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病原体に対するワクチンを開発しているバイオテクノロジー企業の米Centivaxなどに所属する研究者らが発表した論文「Snake venom protection by a cocktail of varespladib and broadly neutralizing human antibodies」は、18年間もさまざまなヘビ毒を摂取してきた男性から作った万能抗体の成果を示した研究報告だ。
世界中では毒ヘビにかまれることで年間10万人以上の死亡と30万人以上の永久的障害が起こっている。従来の抗毒素は特定のヘビ種やその近縁種にしか効果がなく、600種もある毒ヘビのほとんどには対応する抗毒素がない。また医師がヘビの種類を正確に特定することは難しく、動物血清から作られる抗毒素は重いアレルギー反応(アナフィラキシーや血清病のリスクなど)を起こすこともある。
この研究の鍵となったのは、18年間にわたり856回ものヘビの毒を注射し続けてきた男性の存在である。この人物はさまざまな種類のヘビ毒を自分に注射し続けてきた。研究チームはこの人物から血液サンプルを採取し、抗体を単離した。
単離した抗体は2種類(LNX-D09とSNX-B03)あり、これら抗体は神経毒素の標的となる「ニコチン性アセチルコリン受容体」との結合を防ぐことで毒素を無効化する。研究チームはこれらの抗体に別の毒素阻害剤を加えた3成分カクテルを開発した。
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マウス実験では、このカクテルが医学的に重要な19種類のヘビ毒に対して効果を示した。ブラックマンバ、キングコブラ、ケープコブラ、インドコブラなど10種には完全な保護効果があり、残りの9種(ロシアコブラ、ジャワスピッティングコブラなど)でも生存時間を3.7〜10.5倍に延長した。対象となったヘビはアフリカ、アジア、オーストラリア、北米など広範な地域に分布している。
さらに、このカクテルは毒素投与から10分後に投与しても効果があり、現実の救急処置に近い条件でも機能することを示した。
完全にヒト由来の抗体を使用することで、アレルギー反応のリスクがなく、効果も数週間持続するという利点もある。従来の抗毒素は効果が数時間しか続かないため、頻繁な投与が必要だった。
Source and Image Credits: Glanville et al., Snake venom protection by a cocktail of varespladib and broadly neutralizing human antibodies, Cell(2025), https://doi.org/10.1016/j.cell.2025.03.050
※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2
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