山林に出没したクマ=12日、岩手県葛巻町(同町提供) 各地でクマの出没や人的被害が相次ぐ中、紅葉が本格的に見頃を迎え始めた。登山やハイキングで山や森を訪れる人も多いとみられ、自治体などは被害防止のため「ラジオなど音を発するものを携帯し、クマの行動が活発な朝や夕方を避けて」と呼び掛けている。
環境省によると、2025年度のクマによる死者は、統計がある06年度以降で最多の計9人(22日時点)となり、死傷者は100人を超えた。東北地方などではクマが市中心部や公園に次々と出没。餌となるブナの実の凶作が見込まれる上、冬眠前にはクマが活発化するため被害はさらに拡大する恐れが指摘されている。
岩手県では死傷者数は既に30人以上となっている。県は7月、クマによる死者発生を受け県内全域に出していた出没注意報を警報に切り替えた。担当者は「直接的な対策をなかなか打てていない。SNSなどで注意喚起を重ねるしかない」と危機感を募らせる。
日本アルプスを抱え、全国から登山客が集まる長野県でも死傷者は15人(17日時点)に上る。目撃情報も増えていることから、県内の一部地域には出没注意報を発出中といい、県の担当者は「入山にはラジオなど音の出るものを携帯してもらい、行動が活発な朝夕の登山を避けて」と呼び掛ける。
危険は市街地でも。仙台市内の25年度の出没は440件を超え、過去最多だった20年度の431件を更新。今月15日には同市太白区の住宅地付近に出没したクマ1頭を、自治体の判断に基づき市街地で発砲できる「緊急銃猟」制度を適用して駆除した。市の担当者は「市街地だから安全とは思わず出没数の多い場所は避けて」と訴える。
兵庫県立大の横山真弓教授(野生動物管理学)は「東北や中部地方などでは個体数が増加し、山の中でもクマ同士で餌の取り合いになっている。遭遇すると積極的に襲ってくる危険な状況だ」と指摘。「登山や山菜採りではクマ撃退スプレーなどの対策グッズを用意し、複数人で行動してほしい」と注意を促している。

山林に出没した2頭のクマ=11日、岩手県葛巻町(同町提供)