年末ともなると、さまざまなコンテンツの年間ランキングが公開される。なかでもマンガは作品数が多いだけに、ランキングを参考にして購読する人も多いだろう。出版マンガのランキングでは紙の単行本売上が反映され、上位には『ONE PIECE』や『呪術廻戦』といった誰もが知るタイトルが目立つ。一方、近年勢いを増す電子コミックのランキングは、配信サービス各社のカラーが色濃く表れているのが特徴。それだけに「今年のヒットの傾向」は若干わかりにくいのだが…。電子コミック配信サービスに話を聞いた。
【マンガ】女性1位!浮気した元夫から“ロミオメール”…ヤバすぎる内容とは?■出版マンガは有名シリーズが年間ランキング席巻、電子コミックは多種多様
2024年の出版マンガの年間コミックランキングを見ると、『ONE PIECE』、『呪術廻戦』、『SPY×FAMILY』などの大人気シリーズ作が目白押し。誰もが知るコミックが並んでいるといった状況だ。電子コミック配信サービス各社のランキングを見ても、書籍・単行本に限れば『キングダム』がLINEマンガとブックライブで1位を獲得。またコミックシーモアは、ランキングが<少年/青年/少女/女性>のジャンル別で発表されているが、青年マンガはやはり『キングダム』が1位に。
本作は今年、最新作が上映されており、「やはり、直近にメディア化が話題を呼んだ作品は強いです。当社のみならず各書店さんやマンガアプリでも上位にランクインしていました」と、出版マンガからオリジナルの電子コミックまで幅広く展開するコミックシーモア・伊藤真美さんも語る。
一方で、電子コミックのみを見ていくと、各社それぞれランキングのくくり方に違いはあれど、LINEマンガ連載作1位は『入学傭兵』、ブックライブ総合1位は『その天才様は偽装彼女に執着する』、めちゃコミック一般コミック1位は『オークの樹の下』、コミックシーモア少女マンガ1位は『おひとり様には慣れましたので。婚約者放置中!』・少年マンガは『俺だけレベルアップな件』と、まったくもってバラバラな結果に。ここから、なにか人気の傾向は導き出せるのだろうか?
「特に電子コミックは、紙の単行本に比べて異世界、ファンタジー系が圧倒的に強い傾向があります。このトレンドはここ数年続いているもので、電子コミックならではの没入感がこうしたジャンルの人気を後押ししていると考えられています」
もともと異世界ファンタジーや転生モノは、当初は男性の“なろう系”小説やマンガから始まったものの、現在では女性向け作品にも進出してトレンドに。さらに進化を続け、“悪役令嬢”“溺愛”といった派生ジャンルを生んでいる。
「現実にはないきらびやかな世界観は昔から少女マンガで好まれる要素で、異性界ファンタジーとも相性が良かったのだと思います。また出版マンガに比べて、読者の反響をフットワーク軽く作品に反映できるのも電子コミックの強み。人気ジャンルが枝分かれし、独立したジャンルへと発展していくスピード感は、電子コミックならではかもしれません」
こうしたジャンルの枝分かれは、特に少女、女性マンガで顕著に見られるようだ。
「昨年頃まで少女マンガで圧倒的に人気だった“溺愛”要素を含む作品にも、やや変化が見られるようになりました。当社ランキングでは1位『おひとり様には慣れましたので。婚約者放置中!』、2位『拝啓見知らぬ旦那様、離婚していただきます』と、いずれも主人公は愛はされつつも、それだけに流されない強い生き方を提示しているのが特徴です」
マンガは時代の写し鏡。女性マンガではかねてより“強い女性像”に根強い人気があったが、ガールクラッシュ傾向が異世界ファンタジーにも表れているのは興味深い。今後、一大ジャンルに成長していくか注目したいところだ。
■“異世界”が席巻するなか、なぜ“実録風”が健闘? SNSやネット掲示板との親和性の高さも
ただ、あらゆる電子コミックサービスが異世界ファンタジーに席巻される中、ひとつ特徴的な動きがある。コミックシーモアの女性ジャンルにおける、“実録風”マンガの人気ぶりだ。世間的にも人気となったコミックエッセイとは創作である点で異なるが、SNSやネット掲示板などでも話題の事柄を取り入れている。現実を忘れさせてくれる異世界モノとは真逆とも言える、リアルで身近な作風がウケるのはなぜか。
「土台としては、やはりSNSがあると思います。人間の生々しい感情が渦巻くSNSは、それ自体がもはやエンタメ。自分の身に降りかかったことをマンガ化して、SNSで発信する方も多いですよね。ただ現実はやはり現実で、モヤモヤが残ってしまうことも。創作だからこそスカッとした決着まで味わえて、かつ身近な出来事のように共感もしやすいのが“実録風”マンガが支持される理由なのだと思います」(シーモアコミックス 第二編集部プロデューサー/以下同)
同社女性ジャンルの1位には、『元夫から「ロミオメール」が届いた件について』がランクイン。タイトルにあるロミオメールとは男性が別れた相手に復縁を迫って送るメールのことで、一部SNSでバズワードとなっていたものだ。
「ロミオメールの特徴は『帰っておいで、僕のマーメイド…』といったポエムチックな文面です。ツッコミどころ満載なのに送った側はいたって真面目なところと、受け取った側の嫌悪感のギャップが絶妙な人間ドラマを生みそうなネタとして注目していました」
主人公は、新婚早々浮気した夫にさっさと見切りをつけて離婚&転職。新天地で熱視線を送ってくる男性はいるものの、「恋愛も結婚もコリゴリ」と仕事に邁進している女性だ。女性マンガでトレンドになりつつある“強い女性像”と“溺愛”は違う形でここにも現れており、現代女性のマインドや共感要素が伺える。
「本作のテーマは未練タラタラの元夫と毅然とそれを突っぱねる主人公の攻防戦ですが、さらなる盛り上がりを見せたのが元夫の浮気相手=“悪役女性”の登場でした。もともと元夫の浮気相手は出す予定でしたが、読者さんのレビューやSNSにおける期待感から彼女の活躍も増やすことに。元夫に制裁を下すだけでなく、主人公にさんざんマウントを取ってきた悪役女性をギャフンと言わせるスカッとした流れを手厚くしたことで想像以上の盛り上がりとなり、今年の女性ジャンルランキング1位をいただくことができました。これは作品に対しての想いを伝えてくれた読者さんのおかげでもあります」
この“悪役女性”の登場により、WEB広告からの流入でも大きな効果を得たという。異世界モノで人気の“悪役令嬢”とは受け取られ方は違うかもしれないが、さまざまなフォーマットが飽和状態の現在、主人公だけでない“悪役”の注目度はますます上がっていくのかもしれない。
「実録風マンガも、ひと頃はヒロインがひたすら貶められたり、ドロドロしすぎたりするものが目立ちましたが、元気のない時に読むのはしんどいと思うんです。手掛けている実録風マンガではコミカルな要素や、心地よく読み進められるテンポ、スカッとした爽快感を大切にしています」
なお、同社の女性ジャンル3位には『うちの夫、やばくないですか?』と、こちらも実録風マンガがランクイン。各社のランキングでも知名度の高いタイトルが上位に集中しがちな少年・青年マンガに比べて、少女・女性マンガはバラエティに富んでおり、それぞれのカラーが色濃く反映されている印象だ。
オリジナル作品に注力する電子コミックサービスも増えているだけに、自分にフィットするサービスを選ぶ参考として少女・女性マンガランキングに注目してみるのもアリかもしれない。
(文:児玉澄子)