『機動警察パトレイバー』リバイバル上映も満席状態ーー35年経っても支持される理由は?

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2024年09月28日 08:10  リアルサウンド

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『機動警察パトレイバー35th 公式設定集』(玄光社)
脚本、設定、アニメーション、メカ描写…あらゆる面で優れた名作

 公開から35周年を迎えた『機動警察パトレイバー the Movie』(以下『劇パト』)が、9月20日から一週間限定でリバイバル上映された。今回のリバイバル上映はSNSでも大きな話題となっており、各種グッズも新たに販売されるなど、記念上映らしい盛り上がりを見せている。



 この盛り上がりの理由には、まず『劇パト』という作品の持つパワーがあるだろう。この映画、改めて見ても大変よくできているのである。謎に満ちたオープニングから、「こういう映像が見たかったんだよ!」と叫びたくなるような自衛隊による暴走レイバー制圧シーン、そして天才的プログラマーがレイバー用OSに仕掛けた謎に迫る松井刑事と2課の面々、大企業と巨大開発プロジェクトにまつわるダーティな側面の描写、そして「方舟」でのアクションシーンと、ダレる場面もなくテンポよく話が進む。およそ100分という上映時間も程よい長さで、「近未来を描いたロボットアニメ映画」として全要素が高次元でまとまっているのだ。


 1980年代後半という製作時期を考えると、「ロボットの制御用OS」というポイントにフォーカスしてストーリーが作られている点も驚愕である。「高度なメカを動作させるには、オペレーションシステムによる制御が必要である」という点に製作陣が気づいていたのは、彼らが当時最新のパソコンに日常的に触れていたからだろう。また、現在のパソコンはさほどOSについて意識しなくても操作できるが、当時はユーザーが基礎的なシステムにまで手を入れなくてはパソコンが動作しなかったからこそ生まれた発想でもあるように思う。


 そのほか、アニメとしての作りの丁寧さや豪華さ、きちんとキャラクターが描き分けられた特車2課メンバーの魅力、メカ描写への濃厚なこだわりや「日常的に巨大ロボットが存在する世界」のディテールが詰め込まれている点や、全体のストーリーがちゃんと"活劇"になっておりスッキリと見終われる点など、『劇パト』の美点は数多い。センスのいいクリエイターによる集団製作がうまくいくと、これほどの作品が生まれるのか……と、何度見ても驚かされる。35年の時を経ても語り継がれる作品になっているのも、納得の内容だ。


”昭和・平成レトロ"のトレンドも追い風か

 さらに言えば、時代が一周した結果、期せずして現在のトレンドにうまく乗った作品になってしまっている点も重要ではないだろうか。しばらく前から、若者世代を中心に「昭和末期・平成初期っぽい雰囲気」の物事がブームとなっている。イラストの絵柄やタイポグラフィ、ファッションや音楽などにおいて、当時の雰囲気を意識・再現したものを眼にしたことのある人も多いだろう。


 昭和末期・平成初期といえば、初期OVAのリリースと漫画版の連載がともに1988年に始まった『機動警察パトレイバー』シリーズは、モロにその当時の作品である。だからだろうか、『パトレイバー』シリーズからはバブル期に作られた作品特有の余裕やリッチさが漂っており、また『劇パト』には再開発が進む前の東京に漂っていたであろう独特の浮遊感も描写されているのが印象深い。


 さらに言えば、高田明美のキャラクターデザインの雰囲気や、メカ描写の緻密さも、図らずも現在のトレンドに乗ったものになっている。高田によるキャラクターデザインは、現実的な物語である『パトレイバー』のリアリティラインに沿った尖りすぎていないものになっており、普遍的な魅力のあるデザインである。一方で、登場人物の服装などは80年代終盤の雰囲気を色濃く残しており、この当時のファッションは現在改めて魅力を再確認されている。普遍性のあるキャラクターデザインと時代を感じさせるディテールの組み合わせは、現在の目で見てこそキュートさが理解できるものだろう。


 メカ描写に関しても、当時を知らない世代にとっては新鮮に映るものである。80年代終盤からのおよそ10年ちょっとの間は、セルアニメでのメカ描写の絶頂期にあたる時期だ。『パトレイバー』のみならず野心的で緻密なロボット・メカが数多く描かれ、ロボット自体のアクションに加えて内部機構やコクピットまで含めた高密度な描写は、現在でも多くのファンを惹きつけている。特にSNS上では、この時期のロボットアニメの特に作画の密度が濃い部分を切り抜いて編集したショート動画が数多くシェアされており、当時のメカ描写が現在のネットユーザーにとっても新鮮かつ魅力的なものであることを示している。



 冒頭から濃密なメカ描写が盛り込まれている『劇パト』は、セルアニメでのロボット表現に関しても見どころが多い。暴走したレイバーを取り押さえるイングラムや「方舟」の内部での戦闘シーンは高密度に作画されたロボットアクション独特の快楽に満ちており、ずっと見ていたくなる魅力がある。このあたりのメカ描写の濃度も、当時を知らない世代からはフレッシュに映ったのではないだろうか。


 ということで、『劇パト』のリバイバル上映が話題となった背景には、作品自体が持つ力に加えて、現在のトレンドに乗った作品だったから、という理由があったように思う。35年という時間経過は、時代が一周して再度「こういうノリ、いいよね」というムードが醸成されるほどの長さなのである。このトレンドに乗って完全新作の『機動警察パトレイバー EZY』がヒットとなるかどうか。2026年のプロジェクト始動が待ち遠しいところだ。



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