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2025年4月公開の映画『マインクラフト/ザ・ムービー』が、世界で記録的な興行成績を収めている。
【写真3枚】映画で描かれる超リアルな「ドット」の世界(公式Xアカウントから)
全世界興行収入は9億ドルを超えて今年最大のヒット作となっており、日本でも公開4週目で興行収入30億円、観客動員数230万人を突破し、2025年公開の洋画作品では首位に立つ。ゴールデンウイーク期間の人気映画といえば『名探偵コナン』が圧倒的な地位を築いているが、その環境下での健闘は特筆に値する。欧州発のゲームを原作とする映画がなぜ日本でこれほど受け入れられているのか、考察したい。
●世界的人気ゲーム「マインクラフト」とは何か
『マインクラフト』(以降:マイクラ)はスウェーデン発のゲームで、累計販売本数が世界で3億本を超える「史上最も売れたゲーム」として知られている。
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2011年の正式版リリース後、マルチプラットフォーム展開により世界中にプレイヤーを生み出した。マイクラは仮想空間において立方体ブロックを用い思いのままに建築や冒険を楽しむことができるゲームであり、その自由度の高さと創造性を発揮しやすいゲーム性により子どもから大人まで幅広い層に支持されている。
2014年には「世界で最も売れたインディーズゲーム」としてギネス世界記録にも認定された他、教育現場でプログラミング教材に使われるなど、ゲームの枠を超えさまざまな場面に活用されている。
『マインクラフト/ザ・ムービー』は、このブロックで何でも作れる世界観を実写映像で再現し、その中で繰り広げられる冒険譚を描いた作品である。物語は、現実世界の登場人物たちが謎のキューブに触れたことでマイクラの世界「マイクラワールド」へと転送されるところから始まる。
全てが四角い異世界「マイクラワールド」に迷い込んだ主人公たちが創造力を駆使してゲームでおなじみの敵に立ち向かうストーリーであり、日本のアニメや小説で人気の「異世界転生」(現実から異世界へ転移する物語)モノに近似しており、国内の観客にも親しみやすい内容となっている。実写映画のカテゴリーに限れば、1990年代の名作『ジュマンジ』に近い背景、内容だ。
近年、従来のハリウッド実写映画が日本市場で苦戦する一方で、なぜ『マインクラフト ザ・ムービー』はここまで成功したのだろうか。
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●ファミリー層からの信頼
一つがファミリー層の獲得である。ゲーム原作映画としては、過去に任天堂のスーパーマリオシリーズを原作とした映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』もファミリー層を核として世界的ヒットを収めており、本作もその流れを受け継いだ。
子どもだけでなく親世代も楽しめる作品に仕上がっている点が大きな強みである。1980年代〜2000年代の幼少期にゲームに親しんだ世代が親となりファミリーを形成し始めており、親子で一緒にゲームを楽しむ、ゲーム発祥のコンテンツを楽しむといった生活習慣が形成されていると考えられる。
任天堂も『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』製作時には子供のみならず親世代も楽しめることを重視したとのコメントもある。何より、親世代が「ゲーム由来のコンテンツ」に対する親近感を持っていることが最たる理由だろう。
●ゲーム:マインクラフトが日本で浸透した背景
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マイクラ自体が老若男女問わず人気のゲームであり、その裾野の広さが映画の観客層の広がりに直結している。ゲームの要素をふんだんに盛り込み、かつ初見でも楽しめる冒険劇まで用意され、コア層とライト層の双方を取り込む内容となっていることが映画がヒットした要因の一つである。ではなぜゲーム:マイクラがここまで日本の、特に子ども世代にまで受け入れられたのか。
●普遍の魅力を持つ玩具「ブロック」
子ども向けの玩具といえば「ブロック」である。LEGOが代表例であるが、物理的な玩具としては時代が変遷しても変わらず人気を博し、子どもの創造性を刺激するプロダクトである。
マインクラフトはまさにブロック遊びをデジタル空間で行うゲームである。ご存じのように「ブロック遊び」は単にブロックを組み合わせるだけでなく多種多様な遊びに発展する。オリジナルの構造物や生物を作る、現実世界の構造物や生物を再現する、作り出した世界観の中でごっこ遊びをする、オリジナルストーリーを展開するなど、子どもの想像力・創造力とあわせて無限の広がりを生む。
その普遍的な魅力を持つ「ブロック遊び」を現代の生活環境、子どもの娯楽環境にあわせてデジタル空間で行えるのがマイクラである。
●子ども向けYouTubeでの圧倒的人気
良いプロダクト、良いゲームであることだけでは昨今の市場環境で子ども世代を獲得するには不十分である。日本、そして世界で子ども世代に浸透した要因の一つとして、マイクラを活用した子供向けYouTubeチャンネルの増加が挙げられる。
世界、そして日本の子ども世代向けYouTuberランキングにはマインクラフト実況を主力コンテンツとするチャンネルが上位に位置付けられている。多くの子どもたちが日常的にマイクラ動画を視聴しており、ゲームを持っていなくても世界観や遊び方を理解できる。
そのうち一定数は自分の環境でまねて遊ぶ。子ども世代へコンテンツを浸透させる重要要素の一つ、「遊び方の例」をYouTubeを通じていつでも見られることが大きな要因といえる。
そのような“YouTubeネイティブ世代”の子どもにとって、本映画は大好きなコンテンツがスクリーンで展開する夢のような機会だ。かつてマリオシリーズを楽しんだ大人にとっての『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』のようにである。
加えて、映画公開直前には公式の特別映像や劇中歌がSNSで拡散されるなど、デジタル世代に届くプロモーションも成功した。YouTubeやSNSで育まれたマイクラ熱が、そのまま映画館への動員につながったと考えられる。
●日本のコンテンツトレンドとの親和性
前述の通り、映画の設定には現実世界からゲーム世界への転移という異世界ファンタジーの構図があり、これは日本のアニメや漫画、ライトノベルで人気のジャンルと重なる。主人公たちがゲームの中で能力を獲得し成長する展開は、漫画やゲームの王道的展開であることに加え、いわゆる「異世界転生もの」を彷彿(ほうふつ)させ、日本の若年層観客にも受け入れられやすい。
また、劇中ではドット絵風の道具をクラフトする、それを用いて敵と戦うなどRPG的な冒険要素も描かれ、ゲームに親しんだ観客の琴線に触れる要素も多分に含まれている。ハリウッド実写映画でありながら、日本の流行する物語要素との親和性が高かったことが、成功を収めた一因と考えられる。
以上のように『マインクラフト ザ・ムービー』の成功にはファミリー層の取り込みとゲーム発の強力なブランド力、そしてデジタル時代の視聴習慣や物語嗜好への適応が大きく寄与したと考えられる。実写映画全般が伸び悩む中で、本作はこれら複合的な要因によって観客の支持を集めたといえる。
●広がるゲーム原作映画への期待
『マインクラフト ザ・ムービー』の大成功は、映画業界にゲーム原作映画への期待感を一段と高めることだろう。繰り返しとなるが、2023年公開のアニメ映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は全世界興行収入で13億ドル超のメガヒットを記録し、日本でも洋画興収1位に輝くなど、ゲームIPの映像化がビジネス的に大きな成果を上げている。任天堂は2026年4月に『スーパーマリオ』の映画新作を米国公開予定と発表しており、ゲーム原作映画を新たな柱、そして自社コンテンツへの入口とすべく積極的な展開を進めている。
さらにゲーム世代が親となったことで世代をまたいで支持されるIPが増えている点も追い風だ。先に記したように、1980年代から2000年代にゲームを遊んで育った世代が今は消費の中心層となり、自分の子どもと一緒にゲーム原作の映画を楽しむ文化が根付きつつある。
直近の注目は任天堂が『スーパーマリオ』に続き制作を表明している『ゼルダの伝説』の実写映画だ。任天堂は『ゼルダの伝説』実写映画を2027年3月26日に全世界同時公開すると公式に明言している。任天堂で「マリオシリーズ」など数々のゲームの生みの親となった宮本茂氏自らプロデューサーとして参加する大型プロジェクトだ。『マインクラフト』『マリオ』に続くゲーム映画の超大作として、世界中のファンやビジネス関係者から大きな期待が寄せられている。
『マインクラフト ザ・ムービー』の日本市場での成功は、海外発のコンテンツであっても、コンテンツ特性とターゲティングが合致すれば、実写・アニメを問わず観客を動員できることを示した。ビジネス面、そしてクリエイティブ面双方において、ゲーム原作映画の今後に明るい展望を感じさせる。
●著者プロフィール:滑 健作(なめら けんさく)
株式会社野村総合研究所にて情報通信産業・サービス産業・コンテンツ産業を対象とした事業戦略・マーケティング戦略立案および実行支援に従事。
またプロスポーツ・漫画・アニメ・ゲーム・映画など各種エンタテイメント産業に関する講演実績を持つ。
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