「完全週休3日制」は職場をどう変えた? 伊予鉄流、働き方改革の進め方

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2024年06月27日 08:40  ITmedia ビジネスオンライン

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伊予鉄グループ本社

 伊予鉄道や伊予鉄バスなどの事業会社を傘下に置く、伊予鉄グループ(松山市)。同社は2023年10月に「完全週休3日制」を導入し話題を集めた。総労働時間や給与水準は維持したまま、毎週水曜日を休日に。年間休日は従来の120日から170日以上に増えた。


【画像】完全週休3日制を導入し伊予鉄グループの職場はどう変わったのか。同社のオフィス風景


 2日間働けば休日がやってくる――。何ともうらやましく映る制度だが、担当者によれば、実は社員に「レベルの高い要求をしている」という。一体、どういうことなのか。導入から半年以上が経過し、得られた手応えや見えてきた課題などを聞いた。


●「求めるのは時間ではなく質」


 「(社員にとって)優しい施策のように見えて、実はそうではない」


 こう話すのは、伊予鉄グループ総務人事課長の中川智之さんだ。


 週休3日制は、同社の本社ビルに勤務している社員約50人全員が対象だ。水曜日が休日になったことで、社員からは喜びの声が多く挙がった。


 「人出の少ない休日にお出かけを楽しめるようになった」「資格試験の勉強時間が増えた」――。制度が社員のワークライフバランス(仕事と生活の調和)の向上に寄与しているのは間違いない。中川さんは「自己研鑽でも、外出を楽しむでもいい。人生が豊かになれば人間的にも成長するので、会社としても喜ばしいこと」だと話す。


 一方で、会社が期待する制度導入の効果は、それだけにとどまらない。中川さんは「上の指示で動くのではなく、自律的に動く社員に育ってほしい」という狙いがあると話す。


 同社は鉄道やバスの事業会社を傘下に置く持ち株会社として、グループ全体の経営方針に沿った経営戦略の立案や、事業会社との連携がメインとなる。業務上、顧客と直接関わるシーンが少なく、週休3日制は比較的導入しやすかった。一方で、その分、事業会社への指示出しなど、常に考えながら判断を下していくことが求められる。


 「求めるのは仕事の時間ではなく質。各タスクの優先順位や時間の使い方も含め、自身でコントロールできるようになってほしいという考えがあった」(中川さん)


●企業自身も価値観をアップデート


 そしてもう一つ、人材の確保という観点も、完全週休3日制を導入した重要な狙いだ。


 「働き方改革に取り組まなければ優秀な人材を得られず、将来、事業存続が難しくなるかもしれないという危機感があった」と中川さんは話す。「古い考え方で言えば、会社としては当然、社員にたくさん働いてもらう方がいい。一方で世の中は、時間の使い方のメリハリや、合理性を意識する方向へと変化している」


 同社は完全週休3日制の導入に先立ち、2020年10月から、社員が働く時間帯を柔軟に決められる「フレックスタイム制」を導入するなど、積極的な改革を進めてきた。これらは、世の中の変化に合わせて企業自身が価値観をアップデートし、将来の事業継続に備えるための取り組みだといえる。


●「制度上の矛盾」も どう対応?


 2023年10月からスタートした「完全週休3日制」。当初は定着するまでに苦労もあったという。


 「働き方が大きく変わることになったので、時間の使い方に慣れるのに時間がかかる社員もいた」(中川さん)


 同社が導入した週休3日制度は、総労働時間や給与水準は変えない設計のため、稼働日の労働時間は従来から2時間程度伸びた。1日あたり平均約10時間働くことになる。「1日の労働時間が伸びると業務効率が落ちることもある。そのあたりのコントロールは当初、難しかった」


 導入から半年が経過し、こうした課題も次第に解消されたという。


 課題はほかにもある。水曜を一斉休日とすることで、週休3日が返って重荷になるような「制度上の矛盾」が生じるケースだ。例えば、ある部署が繁忙期に入った場合。4日間の稼働日で1日あたり15時間も働かなければならないような事態となった際、本当に週3日休むことが良いと言えるのか――。


 中川さんはこうしたケースを念頭に「水曜休日を絶対として締め付けすぎるのは返って自由度が下がる」と話す。このような場合は、休日出勤を許可するなど、柔軟な対応を取っているという。


 ほかにも、子育て中の社員の中には「10時間労働×4日間」よりも「8時間労働×5日間」の方が、バランスがいいケースもあるという。こうしたケースでも同社は例外的に、休日出勤を認めているという。


 例外をどこまで認めるか、線引きは容易ではない。例外の許容範囲を決めてほしい、と社員から要望が挙がることもあるという。中川さんは「ルールとして明文化するのは、対応としては強すぎる」と話す。必要な情報を社内で共有し、柔軟な運用を進めていく方針だ。


●生成AIで業務効率化


 同社は、働き方改革と並行して、対話型AI「ChatGPT」などを用いた業務効率化も進めている。社員はアイデア出しなどでChatGPTを利用し、議論の助けとなるヒントを得ている。広報チームは、Webサイトに掲載するイラストをChatGPTで自動生成するなどし、業務負担を減らしている。


 伊予鉄グループは、1887年に「伊予鉄道会社」として創立。民営鉄道としては国内で2番目に古い歴史を持つ。「歴史が古い分、よく言えば安全第一。クリエイティブな業務でも保守的になりがち」と中川さん。そんな風土を変化していこうと、業務自動化ツール「RPA」を導入するなど、業務改革にも注力する。


●働き方改革の今後は?


 完全週休3日制の導入で、働き方改革を推し進める伊予鉄グループ。今後はどのような展望を描いているのか。中川さんは、今後進めたいこととして「リモートワーク」を挙げる。


 現状も限定的なリモートワークは実施しており、出張先や自宅でも仕事をすることができる。


 社員のリモートワークのニーズ自体、現状は必ずしも高いわけではない。会社の近くに住む社員もいる。都心のように、満員電車にすし詰めになるような通勤環境ではない。


 一方で、今後、労働力不足が進行した際、リモートワーク環境が整備できているかどうかで、企業が取れる選択肢の数は大きく変わる。リモート環境があれば、究極的には地方に住んでいない人にも遠隔で業務を担ってもらうことができる。「先々を見据えた環境整備は必要」だと中川さんは力を込める。


 伊予鉄グループでは、傘下の伊予鉄バスと伊予鉄道でも、2023年末までに運転士の年間休日を約8%増やしたほか、週休3日を選択できる新たなシフト勤務者枠を新設。多様な働き方ができる環境を整備し、人材獲得に乗り出している。


 働き方改革は、社員の働き方の自由度を高め、ワークライフバランスの実現を後押しすると同時に、企業にとっても人材の確保と定着、持続的な成長を遂げるために必要な土台となる。多くの企業が人材不足に直面する中、伊予鉄グループの取り組みは、さまざまな示唆を与えてくれそうだ。


このニュースに関するつぶやき

  • 週休3日って言っても思ってるのと違う場合がある。実際聞いたとある企業だと週休3日だけど1日の労働時間が12時間。それが4日だと48時間。8時間を週6働くのと労働時間は変わらない。
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