限定公開( 7 )
39年ぶりに、あの奇妙で破天荒な5人が帰ってくる。テレビアニメ『ハイスクール!奇面組』の完全新作が制作され、フジテレビ系の深夜アニメ枠「ノイタミナ」(毎週金曜23:30〜)で2026年1月から放送されることが発表された。
【画像】『チェンソーマン』藤本タツキが描き下ろしたifのデンジとレゼ
原作漫画『ハイスクール!奇面組』は、新沢基栄が1980年に「週刊少年ジャンプ」で連載を開始した『3年奇面組』を前身とする。1982年から高校編に突入し、1987年まで連載された。“奇面フラッシュ”などのギャグが人気を呼び、1985年にアニメ化されると、平均視聴率19.2%、最高視聴率24.3%を記録するなど、当時のジャンプ黄金期を支えた大ヒット作となった。1986年には映画化もされ、アイドルデュオ「うしろゆびさされ組」による主題歌も社会現象に。まさに、ギャグ・音楽・青春のすべてが詰まった“昭和カルチャーの象徴”だったといえる。
新作では、一堂零役を関智一、冷越豪役を武内駿輔、出瀬潔役を松岡禎丞、大間仁役を小林千晃、物星大役を戸谷菊之介が担当。ヒロインの河川唯役に白石晴香、宇留千絵役に長谷川育美という新キャストが集結。監督は、映画『かくかくしかじか』や多くのアーティストMVを手がけた関和亮。アニメーション制作は「セブン」が担当し、オープニング曲には旧作で使用された「うしろゆびさされ組」を唯と千絵のキャラクターが現代風にカバーするという。
物語の中心となるのは、顔も性格も奇抜な5人組「奇面組」。彼らは“ブサイク”であることを嘆くどころか、むしろ「世の中の歯車となるより、世の中を味付けする調味料になろう」と堂々と掲げる。奇面組のメンバーは、それぞれ強烈な個性を持ちながらも、自分らしさを誇りにして生きており、見た目や性格の違いを笑いに変え、劣等感すら明るさで包み込む。その価値観は連載当時、異例のポジティブさを放っていた。
|
|
80年代の少年漫画といえば、スポ根やバトルのような「強さ」や「勝利」がテーマの中心にあった時代。そんな中で、奇面組は“外見的なマイノリティ”を笑いながらも肯定するという方向性を打ち出した点で、後年の「ルッキズム(外見至上主義)」や「ジェンダーレス」など、現代的な価値観を先取りしていたとも言える。
奇面組のギャグの中には「人の見た目を笑う」という構造がありつつも、その裏には「どんなに変でも、自分を卑下せずに生きる」姿勢がある。実際、主要キャラクターの多くは不器用ながらも友情や恋愛に真っすぐであり、その“人間臭さ”が長く愛される理由でもあった。
一方で、現代的な課題も見逃せない。作品には容姿や名前の“いじり”を含むネタも多く、一堂の“変態力”、出瀬の“スケベ”という個性は近年のポリティカル・コレクトネス(ポリコレ)やコンプライアンスの観点から「そのままの形では難しいのでは」という懸念も。原作では「変な顔」「奇抜な性格」が笑いの起点となる場面が多いが、それを時代錯誤と受け取る視聴者も出てくる可能性は否めない。
SNS上でも「原作の破天荒な展開を今のテレビでどこまでやれるか」「当時だから許された表現が今ではアウトになりそう」といった意見や、「正直あの当時だからウケたと思う」「令和の初視聴組にどこまで響くのか」といった不安要素も指摘されている。
とはいえ、誰もが「変」であることを受け入れ、笑いながら共存していく姿を描いた原作の精神は、むしろ「多様性の尊重」が叫ばれる今だからこそ響くものがある。
|
|
原作者の新沢基栄氏も、「時代設定や声優さんが変わり、新しい映像になった『奇面組』が、原作や前のアニメを全く知らない若い人たちにどのように見られるのか楽しみです」とコメント。過去を懐かしむだけでなく、新しい世代に“奇面組的価値観”をどう伝えるかという挑戦が、このリメイクの核心にある。
SNS文化やジェンダー論が発達した令和において、奇面組の笑いは決して無条件に通用するわけではないが、ティザービジュアルに描かれたスマホの中から奇面組がこちらをのぞき込む姿は、かつての昭和的ギャグと令和のネット文化を象徴的に結びつけている。
時を超えて再び幕を開けるあの破天荒な青春――奇面組の「奇」は、“奇抜であることを誇る自由”の象徴だったのかもしれない。
(文=蒼影コウ)
|
|
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 realsound.jp 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。