限定公開( 17 )
「ホットペッパーグルメ」など予約サイトを運営するリクルートは、2022年11月から「スマート支払い」というサービスを展開している。当日の会計を「手ぶら」で済ませられるのが利点で、予約した店を無断キャンセルする「ノーショウ(No Show)」を抑止するメリットがある。
スマート支払いは会計時における店舗側・客側双方の高い利便性から、着実に普及が進んでいるが、実際に導入した店舗はどう思っているのか? 話を聞くと確かに利便性を感じている店もある一方で、意外な「面倒さ」を感じているケースもあった。
●無断キャンセルでも「請求」できる
スマート支払いは、リクルートが運営する予約サイト「ホットペッパービューティー」「ホットペッパーグルメ」で提供しているサービスだ。利用者は予約時にクレジットカード情報を登録しておく。すると、現地では店員から見せられた会計金額を確認するだけで店を出られるようになる。
|
|
先にクレジットカードで会計する「事前決済」と違って、決済金額が確定するのはあくまで「会計時」。そのため当日に追加注文をしても、その分はしっかり会計金額に反映される。
店舗側にとってはノーショウが発生したとしても、クレジットカードに料金を請求できるようになる。「団体予約のために食材を仕入れたのに、当日客と連絡がつかない……」といった事態を回避できるのは、店側にとって大きな安心材料となるだろう。
サービス提供開始からおよそ1年半がたった現在、利用可能店舗数は飲食領域で約1.6万店舗、美容領域(美容室、エステなど)で約1.7万店舗に達している。
スマート支払いの開発担当者、深海卓磨(ふかうみ・たくま)氏は「旅行の予約ではオンライン決済が当たり前になっている中で、飲食店や美容領域でもやらない理由はなかった」と話す。
「ユーザーからするとキャンセル料が確実に取られるという、一見デメリットにも見えるシステム。利便性を訴求し、良い意味で啓発していきたい」(深海氏)
|
|
●導入店舗の声は?
では、実際にスマート支払いを導入している店舗はどう感じているのだろうか?
千葉県、東京都でヘアサロンを経営するオーナーに話を聞いた。「お客さまの7割以上はスマート支払いを使っています。店側としても、現金払いはヒューマンエラーが起きやすく、スタッフの精神的負担にもなります。本業の接客に専念できる時間を増やしてあげたいため、積極的にキャッシュレスを推進しています」
取材したヘアサロンでは、スマート支払いの満足度は非常に高かった。技術職である美容師には、なるべく本業であるカットや接客に時間を使ってもらうことが労使ともに都合が良いのだろう。
では、飲食店はどうか。神奈川県横浜市でダイニングバーを経営するオーナーに聞いたところ、飲食店側の「影の努力」が明らかになった。ここは2人用の個室を多く備え、カップル客によく利用される店舗だ。
|
|
●飲食店ならではの難しさ
取材した飲食店のオーナーは「スマート支払いの利用率は1〜2割程度。(ノーショウ対策として)そこまで助かっている実感はありません」と話す。
「スマート支払いを利用するお客さまの場合、当店は注文用紙でオーダーを取っているので、会計時に一度端末を開いて、金額を打ち込み、お客さまのテーブルまで持っていく必要があります。
(カップルなどのお客さまの場合、)金額が相手に見えてしまわないように、隠しながら金額を見せています。このような“スマート”に見せるためのひと工夫が必要になっているわけです」
デートなどのシーンでよく使われる店だからこそ、雰囲気を壊さないようにこうした工夫をしているのだろう。
スマート支払いは、利用客自身が自分で注文を打ち込むモバイルオーダー方式や、タッチパネル方式との相性が良いのだが、こうしたデジタル化は店の雰囲気に影響を与えかねない。
注文を受ける際のコミュニケーションも顧客満足度に大きく関わる要素だ。食事に関する質問に答えたり、提案したりすることで利用客の満足度が上がり、結果として客単価の上昇にもつながる。
実は、飲食と美容とでは、スマート支払いを導入する割合に大きな開きがある。ホットペッパービューティーに掲載しているヘアサロン店舗の約30%がスマート支払いを導入している一方で、ホットペッパーグルメに掲載している飲食店のうち、スマート支払いを導入している店舗は約12%にとどまる。
スマート支払いは店側にも利用客側にもメリットをもたらすサービスである一方で、実店舗ビジネスにおけるDXは一筋縄ではいかないようだ。
|
|
|
|
Copyright(C) 2024 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。