「ポケポケ」はなぜ大人も"ドハマり”するのか? 類似ゲームが見逃した「快感」への強烈なこだわり

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2024年11月16日 09:11  ITmedia ビジネスオンライン

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「ポケポケ」が今人気だ

 画面の中で「サクッ」とカードパックの封が切られ、現実のカードパックさながらの手触りを思わせるアニメーション。そして1枚また1枚とカードが姿を現す演出。


【画像】著者が実際にゲットした3枚のレアカードを見てほしい


 これは10月30日にサービスを開始したスマホ向けアプリ『Pokemon Trading Card Game Pocket』(以下、ポケポケ)における、いわゆる「ガチャ」の演出である。サービス開始約1週間で全世界累計3000万ダウンロードを超えたポケポケの狙いとは何か。


●カード開封の快感 デジタルで再現


 ポケポケは平成から受け継がれてきた「カード開封の体験」をデジタルの時代に表現し、より多くの人々、特に今の子どもたちのポケモンおよびポケモンカード(以下、ポケカ)への入口となることを期待してリリースされたと考えられる。


 ポケカは目下好調であり、その人気から一部カードの価格が高騰し、"投機"の対象にもなっている。直近は価格も落ち着いてきたが、なお熱狂的なファンは多い。


 とはいえ、昨今の娯楽における環境の変化、特に子どもから学生における価値観の変化は見過ごせず、何も手を打たなければこの人気継続は難しい。それは「カードゲーム」という遊びの形態がゆえでもある。


●TCGが抱える4つの課題


 TCG(トレーディングカードゲーム)という遊びの形態は、1990年代に米国のマジック・ザ・ギャザリングから始まり、以降アナログゲームの中心的なジャンルとなった。日本でもポケカや遊戯王OCG(オフィシャルカードゲーム)がその代表例であり、幼少期に触れた読者も多いだろう。


 多くのプレーヤーを抱えたTCGだが、遊び始めるにあたり複数の障壁が存在していた。それは、イニシャルコストとランニングコスト、ルールの複雑さ、そして遊び相手の確保である。


 イニシャルコストは分かりやすいだろう。TCGを遊び始めるためにはルールに則ったデッキを構築する必要があり、必要最低限のカードを購入する必要がある。


 今のポケカであれば構築デッキ、つまり封入されているカードが決まっており、すぐにゲームを行えるカードセットの価格は550〜3000円程度である。


 レアリティー(希少性)の高いデッキを選ばない限りイニシャルコストはそこまで大きなものではない。しかし、スマホゲームを中心にF2P(Free to Play、基本無料でプレー可能)が浸透したのが今の娯楽環境だ。


 自分にとって「面白いか面白くないか分からないものに金銭を支払う」ということへのハードルが高くなっていることは障壁の一つである。


 もう一つがランニングコストである。TCGにおけるランニングコストとは「拡張パック」の購入費用を指す。これは、遊びの幅を広げ、トレンドについていくためには必要な出費だ。


●強くなるにはお金もかかる


 プレーしたことのある読者であれば理解できることだが、イニシャルコストで入手する構築デッキは遊びの幅が狭く、また対戦における強度も”それなり”に留まりがちである。


 遊びの幅を広げて楽しむためには、狙ったカードが出るまで5枚180円の拡張パックを購入し続けるか、カードの二次流通ショップで購入するしかない。これもTCGの障壁である。


 ルールの複雑さも大きな障壁の一つだ。TCGは往々にして、開始当初はシンプルなルールでも、戦略性を追求するたびに新たな効果を持つカードが現れ、時が経てばゲーム全体が高度かつ複雑になる。


 ポケカは他のTCGと比べて低い年齢層も対象にしているため、比較的簡素なルール・レギュレーションではあるが、新たに始める人にとっては障壁となっていることは間違いない。


 そして最後が遊び相手の確保である。これはTCGに限らず、古来からある囲碁や将棋などテーブルゲーム全般の課題であり、新たに始める際の障壁になり続けている。


 娯楽の種類が少なかった時代であればいざ知らず、現代では子ども向け・中高生向けの娯楽が溢れんばかりに存在する。その中で自らと同じ趣味思考を持ち、同じ娯楽を楽しむ仲間を見つけることそのものが、一昔前に比べて困難になった。


 小学生ですらインターネット上で共通の趣味を持つ友人を見つけ、マルチプレーゲームを行う時代において、アナログがベースのTCGは相対的に遊ぶハードルが高くなっているのである。


●ポケカの喜びの「原点」


 これまで述べてきた課題を解決する方法の一つが、シンプルにデジタル化することである。ポケポケでは、昨今のスマートフォン向けゲーム・ソーシャルゲームの潮流に則りF2Pとし、12時間ごとに無料で拡張パックを提供することでプレー環境やコスト面の課題をクリアしている。


 また、ルールについても従来のポケカから必要カード枚数を60⇒20と大幅に減らすなど、よりシンプルな独自ルールへと変更。加えてチュートリアルを交えたCPUとの対戦モードを通じて、遊び方を学ぶ環境も用意している。もちろん、遊び相手の面でもインターネットを通じた対人戦の環境が整えられている。


 このように、TCGそしてポケカへの入口として、スマートフォン上で遊ぶことが中心となった今の子どもたち、そして大人たちの環境に適した形でポケカに触れることができるのがこのポケポケなのだ。


 しかし、単にTCGをデジタル化したものであれば、ポケポケ以外にも過去より存在している。それらにはないポケポケの新規性とは何か。それは本家ポケモンの基本コンセプトでもある「収集」であると考察する。


●原点回帰としての「収集」の喜び


 ポケポケを実際にプレーして感じたことだが、ポケモンシリーズの根幹である「収集」の魅力、そしてTCGならではの「集めたカードを並べ、眺める」というアナログ時代からの体験を、デジタルでも丁寧に再現しようとするこだわりが感じられる。


 カードパックをハサミで開封する際の「サクッ」という感触を再現した演出や、カードが1枚ずつ明らかになっていく過程の演出はもちろん、獲得したカードが並べられたファイルの見せ方にも工夫が感じられる。


 特に、カードに描かれたイラストをさまざまな角度から見られる演出や、レアリティが高く表面に光沢加工がされているカードの光り方・模様が角度によって変わる演出は、相当なこだわりが込められているに違いない。


 幼少期、いわゆる”キラカード”をさまざまな角度から眺めたことのある読者も一定数いると思われるが、まさにあの体験をデジタル画面で再現しているのである。


 また、収集の一要素であり、本家ポケモンシリーズの重要コンセプトであった「交換」についても、11月時点では未実装ながらメニュー自体はゲーム内に搭載されており、近日公開されると想定される。


 このように、他のデジタルTCGが対戦に重きを置くのに対し、ポケポケはTCGのもう一つの魅力であり、そして全てのポケモンシリーズの原点である「収集」という要素に焦点をあてた構成となっている。さらに、収集を主目的とするTCGで課題となる「保管場所」の問題も、デジタル化によって自然に解決されていることも付言したい。


 ここまでの内容を整理すると、ポケポケには二つの重要な機能があると考えられる。一つは「TCGを開始する際の障壁を下げ、新たな世代にとってポケカの入口となるきっかけ」であり、もう一つは「フィジカルの魅力を再現し、手軽・気軽に始められることで、かつてポケモンやポケカに触れていた大人世代の回帰のきっかけ」となることである。特に、カードを集め、お気に入りのポケモンを眺めることが主目的のライト層には、非常に適した構成となっている。


 ただ、ゲームとしての売り上げを支えるのは本家ポケカ同様にヘビーユーザーたちだろう。当然ながらポケポケの対戦機能ではF2Pの上にP2W(Pay to Win)があり、追加アイテムを購入して多くの拡張パックを開封し、強力なカードを獲得したプレーヤーが有利になるゲームデザインとなっている。サービス維持にはライト層獲得だけでなく、これらヘビーユーザーの維持も必要となる。


 ライト層の獲得とヘビー層の維持、デジタルとフィジカル、一見対立する要素の両立をデジタルTCGというジャンルで試みるポケポケ。今後の展開を注視したい。


●著者プロフィール:滑 健作(なめら けんさく) 


 株式会社野村総合研究所にて情報通信産業・サービス産業・コンテンツ産業を対象とした事業戦略・マーケティング戦略立案および実行支援に従事。


 またプロスポーツ・漫画・アニメ・ゲーム・映画など各種エンタテイメント産業に関する講演実績を持つ。



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