サントリーの「割って飲む」ドリンクが好調 「売れるのか?」と悩む上司を「タコパ」で説得

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2025年01月30日 08:21  ITmedia ビジネスオンライン

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タコパのワイワイした楽しさをイメージ(提供:ゲッティイメージズ)

 サントリー食品インターナショナルが手掛ける「おうちドリンクバー」シリーズが好調だ。おうちドリンクバーは炭酸水などで割って飲む濃縮タイプの飲料で、2024年4月に発売したところ、年内目標(4〜12月)の2倍強を売り上げた。多くの炭酸飲料を販売する中で、なぜ「割って飲む」というひと手間がかかるものを商品化したのか。ブランドマーケティング本部の宮内優洋氏に、開発の経緯を聞いた。


【画像】サントリー「おうちドリンクバー」(全7枚)


 おうちドリンクバーは、ファミリーレストランのドリンクバーのような作りたてのおいしさや楽しさを、家でも体験してほしいとの思いから誕生した。フレーバーは「POPメロンソーダ」「C.C.レモン」「デカビタC」の3種類を用意。炭酸水のほか、コーラや果汁飲料、牛乳など好きな飲み物で割ることで、自分好みの味を楽しめるとしている。


●コロナ禍で広がった濃縮タイプ飲料


 おうちドリンクーのような濃縮タイプの飲料が広まったきっかけは、コロナ禍だ。家でお酒を飲む際の割材や、在宅勤務中に気分転換するための飲み物として炭酸水の販売量が増加した。炭酸水が家庭で普及するにつれて、炭酸水で割るための濃縮タイプの飲料にも注目が集まり、無印良品のシロップやカルディのメロンソーダの素など人気商品も誕生した。


 宮内氏によると、サントリーの社内でも濃縮タイプの飲料を商品化したいというアイデアはコロナ以前からあったという。しかしいずれもアイデアベースにとどまり、なかなか商品化に結び付かなかった。コロナ禍によって濃縮タイプの需要が高まる中で、2023年初めに改めて商品化への検討を開始した。


●「タコパ」でしぶる上司を説得


 おうちドリンクバーのフレーバーは、「POPメロンソーダ」「C.C.レモン」「デカビタC」といずれも既存商品を踏襲している。おうちドリンクバー用に新しいフレーバーを開発するのではなく、既存商品を活用した理由について、宮内氏は「炭酸水で割って飲むという斬新さと、味への安心感のバランスをとる必要があったから」と説明する。


 「濃縮タイプの飲料は人気ですが、知名度はまだそれほど高くない商品です。消費者にとって、なじみのない商品を手に取ることは抵抗があります。その点、POPメロンソーダ、C.C.レモン、デカビタCの3種類はいずれもロングセラー商品で、ほとんどの人が一度は飲んだことがあるかと思います。ロングセラー商品のブランド力を生かし、おうちドリンクバーという新商品への抵抗を減らしたいと考えました」


 宮内氏がおうちドリンクバー商品化のアイデアを出したところ、上司を含め社内からは反対の声が大きかったという。当時、サントリーには「GREEN DA・KA・RA やさしい麦茶 濃縮タイプ」や「割るだけBOSS CAFE」といった、濃縮タイプのお茶やコーヒーが存在していた。にもかかわらず、なぜ反対されたのだろうか。理由は「手間」にあった。


 コーヒーやお茶の場合、飲むためには豆をひいたり、お湯を沸かして茶葉を入れたりという手間がかかる。濃縮タイプの商品はこうした手間を省く利点があった。しかし、おうちドリンクバーはその逆で、わざわざ炭酸水で割るという手間が発生する。すでに完成された炭酸飲料が売られている中で、飲むまでにひと手間かかるおうちドリンクバーは何がウリになるのか。上司からそう尋ねられたという。


 そこで宮内氏が例に出したのが「タコパ」、つまりたこ焼きパーティーだ。味のことを考えれば、専門店の商品を買う方がいい。しかし、家族や友人が集まってたこ焼き器を囲み、ワイワイしながら作ることは楽しい。「タコパを例に出し、おうちドリンクバーは『非合理的だけど情緒的』であるという点がウリであると何度も説明し、社内を説得しました」(宮内氏)


●100パターン近くのレシピを試飲


 開発の過程で最も苦労したのが、中味の設計だ。完成品として売られている炭酸飲料と、おうちドリンクバーは微妙にレシピが違うのだという。


 会社としては、飲む際におうちドリンクバー1:炭酸水4で割ることを推奨している。しかし、「甘いものが苦手だからかなり薄めに」「お風呂上りに飲みたいからさっぱり薄めに」「今日は疲れているから濃いめに」など、気分やシーンに合わせて飲みたい濃さは変わってしまう。「おうちドリンクバーに求められたのは、『濃い』『薄い』といった差があっても、例えばC.C.レモンの味の幅に収まるようにすることでした」(宮内氏)。


 また、炭酸水だけでなく、コーラや果汁飲料、牛乳などの飲み物で割ることが想定された。そこで、試作時には、さまざまな割材を用意し、とにかく割って飲んでを繰り返したという。


 開発当時、フレーバー候補は4種類あり、割る時の割合も1:4、1:3、1:6など複数を試す必要があった。割材は12パターン用意し、合計100回ほど味見した。レシピの設計には半年以上かけたという。


●若年層にもウケたおうちドリンクバー


 2024年9月に「デカビタC」を発売した際は、プロモーションに人気TikToker4人を起用。「おうちドリンクバー#原液実験」と題し、それぞれが、おうちドリンクバーを使ったオリジナルドリンクを作るプロジェクトを展開した。


 また、おうちドリンクバーの公式Instagramでは炭酸で割る以外にも、牛乳で割った「レモンラッシー」「メロンミルク」、お酒で割った「C.C.レモンサワー」「デカビタハイボール」、温かいドリンクとして「C.C.レモネード」などアレンジレシピを紹介している。こうしたSNS施策の強化もあり、メイン購買層である30〜40代に加えて、若年層の獲得も進んでいるという。


 サントリーの推計によると、2024年の濃縮飲料全体の市場規模は2021年比で約1.3倍に拡大したという。宮内氏は今後の濃縮飲料市場について「まだまだ伸びる」と分析している。


 「おうちドリンクバーは、濃さを自分で調整できます。子どものころは甘い炭酸飲料が好きだったけれど、大人になるにつれて甘すぎて苦手になった人も多いのでは。そうした人も、おうちドリンクバーならば自分好みの濃さや味で、甘い炭酸飲料で楽しんでいただけます」(宮内氏)。「割って飲む」というひと手間を提供することで、炭酸飲料の新しい選択肢となったおうちドリンクバー。サントリーの新たな定番商品として市場に定着するか、注目だ。



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