほど多いという。


 この背景について、開発担当者は「新しいものを試みたい。速くてもちゃんとしたコーヒーを飲みたい」という層に、うまくササったのではないかと見ている。


●パッケージのデザイン案は100以上


 パッケージには、「革命」の文字が大きくあしらわれている。このデザインを決めるまでに、検討した案は100以上にのぼった。会議では「快速」や「特急」といった案も出たが、「快速と急行の違いが分かりにくい。どっちが速いのか、消費者が迷うのではないか」という懸念が上がった。また「特急」は、鉄道のイメージが強すぎるとして、最終的に見送った。


 今回の商品は、コーヒー市場に革命が起きたというよりも、「忙しい日の選択肢が1つ増えた」という話である。だが、その「1つ増えた」という変化が、消費の世界にどのような影響を及ぼすのか。


 市場を動かすのは、聞こえのいい言葉より、現場で使われる“10秒の改善”なのかもしれない。


(土肥義則)



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