ゲーム「刀剣乱舞」10年目、自治体が「どうか終わらないで」と望むワケ

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2024年10月10日 08:31  ITmedia ビジネスオンライン

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刀剣乱舞-ONLINE-公式Webサイト

 2025年1月にオンラインゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-』(以下、刀剣乱舞)は10周年を迎える。女性ファンが多いことで知られるこのゲームが、実は自治体からも継続を熱望されていることをご存じだろうか。


【写真】経済波及効果5億円とされる「太刀 無銘 一文字(山鳥毛)」。岡山県瀬戸内市は購入のためにクラウドファンディングを実施、1億5000万円を集めた。


●刀剣文化への関心を喚起し、消費につなげる


 刀剣乱舞は、日本の刀剣文化をテーマに擬人化された刀剣たちを収集・育成するオンラインゲームだ。当初、運営元であるDMMとニトロプラス(東京都中央区)は短期間での終了も視野に入れていたが、現在では「超長期運営」を掲げ、ファン層の拡大とともにさまざまな形で進化を遂げている。


 刀剣乱舞は2015年にリリースされて以来、女性を中心に圧倒的な人気を博してきた。ゲームを軸に、舞台やアニメ、コンサートなどのメディアミックス展開も成功し、「刀剣女子」と呼ばれる新たなファン層を形成した。


 刀剣乱舞は日本刀への興味を喚起し、実際に刀剣を展示する博物館や美術館に足を運ぶファンも増加している。最近では男性ファンも増え、刀剣収集が若者の間で趣味として定着しつつある。また2025年1月には「大本丸博 2025」という10周年記念イベントを予定しており、ファンたちの期待は高まっている。


●自治体とのタイアップが地域を活性化


 刀剣乱舞が人気を博す中で、ゲームに登場する刀剣にゆかりのある自治体は、その人気を地域活性化に利用している。岡山県瀬戸内市(旧長船町)では、国宝「太刀 無銘一文字(山鳥毛)」を購入するために、クラウドファンディングで約1億5000万円を集めた。


 この刀剣を展示するだけでなく、刀剣乱舞とのコラボレーションを行い、ラッピングタクシーの運行や限定グッズの販売、ふるさと納税の返礼品として山鳥毛のレプリカレターナイフを提供するなど、地域振興に最大限活用している。その結果、山鳥毛の展示による経済波及効果は年間約5億円と試算されている。


 小倉城(福岡県北九州市)でも刀剣乱舞とのコラボイベントを開催し、多くのファンが訪れた。小倉城は2023年度の目標である入場者25万人を達成しており、この記録は25万人超は63年ぶりの水準となっていうる。刀剣乱舞コラボで縁のある刀剣の展示やスタンプラリーなど、多角的なイベントを企画し、地域の観光資源として成功を収めたことも大きく貢献しているだろう。


 足利市では2017年、同市立美術館で「山姥切国広」を所有者と交渉して初展示したところ、刀剣女子をはじめとするファンを全国から3万8000人集めた。


 2022年の再展示でも新型コロナウイルス禍の入場制限にかかわらず、2万5000人のファンが足利に詰めかけた。産経新聞の報道によると、展示期間中の経済効果は2回で計約9億円近くに上るという。同市は歴史と文化資源を軸に観光振興を図る観点から、新たな資源として「山姥切国広」を個人所有者から取得しようと動いている。


 これらの事例から、自治体にとって刀剣乱舞は地域活性化の重要なパートナーとなっているといえる。


●自治体が「終わってほしくない」と望むワケ


 自治体が刀剣乱舞の継続を強く望む背景には、明確な経済効果と地域ブランドの向上がある。ゲーム内に登場する刀剣を所蔵する自治体や、その刀剣にゆかりのある地域では、ファンによる「聖地巡礼」が観光の重要な要素となっている。


 特に、高額な投資を行い刀剣を購入した自治体にとって、ゲームの継続は投資の正当性を保つ上で不可欠である。サービスが終了すれば、これらの取り組みが無に帰す可能性があるため、自治体が「終わってほしくない」と強く望むのは当然のことである。


●「やめたくてもやめられない」? 運営側の事情も


 運営元であるDMMとニトロプラスは、当初の想定を超えて10年間の長期運営を続けている。これまでに行われた多くのコラボレーションやイベントは、自治体だけでなく企業やファンとの強固な関係を築いており、簡単にサービスを終了できない状況にある。博報堂らの調査によると、刀剣乱舞の「支出喚起力」は2018年の時点で150億円とされており、その経済的影響力は無視できない。


 ユーザー数はPC版リリースから3カ月で登録者数100万人を突破し、1年後にスマホ版がリリースされた。2023年時点でスマホ版だけでも累計ユーザー数が1000万を突破したと発表している。


 2.5次元ミュージカルも大人気で、舞台刀剣乱舞は初演からの累計観客動員数が2019年時点で100万人を突破し、そのチケットは即日完売が続くほどの人気だ。


 運営にとっても、長期運営に伴うコンテンツの新鮮さの維持や、新規ファン層の開拓など、解決すべき課題も多い。10周年を迎えるにあたって、新キャラクターや新コンテンツの発表が予定されており、こうした打ち手でファン層の維持・拡大を図っている。


 刀剣乱舞は、ゲームの枠を超えて地域振興や文化発信に重要な役割を果たしている。そのコンテンツパワーは経済効果やユーザー数といった定量的なデータからも明らかであり、自治体やファンからの継続要望が強いのも頷ける。


 筆者自身も、このゲームを通じて刀剣文化への理解を深め、実際に刀剣収集を趣味とするようになった一人である。今後も刀剣乱舞が長く続き、日本の伝統文化と地域活性化に寄与していくことを強く願っている。


●金森努(かなもり・つとむ)


有限会社金森マーケティング事務所 マーケティングコンサルタント・講師


金沢工業大学KIT虎ノ門大学院、グロービス経営大学院大学の客員准教授を歴任。


2005年より青山学院大学経済学部非常勤講師。大学でマーケティングを学び、コールセンターに入社。数万件の「本当の顧客の生の声」に触れ、「この人はナゼこんなコトを聞いてくるんだろう」と消費者行動に興味を覚え、深くマーケティングに踏み込む。(日本消費者行動研究学会学術会員)。


コンサルティング会社・広告会社(電通ワンダーマン)を経て、2005年に独立。30年以上、マーケティングの“現場”で活動している「マーケティング職人」。マーケティングコンサルタントとして、B to B・Cを問わず、IT・通信、自動車・電機・食品・家庭用品メーカー、金融会社、生損保、自動車販売、EC等、幅広い業種に対応し、新規事業・新商品開発・販売計画・販売のテコ入れ案・コミュニケーションプランの策定等、幅広くマーケティング業務の支援を行っている。講師としても業種を問わず、年間100コマ以上の企業研修に登壇。コンサルティング経験を元に企業課題に合わせた研修のオリジナルのコンテンツやカリキュラムを提供。研修によってマーケティングを「知っている」だけではなく、「業務に生かせるようになること」にこだわっている。執筆は、「初めてでもマーケティングが楽しく体系的に学べる本」をテーマに10数冊刊行。「3訂版 図解よくわかるこれからのマーケティング」(同文舘出版)等。



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  • 刀剣はまだまだありそうだけど、ネタ切れになってからが勝負では
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