
ぷっくりとした立体感が特徴の「ボンボンドロップシール」が爆発的なヒットを記録している。ファンシー文具メーカーのクーリア(大阪市)が2024年3月に発売したシールで、需要が供給を大きく上回る状況が続く。
ある大手ディスカウントストアの新店オープン当日には、シールを求めて朝から約300人が列を作った。親子連れの姿も目立ち、小売店の担当者は「あればあるだけ売れる」と話す。フリマアプリでは定価を上回る価格で転売され、模倣品が出回るなど、過熱ぶりがうかがえる。
出荷枚数は2025年12月末時点で累計1500万枚を突破。月200万枚を出荷しているが、それでも需要に追い付かないという。
シールは1枚550円前後で、主なターゲットは未就学児から小学校低学年の子どもたち。しかし、実際の需要を拡大させているのは、かつてシール集めに熱中した大人たちだという。
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なぜボンボンドロップシールは、ここまでの人気を生んだのか。製造元のクーリアで社長室室長を務める倉掛誠一氏に話を聞いた。
●小学生向けに開発 「新しいかわいい」を目指す
開発が始まったのは発売の約半年前。子ども向けの「新しいかわいいシール」として企画された。
シール帳や持ち物に貼って、デコレーションしてもらう意図はあったが、大人層の支持は想定外だったという。倉掛氏は「弊社でもシール帳を作り続けてきたので、シール交換の文化自体は以前から認識していたが、ブームを狙ってヒット商品を作ろうという意図はなかった」と話す。
ボンボンドロップシールの特徴は、立体感と透明感だ。シールの表面が樹脂で固められており、ぷっくりとした立体感で光にかざすとキラキラと輝く。
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通常、シールの印刷は1回で済ませることが多いが、この商品ではシールの底面と表面の2カ所に「二層印刷」を施し、その間に樹脂を流し込むことで奥行き感を表現した。
「キャラクターの商品だったら表面に顔を印刷して、底面に着ている洋服を印刷したり、飲み物モチーフだったら表面にグラスやジュースを印刷して、底面に氷を印刷したりという風に、立体感にこだわった」という。
樹脂を流し込むと下地の絵柄が膨張して見えるため、完成形を逆算しながらデザインする必要があった。工場とのやりとりや試作のやり直しを重ね、通常のシール以上に調整に時間をかけたという。
パッケージにも工夫を凝らした。通常のシールのように平たいビニールの袋に入れるのではなく、おもちゃや化粧品が入っているような「ブリスターパッケージ」(プラスチックの立体的なケース)に入れた。最大6ミリの厚みがあるパッケージで「立体的でキラキラしたシールがよりかわいく、価値あるものに見えるようにした」そうだ。
●ボンボンドロップシール、一度はお蔵入りになっていた?
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多くの工夫が凝らされ、今や超人気商品となったボンボンドロップシールだが、実は一度お蔵入りになっていたという。
転機となったのは、当時入社2年目の女性プランナーによる再提案だった。ボンボンドロップシールの元の発案者は別にいたが、他の企画との優先順位の関係で見送られていた。
その企画を「このシールは絶対にかわいい。世に出すべきだ」と感じた若手プランナーが機会をうかがいながら温め続けた。そして約半年後、改めて会議の場で提案。商品化が決まった。
こうした再挑戦を可能にした背景には、クーリアのフラットな組織文化がある。企画会議では各自が複数案を持ち寄り、年次や経験に関係なく自由に意見を出し合う。部長や課長といった肩書も設けていない。
倉掛氏は「フラットな環境でみんなで意見を出し合って作っている。ボンボンドロップシールの発案者以外にも、チームの中でどうしたらかわいくなるか、どうしたら売れるかというのを出し合って、作り上げた」と話す。
●ヒットの背景に「平成女児ブーム」
ボンボンドロップシールの人気拡大の背景にあるのが、いわゆる「平成女児ブーム」だ。シールの主なターゲットは小さな子どもだったが、実際に購入している層は20代後半から30代前半の層も多いという。
平成女児ブームとは、1990年代後半〜2000年代にかけて流行したファッションやグッズ、文化が再び注目されている現象のことだ。当時は親におねだりしてシールを手に入れていた「平成女児」たちも、今では自分の収入で好きなだけ買えることから市場をけん引している。
一方で、当時を知らない今の子どもたちにとっては、平成特有のデザインがSNS映えする「新しくてエモいもの」として映る。平成女児だった親とその子どもがシール集めを一緒に楽しむケースも多い。アナログなシール交換は、今の世代にとって新鮮に感じるそうだ。
これまでは学校の友人など、コミュニティー内で完結していたシール交換文化だったが、現在はSNSを通じて広く共有されることによって、凝ったシール帳の写真を投稿し、反応を得ることも楽しみの一つになっている。
実際、2025年9月には一般ユーザーによるボンボンドロップシールをスマートフォンに貼った投稿が12万件以上の「いいね」を集め、話題を呼んだ。著名人やインフルエンサーもシール帳交換の様子や、シール探しの動画をSNSに投稿している。
●シールの楽しみ方も多様化
シールの楽しみ方も多様化した。立体的なボンボンドロップシールを爪でなぞって音や質感を楽しむ「ASMR」(Autonomous Sensory Meridian Responseの略称。聴覚などへの刺激により感じる反応や感覚)的な楽しみ方や、キーホルダーへのアレンジなど、従来の「貼る」用途を超えた広がりを見せる。
その場にいる他のお客さんとシールを交換する「シール交換カフェ」「シール交換バー」といった交流の場も登場している。シールは単なる文具にとどまらず、人と人をつなぐコミュニケーションツールとしての側面も生まれつつある。
倉掛氏は「会社としてのキャパシティー、想定を大きく上回っている。頑張って増産しているが、追い付いていない。各所にご不便をおかけしているのは心苦しい」と説明する。一部では「出荷を絞っているのではないか」との見方もあるが「そうしたコントロールができる段階ではなく、需要に全く追い付いていない」という。
安易に生産数を拡大すれば品質低下につながりかねない。立体感や光沢といったボンボンドロップシールの特徴を維持するため、クオリティーを担保できる範囲で段階的に増産しているそうだ。
今回のヒットにより、シール市場の裾野が広がった。世代や性別を超えて需要が拡大し、クーリアの認知度も向上した。同社はボンボンドロップシールのぷっくりとした立体感を活用した「ボンボンドロップ前髪クリップ」「お揃いキーチャーム」も発売している。
足元では生産体制の強化が最優先課題だが、倉掛氏は「広がったマーケットに向けて新たなチャレンジをしていきたい」と意気込んだ。
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