コンビニと言えば、おにぎりやパン、サンドイッチ、お弁当、飲み物など、食品・飲料を買う機会が多いのではないだろうか。それ以外にも日用品や雑貨、文具など生活に必要なものは全て手に入る品揃えこそ、コンビニの魅力と言える。
一方で衣料品については、 これまで「コンビニでは売れない」とされてきた。
食品や日用品と異なり、衣料品は来店客の主な購買動機である手軽さ・便利さにそぐわず、どうしても「ついで買い」につながりにくいのが障壁となっていた。
その通説を覆したのがファミリーマートの「コンビニエンスウェア」だ。
2021年3月に全国展開を始めると、同社のコーポレートカラーである青と緑を配した「ラインソックス」がSNSで話題となり、コンビニ発のアパレルとして一躍有名になった。
コンビニエンスウェア開発の背景やその舞台裏について、株式会社ファミリーマート CW・雑貨部 CW・雑貨グループ須貝 健彦さんに話を聞いた。
◆注目されていなかったコンビニ衣料品にチャンスを見出す
ファミリーマートはコンビニエンスウェアを始める前から、インナーのTシャツや下着、靴下といった衣料品を扱っていた。だが、以前までは旅行や出張時などの「緊急需要」が中心で、「日常使いできる商品」としてのニーズは満たせていなかったという。
「インナー市場が1.5兆円規模もあるのに、コンビニの衣料品はそのシェアを取り切れていないのが課題に感じていました。私自身も中途でファミリーマートへ入社しましたが、入社以前は衣料品を売っていることに対して、あまり気にしたことすらなかったくらいです」
コンビニの中では日の目を浴びていなかった衣料品を、いかにして日常的に、長く使ってもらえる商品にできるか。「コンビニで衣料品を買う文化」の醸成を目指したのが、コンビニエンスウェアの開発背景だ。
一方、社内では、コンビニ全体の売り上げ比率が低い衣料品に注力することに対して懐疑的な声もあったが、ファミリーマートが「衣料品をコンビニで購入する」文化を作っていくことへの本気度は変わらなかった。
◆ファセッタズム(FACETASM)落合宏理氏をデザイナーに起用
こうした新たな取り組みに挑戦する上では、自分たちだけでやるのではなく、ビジョンに賛同するパートナーが必要だった。そこで、声をかけたのがファッションブランド「ファセッタズム(FACETASM)」を手がけるデザイナーの落合宏理氏である。
「何よりもファミリーマートが挑む『コンビニで衣料品を買う文化』の醸成に、強く賛同していただいたのが落合さんでした」
コンビニエンスウェアのテスト販売は、関西の店舗で実施。販売店舗を徐々に拡大していき、2021年3月からは全国販売に踏み切った。
その直後、ファミリーマートを象徴する色のラインソックスがSNS上で“ファミマソックス”として話題となり、若者を中心に人気に火がついた。
◆「海外ではクールに見えている」ファミマの色
「落合さんが最初に手がけたのは、今もコンビニエンスウェアの看板商品であるラインソックスでした。
日本のコンビニは外国の方に非常に人気があり、コーポレートカラーも非常にクールに見えることから、『日本のお客様にもその良さを伝えたい』という思いを落とし込んだデザインになっています。
当初は、社内で何度も見慣れている青と緑のカラーをあしらった商品だったので、『本当に売れるのか?』という疑問の声もありました。
ですが、『最終的にはお客様の判断になる』と判断して販売したところ、通常ならお店で一日一足も売れるかもわからないソックスが、急に『目的買い』で購入されるようになるなど、反響の大きさを感じました」
瞬く間に人気となったラインソックスを含むソックス類は、累計約2200万足(2024年10月末時点)も販売されるほどの定番商品になっている。
◆季節性をとらえた商品ラインナップとデザインを重視
コンビニエンスウェアを購入する主な客層は40代の男性・女性とのことだが、今までコンビニで衣料品を買わなかったファッションに感度の高い若年層が増えており、新規層の開拓につながっているという。
加えて、デザイン以外の履き心地や品質の良さにも魅力を感じ、Tシャツや他のアイテムの購買も伸びていったそうだ。
コンビニエンスウェアの商品開発に関しては、素材の段階からデザイン、商品ラインナップまで、落合氏と密に連携しながら進めていると須貝さんは話す。
「Tシャツやソックス、タオル、スウェットなど、幅広い商品を作っていますが、単価の安い高いは関係なく、どの商品も全て同じ熱量でものづくりに取り組んでいます」
なかでも意識しているというのは、「コンビニビジネスとの親和性」と「アパレルとしてお客様が買いたくなるデザイン」だ。
「例えば、コンビニは夏にすごく売り上げが上がるため、その時期に向けてショートパンツを投入するなど、季節性をとらえた商品ラインナップを心がけています。
加えて、『 いい素材、いい技術、いいデザイン。』のコンセプト通り、高品質でありながら、シンプルで洗練されたデザインと機能性を重視し、日常使いの衣料品としても違和感なく取り入れられるようにこだわっています」
◆親会社・伊藤忠商事の存在が「コンビニでの衣料品販売」を下支え
現在、コンビニエンスウェアは全国のファミリーマート約16,200店舗で販売されている。これは、衣料品を取り扱う店舗の規模として国内最大級であり、コンビニだからこそ実現できる販売チャネルと言える。
その下支えをしているのが親会社の伊藤忠商事だ。
店舗への商品供給やコストを抑えた価格設定などは、まさに伊藤忠商事のサポートがあって実現できているわけである。
こうしたなか、コンビニエンスウェアは異業種とのコラボ商品も多く販売してきた。その選定基準には2つの軸があると須貝さんは説明する。
◆異業種コラボで意識する2つの選定基準
「1つ目はグローバルグランドとのコラボです。『コカ・コーラ』や『Netflix』といった著名なブランドとのコラボ商品は、コンビニエンスウェアへの信頼がないと実現しないわけです。
それを重ねることで、コンビニエンスウェアを知らない新たなお客様との接点を作るようにしています。
もうひとつは地域密着のブランドと取り組むことです。『FUJI ROCK FESTIVAL』(フジロック)は開催地の湯沢苗場に根付いたフェスで、2年連続でコラボ商品を販売しました。
フェス会場に出店したブースでは、多くのお客様にコラボ商品を手に取っていただくなど、非常に好評を得たコラボ事例となっています」
そのほか、地域に愛されるプロスポーツチームとのコラボも実施している。
プロ野球では広島東洋カープ(中国地方限定)や読売ジャイアンツ(東京限定)、福岡ソフトバンクホークス(九州限定)、プロバスケットボールでは琉球ゴールデンキングス(沖縄限定)など、地域限定のコラボ商品を販売することで、各チームのファンに向けた訴求を行っているのだ。
◆海外展開の初手として台湾に進出
ブランド立ち上げから順調な滑り出しを見せているコンビニエンスウェア。
直近では全身トータルコーディネートのバリエーションをさらに拡大させながら、季節性に合わせた商品展開をしていくそうだ。
「今は商品ラインナップを広げるフェーズですが、それを毎年ずっと広げ続けるからといえば、そうではないと思っています。どこかのタイミングで『売り場の広さとして最適な商品数』が分かる時がいずれ来るため、そのバランスを見極めながら商品開発に活かしていきたいですね」
そして今後は、海外にもコンビニエンスウェアを展開させていきたいと須貝さんは述べる。2024年11月からは台湾のファミリーマート約700店舗で販売を開始。
もともと台湾では親しみのあるコンビニだったのと、落合氏が手がけたファミリーマートを象徴するデザインが好まれたこともあり、出だしはものすごく好調だという。
ファミリーマートが見出したコンビニ発の衣料品は、どこまで快進撃を続けるのか。今後の動向にも注目していきたい。
<取材・文・撮影(人物)/古田島大介>
【古田島大介】
1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている