「dアカウントだけは勘弁」 ドコモによる住信SBIネット銀行買収に広がる不安の声

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2025年06月06日 08:21  ITmedia ビジネスオンライン

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ドコモ×SBIの買収劇

 「dアカウントと連携必須になったら即解約する」――NTTドコモによる住信SBIネット銀行の買収発表から一夜明け、SNS上には既存ユーザーの悲鳴があふれていた。


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 約2400億円で優良ネット銀行を手に入れたドコモだが、足元では銀行口座から不正引き出しが相次いだ「ドコモ口座事件」の記憶も生々しい中、1000万人を超える既存顧客の不安をどう払拭するのか。金融経済圏の覇権を巡る戦いで、周回遅れのドコモが仕掛けた大型買収の行方を、ユーザーの生の声から探る。


 NTTドコモは5月29日、住信SBIネット銀行を約2400億円で買収すると発表した。11月頃の統合完了を目指すが、発表直後からSNS上では既存ユーザーの不安の声が広がっている。


●dアカウント問題とUI/UX


 買収発表直後から相次いだのは、ドコモのアカウント管理システムへの強い不信感だった。


 「ログインできない、パスワードがリセットできない、あのdアカウントの悪夢がまた」「楽天銀行みたいにゴチャゴチャした画面になるのは勘弁」――SNSのXには、ドコモのシステムへの懸念が相次いだ。


 dアカウントは、ドコモユーザーの間では「ログインしようとすると無限ループに陥る」「パスワードを忘れるとリセットが異常に困難」「二段階認証のSMSが届かない」など、数々のトラブルで知られている。金融サービスという重要な場面で、このような認証システムと連携することへの不安は大きい。


 実際、5月29日の会見でもこの問題は避けて通れなかった。記者から「dアカウントはログインができなかったり、使い勝手が悪い」と指摘されると、NTTドコモの前田義晃社長は「現在もかなり多くの指摘をいただいており、改善を進めている」と認めた上で、「これがボトルネックにならないように、しっかり取り組む」と約束した。


 住信SBIネット銀行のアプリは、ネット銀行の中でも使いやすさで定評がある。シンプルで直感的な操作性、高速な動作、洗練されたデザインが特徴だ。前田社長も「住信SBIネット銀行のUI/UXは素晴らしい。その良さをわれわれのサービスに反映させていく」と評価する。


 しかし、ドコモの9141万という巨大な顧客基盤に合わせてサービスを「最適化」することで、現在の使い勝手が損なわれるのではないか――そんな不安が利用者の間で広がっているわけだ。


 さらに、ユーザーが住信SBIネット銀行を選んだ理由として「大手キャリアと無関係の独立系だから」という声も少なくない。ドコモ傘下になることで、その独立性が失われることへの抵抗感は根強い。


●SBI証券との連携はどうなる


 2つ目のユーザーの不安は、SBI証券との関係だ。住信SBIネット銀行の大きな魅力の一つは、SBI証券との強力な連携にある。


 「SBIハイブリッド預金」は、銀行口座の残高がそのまま証券取引の買付余力となるサービスだ。わざわざ証券口座に入金する手間がなく、売却代金も自動的に銀行口座に反映される。この利便性が、多くの投資家を引きつけてきた。


 ところが、ドコモは2024年にマネックス証券を子会社化している。会見では、この利益相反とも言える状況に質問が集中した。


 「公平かつ公正に扱うということで双方が合意したとのことですが、株を持っているドコモ側としては行動を縛られるようにも聞こえます」――記者からの指摘に、北尾吉孝SBIホールディングス会長兼社長は「決めるのはお客さま。どちらのサービスが良いか判断すればいい」と答えた。


 前田社長も「SBI証券を利用されているお客さまがたくさんいらっしゃる。この方々が不便になることは、まずあり得ない」と断言し、既存の連携維持を約束した。


 住信SBIネット銀行の円山法昭社長は「SBI証券との提携関係は基本的に維持する。この強力なシナジー効果は今後も続けるということが、今回の枠組みで決まった最大のポイント」と強調した。


 しかし、ドコモがマネックス証券も推進していく立場にある以上、長期的にSBI証券との連携がどこまで優先されるかは不透明だ。


●ドコモ口座事件の影


 2020年9月に発覚した「ドコモ口座」不正引き出し事件は、いまだに多くの人々の記憶に残っている。


 第三者が他人の銀行口座から不正に預金を引き出す事件が相次ぎ、被害は120件以上、総額約2800万円に上った。ドコモ口座と連携していた地方銀行を中心に被害が拡大し、金融業界全体に衝撃を与えた。


 原因は本人確認の甘さだった。口座開設時にメールアドレスだけで登録でき、銀行口座との連携も口座番号と暗証番号だけで可能だったことが悪用された。事件後、ドコモは本人確認を強化し、eKYC(オンライン本人確認)の導入など対策を講じたが、「金融サービスを軽視していた」という批判は根強い。


 今回の買収発表後、SNS上では「あの事件を起こしたドコモが銀行を持つなんて」「セキュリティは本当に大丈夫なのか」という不安の声が相次いだ。


 セキュリティとユーザビリティは二律背反の関係にある。住信SBIネット銀行が評価されているのは、ユーザーにとって使いやすいまま、高いセキュリティを維持している点だ。有効性も怪しい複雑なセキュリティ対策をたくさん盛り込んだ結果、使いにくくなってしまっている大手金融機関は多い。


 逆に、ユーザー利便性を重視しすぎた結果セキュリティが甘くなってしまっているベンチャーもある。そのバランスを高い水準で実現しているのが現在の住信SBIネット銀行だ。他にさきがけてFIDO認証を導入し、振り込みなどの手続きにおいても生体認証だけで行える仕組みを構築した。


 ドコモ傘下になることで、こうしたバランスが崩れるのではないか――そんな懸念が広がる中、ドコモは金融経済圏の構築という大きな野望を掲げている。


 会見では具体的なセキュリティ強化策への言及はなかった。住信SBIネット銀行の円山社長は「高度なセキュリティ」を同行の強みとして挙げたが、統合後もその水準を維持できるか、ドコモの過去の失敗を踏まえた新たな対策があるのか。


●イノベーションは止まってしまうのか


 住信SBIネット銀行の強みは、既存の銀行概念を覆すイノベーションの連続にあった。


 同行のNEOBANK事業は、さまざまな企業に銀行機能を提供することで「あらゆる企業を銀行に変える」という革新的なビジネスモデルだ。現在、新規口座獲得の7割がこのNEOBANK経由となっており、T NEOBANK、ヤマダNEOBANK、おうちバンクなど、提携先は拡大を続けている。


 そして多くのユーザーが「コスパ最強」と評価するのが、同行のデビットカードサービスである。特に「プラチナデビット」は、7月から最大還元率2.5%という強力なサービスを開始する。さらに強力な空港ラウンジサービスである「プライオリティ・パス」が年3回まで利用可能という、年会費1万1000円で利用できるとは思えないほどの好条件だ。


 「このままサービス拡充が止まってしまうのではないか」「ドコモの意向で改悪されるのではないか」――SNS上では、こうした不安の声が絶えない。


 確かに、大企業の傘下に入ると、イノベーションのスピードが鈍化する例は枚挙にいとまがない。意思決定の階層が増え、リスクを取りづらくなり、既存顧客より親会社の意向が優先される――そんな懸念は杞憂(きゆう)とは言い切れない。


 ドコモとしては、自社のdカードとの関係もある。プラチナデビットの年会費1万1000円に対し、dカード GOLDは同じ年会費で別のサービスを提供している。この併存をどうマネージするのか。


 マネックス証券は確かにドコモの子会社となったが、上場するマネックスグループが過半の出資比率を持ち、一定の独立性を保っている。一方、住信SBIネット銀行は65.81%をドコモが保有し、上場廃止となる。独立性はかなり小さくなると考えていいだろう。


 円山社長は「さらなる利益成長」を約束したが、それが既存ユーザーへのサービス向上という形で還元されるのか、それとも株主であるドコモの利益として優先的に配分されるのか。


 住信SBIネット銀行が上場廃止後、「ただの子会社」になるのか、それとも独自の進化を続けられるのか――11月の統合完了後、真価が問われることになる。


(斎藤健二、金融・Fintechジャーナリスト)



このニュースに関するつぶやき

  • あんな使いづらいdアカウントとかウンコみたいなgooの運営やってる会社が、これからUIとか改善できるわけない
    • イイネ!2
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