「風呂は固定」が常識だよね? それでもリクシルが“片付けられる浴槽”を開発した理由

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2025年02月22日 09:51  ITmedia ビジネスオンライン

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お風呂を着脱できる? リクシルが開発

 LIXIL(リクシル、品川区)が2024年11月26日の「いい風呂の日」に販売した、新発想の浴室空間「bathtope(バストープ)」がSNSで話題になっている。


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 単身世帯の増加や共働きなどに伴う入浴スタイルの変化をとらえて開発した商品で、シャワールームとバスルームを自由に切り替えられるのが最大の特徴だ。浴槽単体ではなく、浴室空間として販売され、ラインアップはデザインや機能性が異なる3タイプ(114万2300円〜、工事費込み)となる。


 壁・天井・床が一体化しているユニットバスで、空間自体のサイズは従来と同様だが、浴槽を長辺に配置することで従来の浴槽よりも足を伸ばしやすいという。布ならではの頭や体がフィットするような入浴の感覚や、5色のカラーバリエーションから選べる点も同商品ならでは。


 チャレンジングな試みだったが、販売後、SNSで10万以上のいいねが付いたり、多くのメディアで紹介されたりと想定以上の反響があった。国内外からの問い合わせも相次いだ。


 バストープが誕生した経緯や開発の舞台裏、反響をリクシル 浴室商品部 商品市場戦略グループの金子菜奈子氏に取材した。


●浴槽が“着脱”できる新発想の浴室


 バストープの特徴は主に3点ある。1つ目は、布製の着脱可能な浴槽を採用し、用途に応じてシャワールームとバスルームを柔軟に切り替えられること。浴槽の取り付けは、浴室に備えられた4カ所のフックに本体の輪っか部分を引っかけるだけと容易だ。


 使用後は、排水口からお湯を流し、中性洗剤とスポンジで洗った後、浴室内の乾燥機能または野外の陰干しで乾燥させる。ひと手間はかかるが、見えない部分の汚れが発生しづらく、通常の浴室よりも清潔に保ちやすいそうだ。


 2つ目は、空間の使い方を工夫することで、間取りの自由度が上がり、浴槽の窮屈さを解消できること。浴槽を長辺に配置することで浴室を効率的に使えるため、洗面所やランドリールームを広めに取ることが可能だ。また、比較的長身でも足を曲げずに入れるため窮屈さを感じにくいという。


 3つ目は、サステナビリティに配慮していること。従来のユニットバスの浴槽だと約190リットルのお湯を使うが、ハンモックのような形状のバストープは140リットルで済むため約26%の節水になる。浴槽の素材は主にポリエステルとポリウレタンで、処分する際も分別しやすいそうだ。


 ラインアップは、デザインや機能が異なるEタイプ(114万2300円〜)、Sタイプ(148万4200円〜)、Gタイプ(2025年春以降に発売予定、価格未定)の3つで、浴槽単体ではなく浴室空間としての販売となる。保証期間は1年間で、浴槽は消耗品扱いとなる。使用頻度によるが数年ほどで買い替えが必要となり、バストープの購入者は浴槽単体でも購入可能だ。


 浴室空間での販売としているのは、安全性担保のためだ。浴槽には140リットルの水の重みに人の重さが加わるため相当な荷重がかかる。それを壁裏に配置したフレームで支えている。耐荷重は100キロとなる。


●開発では浴槽の「水漏れ」に苦戦


 新発想の商品が誕生した背景には、2021年から実施されている社内のアイデアコンペがある。浴室部門のデザイナー3人がバストープの企画を立案し、そのコンペで最優秀賞を受賞した。


 「単身や少人数世帯が増えるなかで、住宅のあり方も変わってきています。当社が実施した入浴にまつわる調査では、56%の方が浴槽浴とシャワー浴を切り替えると回答しており、入浴スタイルに合わせて浴室空間も切り替えられたら利便性が高まると考えました」


 そこで、単身世帯、共働きの夫婦やカップル、少人数の家族に加え、新しいものが好きな人や感度が高いイノベーターをターゲットに設定し、開発を進めることにした。


 2年半ほどの開発期間を経て、トイレ、お風呂、洗面などの水まわり・タイルの国内事業が100周年を迎えた2024年に、「新たな浴室空間の提案」として販売にいたったという。「開発は苦労が多かった」と金子氏は振り返る。


 「当初は、機械式の折りたたみ浴槽なども検討しましたが、最終的に『折りたためる布の浴槽』にたどり着きました。コロナ禍を経て、自然回帰やサステナブル、ウェルビーイングを追求する傾向が高まっていて、そうした背景から、モノを包むだけでなくバッグにもなる風呂敷や1枚の布からつくられる着物、1枚の紙を折りたたんで変化させる折り紙などにインスピレーションを受けたんです」


 リクシルには布の知見がなかったため、布を使って浴槽の形状をつくるところが最大の難関だった。布を縫い合わせてサンプルをつくったところ、縫い目から水が漏れてしまうことが判明。さまざまな種類の布を試したがうまくいかず、試行錯誤した。


 「どうしたら縫い目を最小限に抑えられるだろうかと考え、蝶(チョウ)のようなカタチに布を裁断することに。合わせ目は熱溶着をメインにして縫い目を一部にとどめたところ、漏れを回避することに成功しました」


●海外からも問い合わせ続々


 11月26日の販売が決まった後は、10月1日にプレスリリースで発表し、10月18〜27日に開催されたデザイン&アートフェスティバル「DESIGNART TOKYO 2024」に出展した。SNS投稿に加え、イベントにテレビやWeb媒体などの取材が入ったことで情報が広く知れ渡り、想定以上の反響があったという。


 例えば、TikTokではリクシルが投稿した動画に10万以上のいいねと1000以上のコメントが付いた。コメントには「サウナの水風呂に良さそう」「用途使い分けでペットにいいかも。あとは反抗期の娘のために『お父さん専用』とか」「災害時の貯水槽にもなりそう」など、用途に言及する声が多くあった。


 一方で、浴槽だけを販売する商品だと勘違いしたことによる「強度」への懸念も。「野外で使えそう」という声も多くあったが、壁裏のフレームで荷重を担保しているので野外での使用は難しい。デメリットである「保温性が弱い」「浴槽が数年しかもたない」といった点を指摘する声も見られた。


 国境を越えて海外からも興味関心が寄せられた。TikTokには外国語のコメントがズラッと並び、アイデアへの驚きや使い方への疑問のほか、「今すぐほしい」という声も。


 「海外からの問い合わせも相当数あります。『購入したい』という方もいるのですが、浴槽の単品販売は現状不可能であり、工事も現状は国内のみなので、お断りするしかなくて……。これほどの反響をいただいているので、広く販売できるような別の仕様も考えていきたいですね」


 国内では納品事例もあるが、現地調査が必要な商品であり、まだ検討中の人が多い状況だ。これまでのところ、内装にこだわりを持つ賃貸物件のオーナーやリフォーム事業を展開する工務店、リゾートホテルなどから問い合わせが多いという。


●課題は「入浴体験」の提供


 今後の戦略について、金子氏は「体験できる場所をつくりたい」と語る。


 「バストープはオンラインでも購入できますが、最も安いタイプでも100万円以上するのでネットではハードルが高いですよね。購入を後押しするには体験が重要ですが、現状は一般消費者向けの施設はご用意できていません」


 布の浴槽ならではの入り心地を伝えるには、やはり体験が重要なポイントとなる。今回、メディアや事業者向けの施設で体験したところ、ハンモックのように頭や体を預けられる感覚を理解できた。


 ホテルなどへの導入や一般消費者向けの体験施設の設置が理想だが、都心のホテルは稼働率が高く、すぐに工事を進めるのは難しいという。


 「できるだけ早めに体験できる場所をつくりたいのですが、まずは購入事例を集めて検討中の方にアプローチしたいなと。バストープは完成された100点の商品ではなく、80点ぐらいの商品なので、消費者の方の要望を受けて成長していく余白があると思います。浴槽単体での販売可能性や空間活用のさらなる価値を追求していきます」


 販売から約3カ月が経過し、次の発展に向けて動き出しているバストープ。世界的に販売できるようになれば、日本発のユニークなヒット商品になるかもしれない。


(小林香織)



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  • なかなかいいと思うが、ひっかかって転倒とか、危険はある。
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