写真を手に取り、インタビューに応じる医師の内田恵一さん=2月26日、三重県四日市市 ベトナム戦争終結から30日で半世紀。米軍が散布した枯れ葉剤の影響とみられる結合双生児「ベトちゃん・ドクちゃん」の弟グエン・ドクさん(44)の機能回復手術は、30年前に日本で行われた。担当した内田恵一医師(59)は「ドクちゃんには素晴らしい人生を送ってほしい」と話す。
1988年にベトナムで分離手術を受けたドクさんは94年6月、人工肛門を取り外す手術が可能か調べるため三重大病院(津市)を受診した。手術は同病院で翌95年7月に行われ成功した。
主治医の一人だった内田さんは、ドクさんの入院中は毎日3回様子を見に行った。当時14歳のドクさんについて「病院内の廊下を松葉づえでぴょんぴょん跳ぶ姿が印象的。人に対するまなざしが優しかった」と第一印象を振り返る。
手術後は、本人の希望でゴーカートに乗るため三重県鈴鹿市の鈴鹿サーキットに連れて行った。内田さんは「片脚で運転し、喜んでいた」と懐かしむ。
帰国直前、ドクさんが「おなかが痛い」と訴えた。ただ、検査結果は「異常なし」。内田さんが「鈴鹿サーキットもう1回行く?」と聞くと、ドクさんは「行く!」と即答し、2回目も同行した。2人で観覧車に乗ったといい、「いろいろなことに興味を示し、普通の思春期の子だった」と話す。
交流は帰国後も続き、96年には来日したドクさんを自宅に招き、当時2歳の娘と遊んでもらったという。ドクさんが直筆の手紙を送ってきたこともあり、2006年に結婚したドクさんに子どもが生まれると、妻や双子の子どもと写った写真も送られてきた。
内田さんはドクさんの手術をきっかけに、枯れ葉剤の影響やベトナム戦争について学ぶようになった。これまで20年以上にわたり、医学部生を対象とした講義でドクさんの手術に携わった経験を語り続けている。
あの手術から30年。内田さんは「小児外科医として、ドクちゃんが元気に過ごしていることはうれしい」と話し、ドクさんの活躍をきょうも日本から見守る。

患者だったドクさんから内田恵一さんに送られた手紙=2月26日、三重県四日市市

インタビューに応じる医師の内田恵一さん=2月26日、三重県四日市市

インタビューに応じる医師の内田恵一さん=2月26日、三重県四日市市