奈良県警奈良西署を出る山上徹也被告(右)=2022年7月10日、奈良市 奈良市で2022年、参院選の応援演説中だった安倍晋三元首相を手製銃で殺害したとして、殺人罪などに問われた山上徹也被告(45)の裁判員裁判が28日、奈良地裁で始まる。弁護側は殺人罪について認める一方、事件の背景に世界平和統一家庭連合(旧統一教会)による「宗教被害」があったと訴える方針。社会に大きな衝撃を与えた事件は、刑の重さが主な争点になりそうだ。
関係者によると、被告が4歳の時、父が自殺。その後、教団に入信した母が約1億円を献金し、自己破産した。被告は大学進学を断念し、生活に困窮する兄と妹に死亡保険金を渡そうと、自殺未遂を起こしたこともあった。
裁判では、弁護側証人として、母や妹が出廷し、こうした経緯を証言する見通し。また、全国霊感商法対策弁護士連絡会の弁護士や宗教学者も証人採用されており、旧統一教会による霊感商法や多額の献金被害の実態などを証言するとみられる。
一方、検察側は、旧統一教会が事件に与えた影響を過大視すべきではなく、犯行そのものの悪質性を重視すべきだと主張する方針。検察側証人として、応援演説を受けていた参院議員や警備に関わった警察官のほか、手製銃を鑑定した警察職員らが出廷し、銃撃時の様子や手製銃の威力などを証言する。
被告は20年12月から事件を起こすまでの間、自宅で手製銃6丁を製造したとする武器等製造法違反罪などにも問われている。手製銃の法律上での位置付けについても争点となる見通しだ。
裁判では、被告人質問が5日間にわたり実施される。旧統一教会に「恨みがあった」という被告は、新型コロナ禍で教団幹部への襲撃を断念し、標的を安倍氏に変更したとされる。なぜ安倍氏を狙ったのか、被告自身が法廷でどのように説明するかが焦点となる。
あるベテラン裁判官は「殺人罪の量刑を決める上で、動機の解明は重要だ。今回の動機は珍しく、裁判員は専門家の証言も考慮して判断することになるだろう」と話す。
公判期日は予備日を含め19回指定されており、29日から証人尋問、11月20日から被告人質問が行われ、12月18日に結審。判決は来年1月21日に言い渡される予定だ。