『野原ひろし 昼メシの流儀』なぜ大ヒット?「共感の時代」にリアルな「おっさん主人公」が求められる理由

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2025年10月18日 13:00  リアルサウンド

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「おっさん主人公」が人気の漫画

 漫画『野原ひろし 昼メシの流儀』がアニメ化され、話題だ。


  『クレヨンしんちゃん』の父親・野原ひろしが、サラリーマンとしての昼食に情熱を注ぐというスピンオフ作である。「ひろしの真剣な顔がカッコいい」「ただのランチなのに泣ける」「仕事帰りに見ると沁みる」などなど、SNSではそんな共感の声が並び、2025年10月3日に放送が開始され、Xのトレンド入りも果たしている。


 この「しんちゃんの父ちゃんを主人公にする」という設定の背景には、ここ数年広がりつつある“おっさん主人公ブーム”がある。疲れを抱えながらも前を向く姿。日常に小さな誇りを見出す視点。それが、現代の読者にリアルな共感を与えている。


「おっさん主人公」の人気作

 ここ数年のヒット作を振り返ると、『片田舎のおっさん、剣聖になる』『異世界おじさん』『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』など、“おっさん”を主人公に据えた漫画が確実に存在感を増している。タイトルからして軽妙だが、いずれも中身は意外と真っすぐで熱い作品が多い。


 田舎の剣術師範が弟子を育てながら再び輝きを取り戻すという骨太でやや地味な印象の『片田舎のおっさん、剣聖になる』は、海外でもおっさんブームを巻き起こしている人気作だ。特にヨーロッパでは、「中年主人公の新鮮さ」「人間関係の機微の描き方」が称賛され、Amazon Prime Videoでは複数国でランキング上位に入った。若者ではなく、“経験を重ねた大人がもう一度立ち上がる物語”が、世代や国境を越えて支持を集めている。SNSでも「腰の低い主人公が渋い」「弟子との関係が尊い」といった声が寄せられ、剣聖というモチーフを通して、普遍的な「再生の物語」が語られている。


 『異世界おじさん』は、ゲーム実況力と異世界帰還というユニークな中年像が描かれている人気作だ。主人公は、異世界で17年を過ごした中年男性。現世に戻ったあと、彼はその経験を“ゲーム実況”として発信し、再び注目を浴びるようになる。彼の強みは、若者顔負けの“ゲーム知識”と、“古参ゲーマーならではのこだわり”だ。セガやファミコン時代のネタを織り交ぜながら、かつての冒険を語る姿にファンは共感する。一方で、“ツンデレ”という概念を知らずにエルフの恋心をスルーしてしまうなど、時代とのズレもポイントだ。この“ズレ”と“知識の深さ”のバランスが、笑いと哀愁を同時に生み出しているといえるであろう。おじさんが持つノスタルジーとネット時代の自己表現が重なり合うことで、現代的な“おじさんヒーロー像”を再定義しているのだ。


『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』は、タイトルからしてふざけているようで、この作品は意外に真面目だ。ひょんなことから息子の友人であるゲイの青年と友達になり、昭和のおっさんの価値観がアップデートされていく。主人公は、かわいいものが好きということに気づくなど、読者は笑いながらも不思議と勇気をもらう。こうでなくてはという固定観念が変わっていく様は、現代社会に疲れた人々の共感を呼んでいる。SNSでは「このおっさん、意外と哲学的」「パンツ論が深い」といったコメントも並び、作品のシュールさと誠実さが共存している。


おっさん=ヒーローの再定義

 現在人気を博している『昼メシの流儀』の野原ひろしは、派手な戦闘も魔法も使わない。それでも彼が“かっこいい”と感じられるのは、現代人が「日常を生き抜く力」にヒーロー性を見出し始めているからかもしれない。SNSでも「誰より現実的なヒーロー」「疲れた夜に見ると救われる」といった声が絶えない。


 そしてこの“日常のヒーロー”像を象徴するもう一つの作品が、2025年10月4日にアニメ放送が開始された『東島丹三郎は仮面ライダーになりたい』だ。40歳を過ぎても「仮面ライダーになりたい」という夢を捨てきれない男・丹三郎が、“偽ショッカー事件”に巻き込まれていく。「夢を追い続けるおっさん」の姿が再び注目を集めることとなる。主人公の東島丹三郎もまた、“年齢を言い訳にしないヒーロー”の象徴だ。若さの勢いではなく、経験と信念で立ち上がる。それこそが、いま多くの人が求めている“現代のおっさんヒーロー像”なのかもしれない。


日常のなかにドラマがある

“おっさん主人公ブーム”は、単なるネタではなく、「年齢を重ねることの意味」と「生きることのリアル」を描く潮流だ。仕事、家庭、孤独、昼メシ――。どんなに小さな出来事の中にも、人生の選択とドラマがある。野原ひろしのように、日々の昼食に流儀を見出すこと。それは、平凡な日常を誇りに変えるひとつの方法なのだ。それは、すべての人が自分の流儀で生きることを肯定する時代でもある。今日のランチをどうするか。それこそが、今いちばんリアルな物語なのかもしれない。



このニュースに関するつぶやき

  • 私好みのおっさん全然出てこないと文句言ってたら旦那に「母ちゃんが好きなのはもはや初老か老人だからね」と言われてしまった。
    • イイネ!10
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