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今日は冬至。夜には、ゆずを浮かべた「ゆず湯」に入るというご家庭も少なくないのでは。
そもそもは、運を呼び込む前の禊を行うための風習で、冬が旬のゆずを浮かべた湯船に浸かって身を清め、ゆずの強い香りで邪気を祓おうというもの。
また、ゆずは実るまでに長い年月がかかるので「長年の苦労が実りますように」との願いも込められているとされる。
さらに、ゆず湯には血行促進効果が認められていることから「冬至にゆず湯に浸かると、風邪をひかずに冬を越せる」とも言われている。
そんな、古来日本で親しまれてきたゆずが近年、海外で人気を集めている。
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12月10日にノルウェー・オスロのホテルで催された、ノーベル平和賞の晩餐会でも、前菜にゆずポン酢が使われていた。
「ここ10年ほどでヨーロッパ、とくにフランスで日本産ゆず人気が高まっています。現地では2017年から、フランス語の辞書にも『YUZU』という単語が収載されています。それぐらいあちらではポピュラーなものになっています」
こう語るのは商社・DKSHジャパンの長澤英之ソーシング、シニアマネージャー。同社は日本産ゆず果汁の業務用国際取引ではトップクラスのシェアを誇る。
高知県に聞いたところでは日本産のゆずが輸出されるようになったのは「ほんの12年ほど前から」だと長澤さんはいう。
そもそも、日本でゆずが換金作物=売り買いされる農産品となったのは戦後しばらく経ってからのことだった。
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「もちろん、昔から日本にゆずはあったのですが、それは各家庭の庭に生えているものを、それぞれの家で食べていたと高知県では一般的に言われています。
それが、昭和30年代に、ポン酢が商品として一出回るようになったことで、注目が集まって。そこから売り物として生産されるようになりました。
世界的には日本と韓国、この2カ国が主要生産国。農林水産省の統計データによりますと日本が年間2万?2万数千トン、韓国が1万5千トンほどを生産しています」(長澤さん、以下同)
国内の主要産地は四国、九州地方。なかでも高知県がダントツで、国内生産量の5割以上を占めるという。
そんなゆずが海外、とくにフランスで知られるようになるきっかけを作ったのは今年、惜しまれつつ他界した“料理の鉄人”でお馴染みの故・服部幸應さんだった。
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「服部さんが2002年、東京に来た友人で、スペイン人の有名シェフ、フェラン・アドリアさんにゆずを教えたのが最初と言われています。
ヨーロッパにはない強く、爽やかな香りを放つゆずに惚れ込んだアドリアさんが各国の著名なレストランやシェフ仲間に広めたことで、ヨーロッパで一気に日本産のゆずが知れ渡った。それから10年後の2012年。高知県が試験的に生のゆずわずか数トンを輸出したのが最初です」
その少量のゆずが、試験的に海を渡ってから12年。現在の輸出量はというと。
「私どもが扱っているのが、生のゆずではなく、ゆず果汁ユズオイル、ユズパウダーなどの加工品なので単純比較はできないんですが……。
我々DKSHジャパンでは2014年に初めて業務用の冷凍ゆず果汁をフランス向けに輸出しました。このときの輸出量は約4トン。4トンの果汁をとるためには、およそ5倍の果実がいるので、生のゆずに換算すると、だいたい20トンほどになります。それから4年後の2018年には、輸出量は生のゆずベースで500トンに到達しました。
もちろん、その背景としてあったのは、アドリアさんのご尽力、そして何より、主な生産県の高知・徳島の県庁や地方自治体、農協さん等の関係者が非常に熱心な宣伝活動を行った賜物だと思います」
わずか4年で輸出量が、生のゆずで20トンが500トンに激増したことになる。
「2018年以降、我が社が取り扱った輸出量は生のゆずベースで500トン前後を推移しています。というのも、そもそもの生産が追いついていない。
そして何より、ヨーロッパ向けとなると農薬基準がとても厳しく、日本で生産しているゆずのうち、ヨーロッパ向けに使えるものは1割ほどとされています。おおまかに言えば、ヨーロッパ向けに輸出できる果汁は日本全体でごくわずかというのが現状なんです。
いま、ゆずはフランス以外にもヨーロッパ中で注目されています。当社も、ヨーロッパ各国にある支店から『うちにも日本産ゆずを入れてほしい』とリクエストされているんですが、現状ではフランスの需要を満たすのが精一杯で、フランス以外の国への輸出はできていないんです」
ヨーロッパで引く手あまたのゆず。最初の輸出からわずか12年で、いまや先述したようにフランスでは辞書にも「YUZU」が載るまでに。
「ヨーロッパにも、シチリア産やスペイン産のレモン、それにフランスの地中海地方で生産されている緑色のシトロンなど、ヨーロッパにも柑橘類はたくさんあります。
でも、ゆずのように香り高い柑橘はこれまでなかったと聞いています。人気が出た最大の特徴もこの香り。
もちろん、ビタミンCやクエン酸が豊富で疲労軽減にてきめんといった“スーパーフルーツ”という認識も、現地ではあります。ですが、そのような栄養面以上にフランスやヨーロッパの人たちを惹きつけているのは、ゆずの特徴的な風味です」
気になるのは、現地での使われ方だが……。
長澤さんは「基本的には食品として使われるケースが多い」と話す。
「とくに多いのはアイスクリームやケーキなど、スイーツの原料として。私どものゆず果汁はピューレという形でフランスでは流通していて。多くのパティシエさんたちにケーキやチョコレート、アイスクリームの原材料としてご愛用いただいています。
そのほか、食品ですと、メーカーが製造するソフトドリンクやマヨネーズ、カップラーメンなんかにも使われています。もちろん、フランス料理のシェフたちも、オマールエビやイベリコ豚の料理などに、ゆずをたくさん活用してくれています」
食品以外でもゆず人気は高い。
「石鹸やボディシャンプー、お香や香水にも原料として使用されています。
当社では果汁だけでなく、ゆずの皮からとった精油、ゆずのオイルも輸出しています。フランスの香料会社に納入されたオイルは香水の原料として使われています。
用途の幅という意味では、日本よりむしろ広いぐらいに思いますね。昔から身近にあった日本人以上に、海外、とくにフランスの人は、ゆずの魅力に敏感かもしれません」
ヨーロッパを経由して、ゆずの魅力はいまや全世界に伝播中だ。
「アメリカや中国、シンガポール、それにタイといった国でも、ゆずはヨーロッパ発進の新しい味覚として認知され、その人気は上昇中です。
日本でも有名なタイの『シンハービール』では、ゆず味のビールが売り出され人気を博しているそうです」
じつは、私たち日本人の知らない間に、ゆず人気は日本に“逆輸入”も。
「私どもがフランスに輸出したゆず果汁。それを使ってフランスで作られたピューレが、生洋菓子の原料として日本に輸入されていて。いま、日本のパティシエさんたちが普通にお使いになってます。気づけば日本産のゆずが、行ったり来たりしています」
最後に、まさかと思いつつ聞いてみた。
「フランスの人が、冬至にゆず湯に入ったりは?」と。
すると長澤さん、苦笑いを浮かべて
「さすがに、それはなさそうですね(苦笑)。というのも、果物のなかでも、ゆずは決して安いものではないので。スイーツや香水の原料など、それなりに付加価値をつけられるような使い方でないと難しい。
バスタブに生のゆずを浮かべるとなると……さすがにフランス人でも『それはコスト的にもったいない』と考えると思います」
止まらぬ物価高&円安で、すっかり貧しい国になってしまった日本。
でも、今夜ぐらいは、フランス人も真似できない“贅沢な湯”に、浸かって1年の疲れをとってみましょうか。
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