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風営法の改正により、ホストクラブなどにおいて「⚪︎億円プレイヤー」「No.1」といった言葉を広告宣伝で使用することが2025年6月28日から規制されました。「No.1ホスト」の看板が消えた歌舞伎町で今、ホストたちは何を思うのか。ねとらぼ編集部が取材しました。
今回の改正内容は主に、接待飲食営業に関する規制強化(虚偽の料金説明、恋愛感情の悪用、注文前の提供、売春・性風俗等の強要)、スカウトバックの支払い、広告・宣伝に関する規制。
6月4日には「悪質ホストクラブ等に対する効果的な行政処分の実施について」と題した通達が警察庁から警視庁生活安全部長と各道府県警察本部長に送られたほか、6月6日には「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の一部を改正する法律の施行等について」との通達が警察庁から各地方機関の長、各都道府県警察の長宛に送付されるなど、本改正に対する警察の本気度はかなり高いことが伺えます。
そんな中ホストクラブ関係者を震撼させたのは6月4日付で警察庁が警視庁生活安全部長と各道府県警察本部長が通達した「接待飲食営業における広告及び宣伝の取扱いについて」という内容。
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関係者によるとホストクラブではこれまで、売り上げの金額を競う「売り上げ」、指名客の数を競う「指名本数」に対して店舗やグループ内でランキング制度を導入しており、成績上位者に対して表彰を行ったり、「幹部補佐」「主任」「支配人」「代表」といった役職を与えたりすることが一般的だったといいます。
しかしこういった状況について警察庁は、「広告物に接客従業者の容姿と共にその営業成績を直接的に示し、若しくは推認させ、又は接客従業者間の競争を強調する文言を表示することで、客には自身が好意の感情を抱く接客従業者の営業成績を向上させるために高額の遊興又は飲食をする意欲をそそらせるとともに、接客従業者には自身の営業成績を向上させるためには違法行為をもいとわない意識を醸成させるような状態が引き起こされることとなる」と説明。
警察庁はねとらぼ編集部の取材に対して「ランキング制度を元にホストクラブの店内やグループ内において順位づけすることは構わない。あくまでも規制対象は広告に限られる」とした上で、
・接客従業者の営業成績を直接的に示す文言の表示(「年間売上〇億円突破」「○億円プレイヤー」「指名数No.1」「億超え、「億男」など)・営業成績に応じた役職の名称等の営業成績が上位であることを推認させる文言の表示(「総支配人」「幹部補佐」「頂点」「winner」「覇者」「神」「レジェンド」「新人王」など)・「ランキング制」自体の存在、接客従業者間での優位性を裏付ける事実等の接客従業者間の競争を強調する文言の表示(「売上バトル」「カネ」「SNS総フォロワー数○万人」など)・客に対して自身が好意の感情を抱く接客従業者を応援すること等を過度にあおる文言の表示(「○○を推せ」「○○に溺れろ」など)
といった表現は、いずれも広告及び宣伝の規制違反に該当するとの見解を示しました。
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先駆けて事業者へ説明を行ったのは岐阜県警中警察署生活安全課で、解釈運用基準で示された文言が使用できなくなることを6月中旬ごろにイラストをつけて説明し、ホストクラブ関係者の間で情報が広まったといいます。岐阜県警の担当者は「法令の内容は理解や解釈が難しいと感じる方もいるので、国から示された具体例を元にシンプルに書いた資料を配った」とし、広告宣伝期間中になるべく事業者が気をつけてくれるように心がけているとしました。
また警視庁は6月20日に歌舞伎町のホストクラブ等に対して一斉立ち入りを実施。店の責任者に改正内容を説明したほか、違反が確認された店には指導を行いました。一方で立ち入りの際に配布された資料には広告に関する規制の説明がなかったことにより、情報が錯綜。
「6月25日ごろに、大手ホストクラブグループがLEDビジョンへの出稿停止を行ったり、歌舞伎町の象徴とも呼ばれる『ホスト看板(通称:ホスカン)』への黒塗り対応などを行い始めたりしたことを皮切りに、各店舗による広告剥がしや黒塗り対応が激化した」「風営法の改正が決定したタイミングで何度も警察に問い合わせたが、『詳細はわからない』『現場に情報が降りてきていない』と繰り返されている中、たった数日で全部是正しろは厳しすぎる」と関係者は話します。
こうした広告の規制対応に追われているのはホストクラブだけではなく、ナイトワーク関連の専門サイトも同様もです。ホストの紹介や求人を行うサイトにはホストクラブから「ナンバーを非表示にして欲しい」「この文言は大丈夫か」といった問い合わせが殺到しており、「スタッフ総出で徹夜での対応を行っている」との声も聞かれました。
今回の広告宣伝規制においては「キャッチコピー」の使用も制限されることとなりました。
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ホストジャーナリストとしてメディア出演歴もあり、独自の接客スタイルから「神様ホスト」の愛称で親しまれてきたCANDYS HEAVENの心之友也(こころのともや)さんは6月26日、自身が所属する店舗の「ナンバー」を記したプレートに黒いテープで目張りを行ったほか、店内で張り出されていた広告物などを一旦全て剥がす対応などを行いました。
ねとらぼ編集部は、風営法改正により「神様ホスト」というキャッチコピーを名乗れなくなった心之友也さんを取材しました。
──風営法改正を目前に、店舗ではどのような対応をしていますか。
友也:店舗としては、店舗自体、そしてキャストの雇用を守ることを最優先と考えております。今回の法改正の内容に何度も目を通し、一切の不備が無いよう確認作業に尽力しているところです。
──具体的な対応に動き始めたのはどのタイミングですか。
友也:風営法改正の内容が発表された時点で対応を始めました。通っていただいているお客様や勤務してくれているキャストも不安に感じることがたくさんあると思います。運営側が徹底的に対応していることと、正確な情報を都度共有していくことで、少しでも不安を取り除ければと考えております。
──神様ホストとして知られる友也さんですがキャッチコピーも廃止になりました。
友也:元々キャッチコピーは、少しでも多くの人に認知していただく為の手法に過ぎません。
ホストクラブの醍醐味は、接客によって楽しさやその人の居場所を提供することであるので、SNSでの表面的なブランディングではなく、本来の実力主義に原点回帰したと考えるようにしております。技術を磨かずにSNSによる営業法に特化していたホストにとっては、少し厳しい流れであるように感じます。
──広告の規制について特に厳しい内容となりましたが、スカウトバックの撤廃や無許可営業への罰則強化など、今回の規制内容についてどう思いましたか。
友也:もとより法律を犯した営業をしている場合は摘発されるべきなので、風営法改正に真摯に向き合った店舗だけが生き残り、悪徳店舗は摘発され、少しでも業界が浄化されるきっかけになればと思います。
「歌舞伎町の中だけでしか通用しないルール」のようなものが通用しなくなる新しい時代の到来です。
──ここ数年のホストクラブを取り巻く犯罪や社会問題についてどう感じていますか。
友也:業界内で犯罪などに加担している者は、ほんのひと握りの人たちです。
しかし、その人たちの行動一つで業界すべてが存続の危機に瀕しており、数万人が路頭に迷うこともあり得ます。経営層はもちろんこと、業界に携わっている1人ひとりが当事者意識を持ち、内部告発や第三者機関を設けてでも、違法行為を行う者を排除していくべきだと考えております。
──ホストクラブ文化を継続させるために、今必要なことは何だと思いますか。
友也:まずは、今回の風営法改正の内容の認知の徹底。それから、なぜこのような改正が行われたのかをホスト業界側がしっかりと受け止める姿勢を取るべきだと思います。
そして、今後は「被害者」のいない業界を作る意識を浸透させることを進め、長年続いた新宿の1つの歴史や文化を守るという共通認識を持ち従事していきます。
友也さんら店舗側が対応を行う中、歌舞伎町を中心に約160店舗が所属する日本最大のホストクラブ組合「日本ホストクラブ健全化推進協議会(JHCA)」でも連日、「それぞれが把握している情報を共有しあい、健全なホストクラブ運営のための活動が行われている。ホストクラブ文化を絶やさぬよう、より一層気を引き締めて法令遵守に務める」と理事の一人は話しました。
ドラマや映画にもよく登場し、近年は芸能人やインフルエンサーなどの限定出勤などでも話題にあがるホストクラブ。今後、その文化が続いていくのか、それとも更なる規制が進むのかはホストクラブ次第です。
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