能登半島を襲った地震とその後の記録的豪雨は、子どもの心に傷を残した。復興の兆しが見え始めたばかりの二重被災で生活環境の格差が広がり、一部の生徒は今も体調不良が続く。節目の時期に心身が不安定になる「アニバーサリー反応」も懸念されており、専門家は「誰にでも起き得ること。家族の理解が大切だ」と呼び掛ける。
石川県によると、能登地方では7月までに県内外のスクールカウンセラー延べ約1000人が学校に派遣されたほか、少年鑑別所の職員も連携して心のケアに当たってきた。発災以来、輪島、珠洲両市で中学生の面接を続けてきた金沢少年鑑別所の統括専門官、杉木淳一さん(38)は「豪雨による二重被災のショックがより大きかった」と話す。
県は8月末、学校の体育館などに開設した1次避難所を翌月中に全て閉鎖すると発表。2学期が始まり、生徒が日常を取り戻しかけた9月下旬に豪雨が襲った。16人の犠牲者の中には輪島市の中学生も含まれ、杉木さんは「学校行事の準備などで前向きになり始めた時だっただけに、生徒の絶望感は大きかった」と振り返る。
豪雨被害は川沿いを中心に局地的だったため、一部の生徒だけが避難生活に後戻りするなど、生活環境の格差も広がった。健康の回復具合にも個人差が見られ、杉木さんは「大半が元気になる中で、頭痛や腹痛、睡眠不足が続き、周囲との差に苦しんでいる生徒もいる」と明かす。
地震から間もなく1年を迎えるが、杉木さんによると、当時の映像を見て「今も不安になる」と訴える生徒もいるという。
生徒の体調について、金沢大の菊知充教授(精神行動科学)は、被災1年などの節目に当時の記憶がよみがえって心身に不調を来す「アニバーサリー反応」が懸念されるとした上で、「誰にでも起きる自然な反応だと知っておくことが大事だ」と話す。
菊知教授は「能登半島地震は正月の雰囲気とリンクしており、当時を思い出しやすい」と指摘。避難訓練などで自信を付けるのも有効だとした上で「じっと待っていれば心身の状況は良くなる。同居家族の理解も必要だ」と呼び掛けた。
シンポジウムで講演する金沢大の菊知充教授=11月24日、金沢市
金沢少年鑑別所統括専門官の杉木淳一さん=11月24日、金沢市