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米スターバックスが日本事業の売却を検討していることが明らかとなった。近年の物価高で節約志向が高まる中、米国では低価格のコーヒーを提供する競合チェーンに客が流れ、消費者の「スタバ離れ」が進んだ。人件費や原材料費の高騰、リストラ費用がかさみ、手元資金が急速に減少。経営立て直しの原資が必要になったとみられる。一部報道によると、売却額は最大5000億円になる見込みだ。
一方、日本のスタバは好調だ。1996年の日本上陸から30年を経てもブランドは健在で、家でも職場でもない「第3の場所(サードプレイス)」としての機能を果たしている。店舗数は2000店舗を超え、業界トップだ。
競合のドトールコーヒーショップ1号店は、スタバより16年早い1980年に誕生したが、現在は1000店舗台で足踏みしている。ロードサイドが強みのコメダ珈琲店もドトールと同規模だ。1997年に日本へ進出したタリーズコーヒーは約850店舗だ。
スタバ、ドトール、コメダ、タリーズの国内コーヒーチェーン4社の特徴を比べながら、日本のスタバが好調な背景を解説していく。
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●喫茶店が減少する中で店舗を増やした「ドトール」
全日本コーヒー協会の資料によると、国内喫茶店の事業所数は1981年の15万4630店をピークに減少へ転じた。1999年頃には10万店を下回り、2020年代には6万店以下となった。喫茶店は飲食店としても機能していたため、ファストフード店やファミレスの影響を受けたと思われる。
喫茶店が減少する中、店舗数を増やしたのが1980年に原宿で1号店を構えたドトールだ。昔ながらの喫茶店は店員が席に来て注文を取るフルサービス型なのに対し、ドトールは客がカウンターでコーヒーを買うセルフ式で店舗を展開した。1980年代後半からFCを中心に展開し、店舗数は1996年に500店舗を超え、2004年に1000店舗を達成した。
ドトールが拡大できた理由は安さに他ならない。1980年代当時、コーヒー1杯の価格は300円台が相場だったが、ドトールでは創業から1991年まで150円で販売していた。セルフ式で人件費を削減し、テークアウト客も取り込むことで、低価格での提供に成功した。
現在は「ブレンドコーヒー」のMサイズを330円で提供しており、大手4社の中では比較的安い。しかし、低価格であるが故に出店できる立地が限られ、店舗数の拡大は鈍化している。コロナ禍移行は縮小傾向にあり、5月末時点で1074店舗を展開している。
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●なぜ日本のスタバは好調なのか
スタバは1996年に銀座で国内1号店を出店。当初は飲食店や衣類、雑貨店を運営するサザビー(現サザビーリーグ)と米スタバの合弁会社として国内法人が設立された。当初は喫煙率の高い国内事情に合わせて1号店の一部を喫煙可としていたが、後に米国と同じく全面禁煙となった。
出店当時は男性の約6割がタバコを吸っていた時代だ。喫茶店には灰皿を置くことが当たり前とされており、スタバの全面禁煙は異例だった。また、都心の1等地に比較的大きい店舗を構えることも珍しく、出店は集客につながるだけでなく、宣伝効果も発揮した。
FCの場合、オーナー側の信用や意向に関わるため、1等地への出店は難しい。米国から上陸したばかりで将来性が未知数のチェーンに加盟して出店するのはオーナーから見て投機的なためだ。だが、日本のスタバは直営主義で、当初は損失を出しながらも出店を優先した。1等地戦略は米国で成功したモデルであり、同じ戦略を日本でも取り入れたのだ。店舗数は3年半後に100店舗を超え、2003年に500店舗、2007年に700店舗を超えた。
「1等地のたばこが吸えない店舗」という特徴は、女性客の支持につながった。同社の狙い通り、おしゃれな雰囲気の店舗は自宅、職場に代わるサードプレイスとして機能している。1等地の賃料は利益率の高いフラペチーノの販売や、テークアウトで賄っているとされる。店舗数は2013年に1000店舗を達成し、2025年に2000店舗を超えるなど、現在でも好調が続いている。
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●米スタバが不調なワケ
日本に上陸した当時、スタバは北米で約1000店舗を展開していた。現在は約1万7000店舗に増えており、米スタバが苦戦している背景には過剰出店もある。
加えて、質の低下も要因とされている。コスト高で値上げを続けたうえ、テークアウト専門店を増やし、サードプレイスとしての強みが失われた。また、コロナ禍を通じてモバイルオーダーが普及したため、既存店では注文が殺到し、店員の負担が増えて接客対応がおろそかになったとされる。近年は労働組合によるストライキも相次いだ。
米国と比較すると、日本のスタバは現在も好調だ。都心では席が狭かったり電源が使えなかったりと、質が低下している店舗もみられるが、サードプレイスとしての役割を果たせている店舗が多い。また、店員がアルバイトを辞める際、退職を「卒業」と表現することもあるように、スタバで働くことは一種のステータスとなっている。
ただし、日本のスタバは都市部を中心に展開しており、ロードサイドが弱点だ。東北や中国、九州などでは十数店舗しかない県も多い。店舗数が少ないエリアでは物流コストが見合わないためだ。駅前など客数が多い場所に出店し、地域で定着させた後に、ドライブスルー店などを複数展開する方針を採用している。
●コメダとタリーズの戦略は?
スタバとは対照的に、ロードサイドを押さえたのがコメダだ。大手4社の中では唯一のフルサービス型店舗で、比較的食事メニューが充実している。1968年に喫茶店文化と自動車文化がある名古屋で誕生し、長年にわたって中京地域を中心に展開してきた。他の地域への出店は遅く、関東には2003年に、関西には2006年に進出した。
店舗の約98%がFC店で加盟店のロイヤリティーは低く、本部は食材やコーヒーの卸売りで収入を得ている。近年も規模拡大が続いており、2025年末時点で1030店舗を展開している。一方、広々とした店舗を強みとするため、賃料の高い都市部ではあまり出店できていない。
●目立たない場所に出店するタリーズ
タリーズはスタバと同じ、エスプレッソがベースの「シアトル系コーヒー」に分類される。日本では実業家の松田公太氏が持ち込み、1997年に1号店を出店した。
米本部が多くを出資していたスタバとは対照的に、日本のタリーズは創業当初、ベンチャー企業のような存在だった。そのため、人通りの少ない裏通りやオフィス街など、比較的目立たない立地での出店が標準となった。また、2004年以降は大手チェーンでは先駆けて病院内への展開も進めた。
2006年に伊藤園の子会社になったことで資本力が高まり、積極的な出店が可能になった。店舗数は2007年4月末の299店舗から2012年度末には513店舗に拡大。2025年度末時点で、850店舗を展開しており、そのうち約4割がFC店だ。伊藤園が2009年に発売したタリーズの「ボトル缶」はコンビニでもおなじみのヒット作となっており、同社の認知度向上に貢献した。
メニューではパスタなども提供し、食事需要を取り込んでいる。筆者の所感だが、スタバと比較するとタリーズは都市部の店舗でもやや広々としている。テークアウト客の行列も少なく、繁忙さを感じにくい。静けさや広さを求めてスタバよりタリーズを選ぶ消費者も一定数いるようだ。
●マクドナルドやミスドも競合に
冒頭の通り、喫茶店の事業所数は年々減少し、店舗数は5万店台となった。個人経営の喫茶店はコスト高騰に加え、経営者の高齢化という課題も抱えている。
一方、大手4社が運営するカフェは合計で約5000店舗だ。足踏みしているドトールも含め、各社は今後も店舗数を拡大する計画だ。若年層の間では、非チェーンの喫茶店を利用しない層も多く、大手によるシェア拡大の余地は大きい。
ただし、近年は異業種によるカフェ分野への参入もみられる。約3000店舗を展開するマクドナルドはコーヒーやフラッペなどを提供する「マックカフェ」を通じて、夕方の利用を促している。ミスタードーナツも近年、店舗を改装してカフェのような店舗作りを進めている。同社の業績は好調だ。ファミレスでは、サイゼリヤがコーヒーなどのドリンクバーとパン類をセットで300円台で提供する「朝サイゼ」を模索している。
異業種チェーンが提供するカフェ1杯の価格はカフェ業界各社よりも安いため、業界にとって脅威となるだろう。今後は市場の拡大ペースが鈍化する可能性もありそうだ。
●著者プロフィール:山口伸
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。
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