なぜNTTデータは「カプセルホテル」を始めるのか ZZZデータが“お宝”になりそうな未来

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2024年06月25日 09:01  ITmedia ビジネスオンライン

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NTTデータが「カプセルホテル」を運営するワケ

 NTTデータといえば、ご存じのとおり、めちゃめちゃ大きいITソリューション会社である。データ通信サービスや情報システムを構築していて、主にB2B事業を展開している。


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 「そういえば、ウチの会社もシステム関連でお世話になっていたなあ」といった声が聞こえてきそうだが、ちょっと気になる事業を始めようとしている。「カプセルホテル」だ。


 同社にとってホテル事業は初めての試みだが、どのような施設なのか。施設名は「ナインアワーズ品川駅スリープラボ Powered by NTT DATA」(オープン日は8月9日)。JR品川駅の湾南口を出ると自社ビル「アレア品川」があって、その1階に宿泊施設を構える。ベッドの数は70床。スペースがちょっと狭いということもあって、男性専用としている。


 カプセルホテルは、ホテル事業を展開するナインアワーズとの協業によるもので、NTTデータは事業主という立場である。


 このホテルの最大の特徴は、宿泊者の「睡眠解析」を行うこと。客室には赤外線カメラ、集音マイク、体動センサーが備えられていて、睡眠時間、寝返り、心拍数、呼吸が止まっている時間などを測定。宿泊客に新たな器具を装着することなく、睡眠データを取得できる(宿泊客同意のもと)。


 利用者からすれば、寝ている間に自身の睡眠状況をチェックできるというメリットがある。後日、睡眠データが届くので、それを見て「ちょっと生活習慣を変えてみようかな」「病院に行ってみようかな」といった具合に、意識または行動が変わるかもしれない。


 それにしても、なぜNTTデータは門外漢ともいえるホテル事業を手掛けるのか。いきなり話が大きくなってしまうが、ホテル事業を担当する部署にはある構想がある。健康、ゲノム、食事、血糖値、購買などさまざまなデータを統合して、それを分析する。そのうえで、食品メーカーや製薬会社などとの協業ビジネスにつなげていく計画だ。


 こうしたプラットフォームを描いていて、今回の「睡眠データ」は、たくさんあるデータのうちのひとつになる。つまり、大きな構想を前に進めるために、ホテル事業を始めるという意味になるのだ。


●やはり宿泊施設が必要


 プラットフォーム構想をぶちあげて、話がトントン拍子に進んで、カプセルホテルがめでたく誕生……というわけではない。実は睡眠データを取得する前に、苦い経験があった。食事データを取得するために、アプリを開発したものの、思った通りにデータが集まらなかったのだ(※)。


 朝にパンを食べて、昼にうどんを食べて、夜は居酒屋でお酒を飲んで……と毎日記録していかなければいけない。体調面で不安がない人に、「健康のためにアプリを使ってね」と訴えても、なかなか響かない。


 アプリを立ち上げて、食事の写真を登録したり、何を食べたのかを記載したり、何を飲んだのかもメモしたり。同じようなアプリはたくさんあるので、すでに使っている人はなかなかダウンロードしてくれない。健康を目的としたアプリは「意識が高い人または危機に直面したとき以外はなかなか広がらない」と判断して、断念したことがある。


 こうした失敗を繰り返さないためには、どうすればいいのか。「利用者に『面倒』と感じられたらダメ。生活の一環に取り組むことが重要だ」と考えた。


 ホテルに宿泊するだけでデータを取得できるのであれば、利用者は抵抗がなくなるのではないか。例えば、飲み会が終わってホテルに泊まるとしよう。カプセルホテルで就寝→後日、解析結果が届く→改善方法を調べる→Fitbitで計測する習慣がつく→アルコールの量を控える、といった流れが生まれるかもしれない。


 こうした仮説を立てたものの、うまくいくとは限らない。ということで、NTTデータは社員をモニターにして、PoCを実施することに。ナインアワーズが運営するカプセルホテルに宿泊して睡眠解析を受けたほか、Fitbitを使って自宅での睡眠を計測した。


 目的は2つあって、1つは社員のその後の習慣に変化があったかどうかである。結果、多くの人の意識と行動に変化があったという。もう1つは、意味のある情報を得られるかどうかである。データなどから「改善行動をしたけれど、改善しなかった人」「改善行動もなく、改善もしていない人」など、いろいろなタイプに分けられることを確認した。


 こうしたデータを増やすには、やはり宿泊施設が必要ではないか。行動データをたくさん取得するために、カプセルホテル事業に参入といった流れになった。


●睡眠データとビジネスモデル


 さて、気になるのはビジネスモデルである。カプセルホテルで取得したデータを使って、どのようにして“もうけ”ようとしているのか。


 ここからの話も壮大である。カプセルホテルを起点にして、睡眠に関わる複数の業界との連携である。例えば、医療機関であれば、睡眠データを提供することによって、患者の診断に役立つかもしれない。睡眠不足の人がいれば、寝具メーカーからの広告出稿があるかもしれない。データを匿名にして、食品メーカーと一緒に新商品の開発に携われるかもしれない。


 このほかにもビジネスアイデアはたくさんあるようだが、机上の空論で終わらせないためにもいろいろと試していくことが大切と考えているようだ。


 もちろん、課題もたくさんある。現状、睡眠データはあくまでも客観的なデータにすぎないので、医学的な“お墨付き”を得ているわけではない。太鼓判を押してもらうには、まだまだ乗り越えなければいけないハードルがあって、そのためにも大量のデータが欠かせないのである。


 睡眠データを取得できるホテルをどんどん増やしていって、2027年にはグローバルで1000万人のデータを取得したいという。売り上げは2030年までにヘルスケア関連で300億円を見込んでいる。


 ホテルといえば、たくさんの人に泊まってもらうために、さまざまな取り組みをしている。朝食をおいしくしたり、部屋を豪華にしたり、季節ごとに特別プランを用意したり。NTTデータが始めようとしている宿泊施設は、これまでのホテルとはちょっと違っていて、目的は「行動変容」と「社会課題の解決」である。


 これまで経験したことがない事業を始めるので、担当者は“寝ても覚めても”ホテルのことばかり考えているかもしれない。稼働率が安定して、データをしっかり取得できるようになれば、”枕を高くして眠れる”……といったところだろうか。


(土肥義則)


このニュースに関するつぶやき

  • ネカフェだったら大いに関連性あるが 最近殆どドコモショップ潰したから遊休施設をネカフェに改装してしまえよ
    • イイネ!1
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