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全国で書店の閉店が相次いでいる。
日本出版インフラセンターによれば、書店はピーク時の1998年度には約2万4000店舗あったが、その後減少を続け、2025年度には1万店舗を割り込んだ。
そんな状況下で、5期連続の増収増益を達成し、直近3年は過去最高の売上高と利益を上げているのが紀伊國屋書店だ。
紀伊國屋書店の2025年8月期の連結決算は、売上高約1408億円(前期比104.1%)、営業利益約52億円(同118.2%)、経常利益約53億円(同108.4%)、当期純利益約47億円(同137.4%)と好調だった。
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売り上げの事業別内訳を見ると、国内書店が約472億円、法人外商が約542億円、海外事業が約346億円、その他(文具や雑貨販売など)が約48億円となっており、いずれも前年を上回った。
ここで注目すべきは、国内書店よりも大学や図書館などを対象とする法人外商の売り上げが大きく、日本の漫画などを販売する海外事業も成長していることだ。つまり、私たちが街中で目にする紀伊國屋書店の店舗は、同社の事業全体の一部にすぎないのである。正面からは見えにくい法人外商や海外事業まで含めた事業ポートフォリオを構築している点が、同業他社と紀伊國屋書店との大きな違いだ。
多くの書店が厳しい経営環境に置かれる中で、なぜ紀伊國屋書店だけがここまで好調なのか。今回はその要因について探ってみたい。
●紀伊國屋書店は、どれほど規模を拡大しているのか?
紀伊國屋書店グループの店舗数は、2026年7月末時点で103店舗となった。傘下の企業別に見ると、紀伊國屋書店が72店舗、旭屋書店が11店舗、紀伊國屋書籍販売が20店舗となっている。国内では、2024年11月にOtemachi One店(東京都千代田区)を、2025年6月にはイオンモール川口前川店(埼玉県川口市)を、2026年6月に、イトーヨーカドー立場店(横浜市)を新規開店した。
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また、紀伊國屋書店は前期中に2件のM&Aを成立させており、1年間で傘下の店舗を約30店舗も増やしている。
1件目のM&Aは2024年12月、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下、CCC)から「旭屋書店」と「東京旭屋書店」の全株式を取得し、完全子会社化した。旭屋書店は1946年創業で、大阪・梅田では長らく紀伊國屋書店のライバルとして存在感を示してきた人気書店だ。1965年創業の東京旭屋書店と合わせて関西と関東に11店舗を展開していたが、M&A後に両社は旭屋書店に統合された。東武百貨店内の池袋店が2026年3月14日に、ららぽーと甲子園店が同年8月7日、「紀伊國屋書店」に屋号変更した。それ以外の店舗では「旭屋書店」の屋号をそのまま使っている。
もう1件のM&Aは2025年6月に行われており、京王電鉄の子会社であった「京王書籍販売」の全株式を取得し、完全子会社化した。京王書籍販売は「啓文堂書店」として、京王線沿線を中心に20店舗を展開してきた企業だ。M&A後は社名を「紀伊國屋書籍販売」に変更し、屋号も「紀伊國屋書店」へ変えた。
このように全国で書店が減少する中、紀伊國屋書店はM&Aと新規出店の両軸で、積極的に店舗網を拡大しているのである。
●M&Aを続ける理由は
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出版不況の中、紀伊國屋書店がM&Aをしてまで書店の数を増やそうとしているのはなぜなのか。この理由を探るために、日本出版販売(以下、日販)が行った「出版物販売額の実態2025」を見てみたい。
この調査によると、2024年度の販売ルート別の推定販売額は、書店ルートが7371億円(前年比95.2%)、インターネット販売が2737億円(同96.5%)、電子出版物が7356億円(同102.9%)となっている。書店での売り上げは減少しているものの、今もアマゾンをはじめとするネット販売の3倍弱の規模があることが分かる。また、電子書籍の売り上げは伸びており、書店での販売額とほぼ同じ規模にまで拡大している。
ここで注目したいのは、電子書籍のうち漫画などのコミックが占める比率が9割に達すると言われていることだ。つまり、コミック以外の学術書や実用書、小説などは、依然として書店で購入されているのである。
アマゾンなどのネット販売は、ほしい本をすぐに探せて便利だ。絶版になっていなければ、品切れの心配も少ない。
しかし書店に行けば、どんな本が売れているのか、世間で何が話題になっているのかなど、トレンドの移り変わりが一目で分かる。また、書棚を眺めているうちに偶然目に留まった本から、これまで知らなかった新しい知識を得ることもできる。
これは、利用者の興味や購入履歴をもとに本を提案するネット販売とは異なる機能だ。書店は依然として、良質な本を通して知的刺激を得られる、地域の文化センターとしての役割を果たしているのである。
紀伊國屋書店は、こうした書店が持つ文化インフラとしての機能を強化するために、店舗を増やしていると考えられる。
●書店なのに、B2Bビジネスも?
紀伊國屋書店の経営で注目するべきは法人外商である。国内書店の売り上げを上回っており、事業別では最大の規模となっている。
法人外商とは、電子版を含む書籍や雑誌、学術系データベース商品、文具・雑貨類などを、学校、研究機関、官公庁、企業などに販売するビジネスだ。
図書館や資料室の新築・改修時には、設備や備品の納入・設置を行うほか、図書館業務のアウトソーシングも受託している。紀伊國屋書店は約40年にわたり大学を中心とした図書館業務のアウトソーシングを受託しており、司書などのスタッフの派遣数は1600名を超える。
図書館の全業務を受託するだけでなく、一部の業務に範囲を絞った運用も可能だ。配置する人数やデジタル化への対応など、ニーズに合わせてカスタマイズできるノウハウを持っている。
また、創業以来学術情報を扱ってきた経験を生かし、研究者や学生に役立つ最新情報も提供している。2018年にリリースした学術和書電子図書館サービス「KinoDen(キノデン)」は、2026年5月時点で搭載タイトルが約13万点に上り、国内外で560機関が導入している。ほぼ全タイトルを試し読みができるなど、「本当に使われる電子図書館」を目指してサービスを展開している。
さらに、社内には業務委託スタッフの採用、研修、育成を支援するライブラリーサービス営業本部LS業務支援センターがあり、社内外の講師による研修を多数実施している。情報科学技術協会の検索技術者検定などの資格についても講習会を行い、合格した場合には待遇面で考慮するなど、スタッフのスキルアップにも力を入れている。
図書館や電子書籍は、書店の売り上げを奪う存在という意見もある。しかし紀伊國屋書店の場合は、逆に図書館や電子書籍を法人外商の事業に取り込むことで、売り上げにつなげているのである。
多くの書店がB2Cを中心に事業を展開する中、紀伊國屋書店のようにB2Bまで幅広く手がける書店は限られている。こうして書店での書籍販売とは異なる需要を取り込んでいることも、業績を伸ばしている理由の一つだろう。
●海外進出が好調な理由は
海外では、2026年7月末時点で11カ国・51店舗を展開している。日本の書店でここまでの規模で海外に出店している企業はほとんどない。
紀伊國屋書店の海外1号店は、1969年に出店した米サンフランシスコ店だ。当時、日系企業の海外進出に伴って在住日本人が増え、日本の食品をそろえたスーパーなどが出店する中、本のニーズも高まっていった。
1990年代後半になると、バブル崩壊後の日系企業の事業縮小などを背景に、海外に在住する日本人が減少。さらに、インターネットの普及による紙媒体の需要減少も追い打ちをかけた。しかし、紀伊國屋書店は和書中心から英文書へと品ぞろえをシフトすることで現地のニーズを取り込み、海外店舗を拡大してきた。
近年は、日本の漫画やアニメの人気が海外でも高まり、コミックや関連グッズ、日本に関する書籍などがよく売れるようになった。そのため、海外の店舗は日本のポップカルチャーの発信基地としての役割も担うようになっている。
「最近は日本の小説の翻訳もよく売れている」(紀伊國屋書店)といい、漫画やアニメだけでなく、日本文化を総合的に取り扱う書店へと進化していることがうかがえる。
●利益率を高める取り組みも実施
紀伊國屋書店は2023年10月、CCC、日販と共同で、書店が出版社から直接仕入れる「ブックセラーズ&カンパニー」を設立し、書店主導による出版流通の改革に取り組んでいる。
従来の出版流通では、出版社と書店の間に取次が入り、書籍や雑誌の仕入れや流通を担ってきた。書店には、売れ残った商品を取次を介して出版社に返品できる委託販売制度があり、在庫リスクを抑えられるメリットがあった。
一方、近年は出版社がコミックを電子書籍として販売するなど、書店はおろか取次も介さない販売方法が定着してきた。スマホの普及などを背景に雑誌を読む人も減り、消費者の時間はデジタルコンテンツや動画へと流れている。
紀伊國屋書店によると、「出版社から直接書籍を仕入れることで、取次を経由するよりも利益率が高くなるのがメリット。意思疎通や販売促進の取り組みが強化しやすいという側面もある」と話す。
出版社から直接仕入れて利益率を高めるとともに、出版社との連携を深めて販売力を高めることで、さらなる成長を目指しているのである。
●B2CとB2Bのバランスが成長のカギ
このように紀伊國屋書店は、書店というB2Cのビジネス、法人外商というB2Bのビジネス、日本文化の発信基地としての海外店をそれぞれ強化しながら、出版社との直取引を通じて販売力そのものを高める取り組みも進めている。
本が売れず、書店の閉店が相次ぐ慢性的な出版不況の中で、同社が独り勝ちを続ける背景には、こうした複数の事業を組み合わせた綿密な戦略があるのだ。
(長浜淳之介)
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