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通学時の重たい荷物が原因で体に不調を感じる小学生が増えている中、「軽く感じられる」と評判の布製ランドセルがある。スクール水着を製造・販売するフットマーク(東京都墨田区)が開発した「ラクサックジュニア」(9900円〜)だ。
発売から毎年販売数を150%前後増加させており、40社以上が参入する布製ランドセル市場の中で、着実にシェアを拡大している。
●深刻化する「重たい」問題
フットマークが2024年3月に実施した調査によると、小学1〜3年生のランドセルの平均重量は4.13キロに達した。前年(4.28キロ)から微減したものの、小学生の91.4%が「ランドセルが重い」と感じていることが分かった。
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特に、「重い」と感じている小学生の3人に1人が通学を嫌がった経験があり、肩や腰、背中などに痛みを訴えているという。
この背景には、教育現場におけるさまざまな変化がある。2019年から始まったGIGAスクール構想(生徒一人に1台の端末を整備する計画)により、タブレットなどが配布され重量が増したほか、コロナ禍による感染症対策として水筒の携帯が増えたことも影響した。
●「軽く感じられる」をコンセプトに開発
通学カバンの「重たい」問題に、フットマークが着目したのは2017年にさかのぼる。当時、新学習指導要領の導入で教科書が増え、中学生の通学カバンが平均10キロに達するなど社会問題となっていた。
スクール水着メーカーとして学校とのつながりが深かった同社には、教育現場から多くの声が寄せられていた。「教科書自体を軽くすることはできないため、軽く感じられる構造のカバンをつくろうというコンセプトで開発を進めた」と、商品の企画開発を担当する佐野玲子さんは振り返る。
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カバンづくりのノウハウがないにもかかわらず、開発期間はわずか1年だった。「子どもの体への影響を考慮して、まず発売し、その後に改良を重ねていくというスピード重視のアプローチを取った」(佐野さん)
全国で指定カバンとして採用されるなど広がりを見せ、2019年頃からは小学生用の製品を求める声が増えた。佐野さん自身も小学生の娘を2人持つ親として、ランドセルで運ぶ荷物の重さに驚いた経験があったことから、小学生向けの開発を進め、2020年に「ラクサックジュニア」の販売を開始した。
●特許技術と登山カバンの原則を応用
中学生向けの「ラクサック」と、小学生向けの「ラクサックジュニア」は基本的な構造に変わりはない。小学生の平均体型をもとに立体的な型を独自に開発し、通学時の歩行や腕の動きまで考慮して設計。これにより、子どもの体にぴったりフィットする形状を実現した。
ラクサックの最大の特徴は、「ブックストラップ」だ。これは登山用バックパックを参考に開発したもので、重い教科書類を背中にしっかりと固定することで、より軽く感じられる効果があるという。「重い荷物は体の近く、かつ高い位置に固定する」という登山の原則を応用した。
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「現在の小学生が抱える問題は荷物の重さ。通学カバンを数百グラム軽くしても実感としてはあまり変わらない」と、学校教育事業部の山田樹さんは説明する。そこで同社は、カバン本体の軽量化以上に「軽く感じる構造」にこだわった。
サイズ展開においても、容量はほとんど変えず、肩ベルトの設計を変えることで、成長に合わせてより軽く感じられるよう工夫している。
改良を重ねる中で、容量を増やし、機能を追加した「ラクサックジュニアプラス」(1万6500円)を発売。100サイズ、小サイズ、大サイズの3モデルを展開し、最小の100サイズは身長95〜120センチの小柄な子ども向けとして、今年2月に追加した。高い位置で背負えるよう肩ベルトの位置を変更するなど、工夫を重ねた。
低学年の子どもに大きめサイズを選ぶケースも多いが、「体に合わないサイズだと、むしろ重く感じることがある。成長に合わせて靴を買い替えるように、カバンも気軽に買い替えていただきたい」と佐野さんは語る。
●「1週間の無料貸出」で軽さを体感
従来の革製ランドセルが6年間の使用を前提とした耐久設計であるのに対し、同社は3年を目安に買い替えを推奨している。成長に合わせたサイズ変更と、使用期間を限定して価格を抑えながら必要な強度を確保するための提案だが、実際には3年以上使用されている例もあるという。
また、商品を納得して選んでもらうため、1週間の無料貸出サービスも提供している。実際の通学時に使用できるほか、学校で周囲の反応も確認できる点が評価されており、同サービスを利用した約半数が購入に至っている。
「当初は3割程度の購入を見込んでいたため、予想以上の結果。利用者からは軽さを体感できたという声が最も多い」(山田さん)
ラクサックジュニアは、発売から毎年150%前後の成長率で販売数を伸ばしている。認知度の向上に加え、イオンやニトリなど大手企業参入による布製ランドセル市場の拡大が要因として挙げられる。
●新たな選択肢として定着へ
小学生の通学カバンにおける割合は、従来の革製ランドセルが8割程度を占めているが、布製ランドセルの利用率も少しずつ増えてきた。さらに、革製ランドセルの平均価格が5万円台に対し、布製ランドセルは1万〜2万円台で展開されるなど、価格面でも選択肢は広がった。
一方で、参入企業が増えたことで、何を基準に選べばいいのか迷うという声もある。最近は、小学校入学1カ月でランドセルからラクサックに買い替えたいといった相談が寄せられることもあるそうだ。
今後の課題は、保護者に子どもの体への負担を考慮した通学カバンの選び方をいかに提案していくかだ。「これまでのランドセル選びでは、色やブランド、金額が主な基準とされてきた。私たちは子どもの体への負担という新しい選択基準を提案していきたい」(佐野さん)
子どもたちは今も重い荷物を持ち歩かざるを得ない状況が続いている。佐野さんは「メーカーとしてできることは、製品を通じて社会課題を提起し続けること」と語る。布製ランドセルという選択肢が、最終的には保護者の意識を変え、行政の仕組みも変えていく。そんな期待を込めて、同社は健康的な重さでの通学の実現を目指す。
(カワブチカズキ)
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