限定公開( 17 )

教科書で見た「鍵穴古墳」(前方後円墳)を地上100メートルから見下ろす――。世界遺産「仁徳天皇陵古墳」を気球で見る「おおさか堺バルーン」が大阪・堺市の大仙公園で始まった。10月7日に運行を開始し、11月17日時点で累計9716人が搭乗。平日も予約が埋まるなど、好調が続いている。
おおさか堺バルーンは、フランス・AEROPHILE社製の直径23メートルのヘリウムガス気球で、1回のフライトは約15分間。地上100メートルまで上昇し、世界文化遺産「百舌鳥・古市古墳群」(もず・ふるいちこふんぐん)を一望できる。
定員上限は30人だが、風の状態によって変動するため、通常15人前後で運行している。営業時間は午前10時から午後6時まで。料金は大人4200円、子ども3000円で、堺市民割引や予約割引もある。
運営はアウトドア事業を展開するクロスプロジェクトグループのアドバンス(兵庫県豊岡市)が行い、堺市と連携して進めている。同事業が生まれたきっかけは、2019年に百舌鳥・古市古墳群が世界遺産に登録されたことだ。
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中でも仁徳天皇陵古墳は、全長486メートルの世界最大級の墳墓(ふんぼ)だが、地上から全体像を確認できない。周辺には見学デッキや高台もなく、世界遺産としての価値が伝わりづらいという課題があった。そこで、韓国・水原市の世界遺産「水原華城(スウォンファソン)」をヘリウムガス気球で楽しむ観光体験を参考にして企画を進めた。
ヘリウムガス気球は、熱気球より飛行できる風速条件が広めで、エンジン音がなく、CO2排出もゼロ。一度に乗せられる輸送力も高い。
「静かさや環境負荷の低さ、安定した輸送力を考えると、ヘリウムガス気球以外の選択肢はなかった」と運営責任者の樋口正樹氏は語る。11月16日には、これまでで最多となる600人が搭乗した。
●運行開始まで6年を要した
構想から運行開始まで、約6年の歳月をかけた。アドバンスには熱気球の運行実績はあったが、ヘリウムガス気球を扱うのは初めてだった。「調達先のサプライヤーも全く違った」と樋口氏は振り返る。
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サプライヤーは、気球の本場であるフランス。言語の壁もあったほか、コロナ禍も重なり、技術者の渡航も難しかった。さらに、日本はヘリウムを生産しておらず、すべてを輸入に頼っている。ロシア・ウクライナ戦争によるヘリウムガス供給網の混乱や価格高騰なども影響し、運行開始にまで時間を要した。
その後、2023年5月に運行を開始する予定だったが、ガス漏れトラブルで延期。対策と改善を重ね、2025年10月にようやく運行開始にこぎつけた。
開始後は、想定以上の反応があった。予約は10日前から受け付けているが、平日も埋まる状況が続いており、筆者が現地に向かった日も当日枠に並ぶ行列が確認できた。
これまで風や雨で運休となったのは、3割程度。樋口氏は「想定の範囲内」と語る。運行エリアの過去10数年分の気象データから「これくらいは飛ばせるだろう」と見込んでいた想定よりも、実際には多く運航できているという。
●「見る手段がなかった」課題を解決
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好調の要因は、教科書でもおなじみの世界最大級の墳墓を上空から全体を見渡せることだ。
さらに、国内でヘリウムガス気球が飛ぶのは、樋口氏によると沖縄のテーマパーク「ジャングリア」と「おおさか堺バルーン」だけだという。希少性に加え、巨大な白い球体はひときわ目を引き、SNSでの拡散が広がっている。
「広告費はほとんどかけていない。口コミとメディア報道だけで広がっている」と樋口氏は語る。来場者の居住地を見ると、堺市民が約45%を占めるが、大阪府内(堺市外)が約29%、近畿圏が約15%と、近隣エリアからの集客に広がりを見せている。
利用者からは「生きているうちに見たかった」「想像以上に良かった」といった声が寄せられ、Googleの口コミは200件近くに達し、リピーターも出始めている。
筆者も試乗したが、離着陸時の揺れはわずかで、上空では安定している。気球は飛行中に位置を変えるため、古墳を中心に堺市の景観を多角的に観察できる。天候次第では、大阪・関西万博の大屋根リングも視認可能だ(11月19日現在)。
●夜間営業も視野
年間搭乗者数の目標は6万人だが、11月時点のペースから見ると、大幅に上回る可能性がある。一方で課題となっているのが、需要に供給が追いついていないことだ。「観光事業は、需要をどう喚起するかが課題となるが、今回はむしろ供給がネックになっている。飛びたい人より飛べる人数のほうが少ない」(樋口氏)
そこで、今後は営業時間を午後9時まで延ばす夜間運行も視野に入れており、堺市も前向きな姿勢を示している。夜間の古墳群や夜景を楽しめるようになれば、さらなる集客が見込める。
海外の気球では広告掲載も一般的だが、堺市では世界遺産に隣接するため、現在は認められていない。樋口氏は「気球事業は本来、広告が収益の中心。企業からの引き合いもあり、他エリアでの運行も含めて可能性を探っていきたい」と語る。
開始直後から予約が埋まり、平日も希望者が絶えない状況は、この都市型観光にまだ伸びしろがあることを感じさせる。
(カワブチカズキ)
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「気球から眺める古墳」が好調(写真:ITmedia ビジネスオンライン)52

「気球から眺める古墳」が好調(写真:ITmedia ビジネスオンライン)52