ハーゲンダッツ、“まさか”の伸び悩み? 打開策で注目する「差し入れ文化」

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2025年05月30日 06:01  ITmedia ビジネスオンライン

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日本で圧倒的に支持されているハーゲンダッツ

 ハーゲンダッツといえば、日本ではプレミアムアイスの象徴的存在で、スーパーやコンビニなどのアイスクリーム売り場で必ず見かけるブランドです。日本での売り上げは年間で500億円を超え、1ブランドだけの商品としては非常に大きな規模です。一方で、最近は売り上げが伸び悩んでいるようです。


【画像】ハーゲンダッツの競合商品や「差し入れ」キャンペーンなど(計4枚)


 ハーゲンダッツの強さの秘訣と今後の展望について、流通小売り・サービス業のコンサルティングを30年以上続けてきているムガマエ代表の岩崎剛幸が分析していきます。


●以前の「高級アイス」といえば、レディーボーデンだった


 日経BPコンサルティングが実施している「ブランド・ジャパン2025」の企業ブランド総合力ランキング(一般生活者編)で、ハーゲンダッツは12位にランクインしています。カップヌードル、スターバックスよりも上位に評価されました。


 今では国内で販売しているプレミアムアイスの代表的ブランドであるハーゲンダッツですが、実は、先行していた別のプレミアムアイスとの競争に勝って、作り上げてきた歴史があります。


 以前、日本でのプレミアムアイスといえば「レディーボーデン」でした。1857年に米国で誕生し、日本に上陸したのは1971年です。筆者が子どもだった1970年代、大容量アイスを銘打つパッケージのデザインは斬新で、味が濃い。レストランで出てくるようなアイスが家で食べられる、それまでにない価値のある商品でした。


 その後、日本に登場してきたのがハーゲンダッツです。創始者の「高品質な素材を使った今までにない究極のアイスクリームを作りたい」という考えの下で生まれたブランドとして1961年、米国・ニューヨークで誕生しました。


 日本に上陸したのは1984年。当初は大きなパイントサイズを売っていましたが、1985年に「ミニカップ」サイズを発売しています。この商品が日本市場向けの「1人で食べきれるサイズ」として支持を得ていきました。


 ミニカップがきっかけとなり、レディーボーデンとハーゲンダッツの立場は徐々に逆転していきます。今となってはミニサイズの食べきりサイズはハーゲンダッツの独擅場となりました。コンビニでは超定番商品で、アイス什器には必ずハーゲンダッツが最も手に取りやすい端をキープしています。


ハーゲンダッツが「プレミアム感」を醸成できたワケ


 ハーゲンダッツは1984年11月、青山に直営店1号店を出店しています。連日、行列が絶えないほどの人気店だったそうです。1980〜90年代前半までのハーゲンダッツは直営店が主力チャネルで、店で商品を体験してもらい、ファンを作ることに注力しました。これが同社のブランドづくりに大きな優位性をもたらしました。「そこに行かないと買えない」という価値を作り、特別な一品というブランドイメージを定着させたのです。


●カギを握るのが「6割」のライト層


 ハーゲンダッツ ジャパンの歴史をひも解くと「日本初」や「日本市場向け」「日本で開発」などの言葉が多く見られます。それを支えたのは1995年に設立した日本市場向けのR&Dセンターです。ここでは日本市場攻略を考え抜いた商品を開発しており、中には世界的なヒットにつながった事例もあります。


 例えば、1996年に発売した「グリーンティー」は、その一つです。現在は日本を含め、世界11カ国で販売されるまでに拡大しています。2001年発売のクリスピーサンドも、日本発の商品です。開発に7年をかけて、現在では世界4カ国で販売されています。この他、牛乳の代わりに豆乳を使用した商品で世界的な健康志向に対応するといった取り組みも、日本から始まっています。


 このようにして、毎月1〜2個の商品を発売し、2025年も1〜5月に10商品以上を発売しました。このスピード感で作れるのは、世界に3カ国しかないハーゲンダッツ工場の一つが群馬県高崎市にあるからです(製造委託工場が愛媛県にもあります)。近くに生産をコントロールできる拠点があるからこそ、日本独自のフレーバーの季節限定品や期間限定品を多く作れるのです。


 ハーゲンダッツ ジャパンによると「1年間に6回以上購入するヘビー層が全体の2割、年間に2〜5回買うライト層が4割、直近1年間ハーゲンダッツから遠ざかっている(未購入客や離反客も含めた)新規層が4割という構成」で顧客を捉えているそうです。ライト層と新規層が6割を占め、そうした層を振り向かせるためには、季節感や話題性などの限定感、何らかの購入意欲を掻き立てるような特別なメッセージ、購買意欲をそそるパッケージデザインなどのモチベーションマーケティングが必要となります。R&Dセンターが徹底的に調査し、日本市場にあわせた迅速な商品開発によって売り上げを作ってきたのが同社の最大の強みといえるでしょう。


●なぜアイス市場は好調なのに、ハーゲンダッツは伸び悩んでいるのか


 ハーゲンダッツ ジャパンが国内売り上げ100億円を突破したのは、日本進出から6年後です。さらに9年後に200億円、12年後に300億円と良いペースで売り上げを伸ばしましたが、その後は徐々に伸びが鈍化しています。2017年に527億円という過去最高売り上げを達成し、さらに伸び続けるかと思われましたが、その後は520億円前後を行き来しています。2024年の売り上げは528億円という結果でした。当期純利益は12%以上と非常に高い利益率なので経営数値的には申し分ないのですが、もっと売り上げが伸びていてもいいのでは、と感じないこともありません。


 というのも、日本のアイスクリーム市場は成長しているからです。2024年の市場規模は前年比で109.9%、アイスクリーム消費支出金額も同106.1%です。食料品における年間支出金額の伸びを上回っています。一方、ハーゲンダッツの2024年売り上げは前年比で102.1%ですから、市場の伸びに比べて物足りないと言わざるを得ません。


 なぜなのでしょうか。筆者が思うに、これはハーゲンダッツが長らく築いてきた「ごほうび消費の代表的商品」というブランド価値だけでは、消費者の心をつかみにくくなってきたのが原因ではないでしょうか。


 コンビニ各社のプライベートブランド商品だけでなく、国内外メーカーから多数のプレミアムアイスクリームが発売されています。海外発の専門店も日本で増えており、自分へのごほうびは今やさまざまな商品アイテムへと拡大。ごほうびとしてのプレミアムアイスの価値が下がってきたことも影響していると筆者は分析しています。


●ハーゲンダッツが新たに注目した「日本ならでは」の文化とは


 農畜産業振興機構の「世界8か国のアイスクリーム消費動向および購買志向」調査によると、アイスを食べる理由で最多は「おいしいから」です。そして、「ちょっとした自分へのごほうびとして」「食後のデザートとして」が続いています。一方、日本では、おいしさやデザートとしてのニーズが他国と変わらないものの「自分へのごほうび」としてのニーズが各国の中で最も低い結果になっています。その代わり高いのが「おやつとして」でした。


 あくまでも一つの調査結果ではありますが、日本の消費者に対して、アイスをごほうびという特別な日のギフトから、もう少し身近なカジュアルギフトなんだというメッセージを伝えていくことが効果的かもしれません。


 ハーゲンダッツのメインターゲットは「F1層」と言われる20〜34歳の女性です。日本の世代別年間消費支出金額を見ると、29歳以下のアイスに対する消費金額は1万1430円(2024年)、前年比で103.6%と全世帯の平均(106.2%)を下回っています。メイン層が「ごほうび」だけでは動かなくなっているという一つの表れではないでしょうか。


 このような中で同社では、2025年から新しいキャンペーンをスタートしました。それが「#差し入れクリスピーサンド」です。年間を通じて20万個のクリスピーサンド「ザ・リッチキャラメル」を無料で配布する大規模プロジェクトです。


 「差し入れ」は日本人になじみのあるギフト習慣です。自分に対するごほうびではなく、お世話になっている人、何かを頑張っている人、何かに夢中になっている人の記憶に残るようなメッセージとして同社は「差し入れ」というキーワード設定をしたのです。これは新しいモチベーション訴求として有効に働くかもしれません。


 特筆すべき点として、特別感を売りにしているものの、そのメッセージが自分に対してではなく他者に向いている点が挙げられます。差し入れならば、複数人分を購入することになるので、販売点数が増える可能性もあります。アイスクリーム購入層が40代以上の年齢層で活発である点を考えても、自分へのごほうびはしなくても誰かへの差し入れはする可能性が高まります。40代以上は、仕事でお世話になっている取引先や会社の上司、同僚、部下だけでなく、スポーツをがんばっている仲間など、付き合う人の幅が広く、差し入れの機会も多いからです。


 ハーゲンダッツ ジャパンが今後も売り上げを伸ばし続けるためには、日本の消費者の意識変化をつぶさに観察して、それにきめ細かく対応するモチベーションマーケティングが必須です。しばらくは差し入れというメッセージが消費者に届くのか、その動向を見守りたいと思います。


(岩崎 剛幸)



このニュースに関するつぶやき

  • 今の気候ではアイスはすぐ溶けちゃうから、冬しか差し入れ出来ない…でも冬にアイス食べるなら断然自宅で食べたいから、やっぱ差し入れには使えないんだよなぁ�⤦������ᤷ�����
    • イイネ!13
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