
最近10年で市場規模が1.5倍に拡大しているアイスクリーム市場。その中でも老舗ブランド「サーティワンアイスクリーム」が過去最高の利益を記録するなど、驚異的な躍進を遂げています。なぜ成熟市場において成長を続け、冬場でも売上が伸びているのでしょうか。その背景にある緻密な戦略と、日米で共通する消費トレンド「リトルトリーツ(Little Treats)」の正体について、リサーチャーのcomugiさんに伺いました。
東京ビジネスハブTBSラジオが制作する経済情報Podcast。注目すべきビジネストピックをナビゲーターの野村高文と、週替わりのプレゼンターが語り合います。今回は2026年8月16日の配信「サーティワンアイス絶好調!冬でも伸びる理由とは(comugi)」 を抜粋してお届けします。
10年で5割増! アイス市場の成長とサーティワンの躍進野村:総務省の家計調査で、2人以上世帯のアイス年間支出額が最近10年で54%増えていて、そのど真ん中にあるのがサーティワンアイスなのだそうです。
comugi:調べてみたのですが、10年で5割増というデータが出てきて、深掘りしていくと非常に奥が深いテーマだと思いました。フラットにお伝えすると、お菓子全体の伸びが30%増なのに対し、アイスは50%増。データとしても面白いですよね。最近では大人がアイスを食べるのが日常的になり、「夜パフェ」や「夜アイス」の専門店も話題になっています。
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野村:確かに、お酒を飲んだ後にコンビニでアイスを買ってしまいます。
comugi:飲み屋の2軒目に行くには少し疲れたけれど、もう少し話したいという時に、落ち着いて話せる場所としてアイスが選ばれている気がします。
身近になったアイスクリーム市場の中で、企業として注目すべきなのがサーティワンです。日本上陸から53年目を迎える誰もが知る老舗ブランドで、成熟市場かと思いきや、過去最高の利益を出しています。
野村:直近の決算(2025年12月期)を見ると、売上高342億円で前年同期比12%増、純利益17.7億円で15%増と、確かに儲かっていますね。
comugi:そうなのです。1店舗あたりの年間売上高は約6400万円で、直近3年で42%も伸びています。値上げの影響もありますが、1店舗あたりの「稼ぐ力」が強くなっている。なぜこれが起きているのかを調べて整理したところ、5つのポイントが見えてきました。
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野村:なるほど。その5つの要因とは何でしょうか。
comugi:1つ目は「市場の追い風」です。毎年「観測史上1番暑い」と言われているように、気候変動の影響でアイスを食べたくなる日が増え、市場全体が伸びているという前提があります。
そして2つ目は「IP(知的財産)とのコラボレーション」です。サーティワンには31種類ではなく、ケースが1個余らないように32種類のフレーバーが並んでいて選ぶ楽しさがありますが、最近は季節限定商品やキャラクターコラボが非常に上手くいっています。夏の『ポケモン』コラボや、任天堂株式会社の『あつまれ どうぶつの森』、株式会社サンリオの『ハローキティ』など、IPのファンを店舗に連れてくることに成功しています。アイスだけでなく、おまけなどの「体験」を買っているのです。
野村:確かに、ポケモン好きやサンリオ好きの方を呼び寄せられますね。
comugi:3つ目は「DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。公式アプリの累計ダウンロード数が1000万人を突破しており、売上の4割強がこの会員経由だと言われています。モバイルオーダーで並ばずに受け取れたり、誕生日にクーポンが届いたりと、リピート客の誘導やデータ活用がしっかり機能しています。
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4つ目は「ギフト需要の取り込み」です。テイクアウトの比率が、2019年の約23%から直近では40%を超えてきました。お土産に何か買っていこうという時に「サーティワンがあったな」と想起されるブランドとして定着し、身近なギフトとして選ばれやすくなっています。
野村氏:食べるだけでなく、持っていく需要ですね。
comugi:そして5つ目が「大人の男性という新しいターゲット層への拡大」です。実は2026年4月に、35年ぶりにロゴを大幅に刷新しました。従来のポップで楽しいデザインから、少し落ち着いた高級感のあるデザインに変わっています。
野村氏:確かに新旧のロゴを見比べると、与える印象が全然違いますね。新しいロゴは高級なお菓子のような雰囲気があります。
comugi:ポップなデザインだと、大人の男性は少し恥ずかしくて買いにくい部分がありました。そこを落ち着いたデザインにすることで、冒頭で話した「飲み会後の締めのアイス」といった需要をしっかり取りに行こうとしています。今後はショッピングモールだけでなく、オフィス街や繁華街にも積極的に出店していく方針を現CEOが打ち出しています。
野村:ブルーオーシャンを探し続け、大人の男性という新しい市場へ打って出ているのは、非常に面白い戦略ですね。
なぜ冬でも売れる? コンビニとプレミアムアイスの秘密comugi:サーティワンの個別戦略から少し視点を広げて、「なぜ今、人々はアイスクリームを食べるようになったのか」を考えてみたいと思います。結論から言うと、現在のアイスクリームは「小さなご褒美」という需要を取り込んでいるのです。単に甘くて美味しいというだけでなく、ストレス解消や気分転換など、気持ちを満たしてくれる存在になっています。物価高で世知辛い状況だからこそ、日常は節約しつつ、たまにプチご褒美を自分に与えたいというニーズが高まっているのです。
野村:確かに、その気持ちはよく分かります。
comugi:この需要を満たす上で重要なのがコンビニエンスストアです。フェアにお伝えしておくと、2026年6月に公正取引委員会が、株式会社明治、森永乳業株式会社、株式会社ロッテ、森永製菓株式会社、江崎グリコ株式会社、赤城乳業株式会社の6社に立ち入り検査を行いました。アイスクリームの希望小売価格を足並みを揃えて引き上げたのではないかというカルテル疑惑です。こうした背景もあり値上げは避けられない状況ですが、それでもコンビニのアイス消費は伸び続けています。
野村:スーパーで箱買いした方が安いと分かっていても、ついコンビニで買ってしまいますよね。
comugi:スーパーだと「溶ける前に早く帰らなきゃ」と自由度が下がりますが、コンビニなら今すぐ食べたいという需要を満たせます。特に夜から深夜の時間帯に売上が伸びているというデータもあります。
さらに面白いのが「冬でも売れる」という点です。赤城乳業株式会社のガリガリ君のような氷菓の売上は夏がメインですが、ハーゲンダッツのようなプレミアムアイスは冬でも売れます。実はプレミアムアイスの売上は気温との相関が低く、大型連休やお盆、年末年始など「人が集まる時期」に売り上げが跳ねるのです。
野村:寒い冬に暖かい部屋で冷たいアイスを食べるのは、人間の業を感じますね。
comugi:みんなで少し良いものを食べようという時に選ばれるのがアイスなのです。先ほど野村さんがおっしゃったように、気温差は非常に重要です。コンビニで夏でもおでんが売れることがありますが、これは冷房の効いた室内に入った時に「寒い」と感じる体感気温の差が影響しています。アイスクリームも全く同じで、外部の気温よりも体感気温の差が購買意欲に繋がっているのです。
野村:ちなみにハーゲンダッツジャパン株式会社の業績はいかがですか?
comugi:絶好調で、2025年度の売上は556億円と2年連続で過去最高を記録しています。コンビニだと400円台に乗る商品もありますが、それでも売れ続けています。
野村:顧客が逃げていないということは、値上げが正当化されている証拠ですね。
日米共通のトレンド「リトルトリーツ(小さなご褒美)」comugi:この「小さなご褒美」という現象は、実はアメリカでも全く同じことが起きています。英語でもそのまま「リトルトリーツ(Little Treats)」と呼ばれ、一つの経済トレンドになっています。
アメリカでも物価高で家を買うのが絶望的になるなど、世知辛い状況が続いています。そんなストレスの中で、マクドナルドが少し特別感のあるフレーバードリンクを出したり、数ドルのお菓子やコーヒーを買ったりする「小さなご褒美消費」が広がっていると、現地メディアでも報じられています。
野村:大きな買い物はできなくても、ちょっとした贅沢なら手が届く。その裏返しとしての消費行動なのですね。
<聞き手・野村高文>
Podcastプロデューサー・編集者。PHP研究所、ボストン・コンサルティング・グループ、NewsPicksを経て独立し、現在はPodcast Studio Chronicle代表。毎週月曜日の朝6時に配信しているTBS Podcast「東京ビジネスハブ」のパーソナリティを務める。
